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友人は隣国の公爵令嬢
しおりを挟む15歳になった貴族の子供達が通う王立学院。条件を満たせば、平民も特待生として通える此処は今年から私の最大の試練場となる。
私にはやらないといけない事がある。
「おはようございます、フィオーレ様」
「おはようございます、アクア様」
海を思わせる青い髪と瞳の彼女はアクアリーナ=ノーラント侯爵令嬢。昔から私に突っかかってくる人で苦手な相手である。
「あら? 今日から、フィオーレ様の妹君は新入生でしょう? 一緒に登校しなかったのかしら」
「ええ。妹は後から来ます。父と母が学生になった妹を見て感極まっていまして」
「そうなの」
嫌味たらしくエルミナと距離を置いてることを告げてくる彼女に苛立ちながらも、決して感情を見せず、淡々と話をする。私の反応が面白くないからか、興味をなくしたからか、最後に「ふん」と鼻を鳴らして去って行った。
何だったのか。
「あ……」
私の目にある人が映った。
紫がかった少し長い黒髪を耳にかけ、眠そうに小さな欠伸を漏らしたその人の青水晶の瞳がこっちへ向いた。見ていると気付かれたくなくて、慌てて逸らし、平然とした態度で前を通った。その際、会釈は忘れず。
うるさいくらい高鳴る心臓のせいで息がしづらい。校舎内に入ってやっと体から力を抜いた。朝から彼に会えた、目が合っていたら私は魅了され動けなかっただろう。
「リアン様……」
ロードクロサイト公爵家の長男リアン様。
私の……幼い頃からの片想い相手。
――そして、エルミナの運命の人。
入学当初から何度も見るようになった夢。私がエルミナを虐げ続けた末に、リアン様に断罪され、父や義母から伯爵家を追放されてしまう。
エーデルシュタイン家には、代々『予知夢』を視る者が生まれると言い伝えられていた。同じ時代に2人いる時もあれば、数十年、長くて数百年生まれない時もあるとか。私が『予知夢』を持つと知るのはお祖母様だけ。お父様やお義母様、エルミナには話していない。
能力が発動したのは、皮肉にも私とエルミナが異母姉妹だと知った翌日だった。その時の内容は【執事が梯子に乗って本を取ろうとした瞬間、誤って落下して命を落とす】という人命に関わるものだった。跡取り教育で受けたことで既に『予知夢』を知っていたとはいえ、まさか自分とは思わなかった。
執事が取ろうとしていた本は父に頼まれた物で、梯子を使おうとした際声を掛けた。梯子から落下したのは梯子に問題があったのではと疑問を抱いていた私は、何も知らない振りをして使ったら危ないと執事に迫った。
困ったように苦笑されながらも、梯子を確認した執事の顔色が変わった。脚の部分が意図的に折れやすいように細工をされていた。
本当に使っていたら、執事は落下して命を落としていた。恐ろしい事実に震えが止まらなかった。私が声を掛けなかったら、今頃落ちて只では済まなかったと何度も感謝をされた。父にも感謝された。
私の『予知夢』は本物。
跡取りにはなれない私が……。
「はあ……」
「溜め息を吐いてどうしたの?」
昔のことを思い出しながら教室に入った私を、顰めっ面が迎えた。
「アウテリート様」
腰まである長い銀髪をリボンで緩く縛った様は狼の尻尾みたいだと、出会った当初抱いた印象。長い睫毛で覆われた青緑の瞳には呆れが濃く映っている。
「いえ……今年最終学年になり、長かったのか短かったのか分からないなと」
「そんなものではなくて? あたしの母もよく言っていたわ。3年生になると案外短い学生生活だったと」
1年生の時は、これから始まる学生生活にワクワクしたものだ。誰と仲良くなれるか、どんな授業が待っているのか、と様々な事に期待を抱き、胸を躍らせた。
席は好きに座っていいので私とアウテリート様は隣同士、最後列に座った。
「アウテリート様は卒業したらご実家へ戻られるのですよね?」
「ええ。年に2度あるホリデーになったら帰るのに毎週父から何時帰ってくるのだと手紙が届くの。後1年待っていてほしいわ」
「確か、アウテリート様は兄君や弟君が1人ずついらっしゃいましたよね? 娘がアウテリート様だけだから、心配されているのですよ」
「にしても過保護だわ。あたしは母国の女侯爵様のような、強く立派な女になるのが目標なのに」
隣国の公爵令嬢であるアウテリート様と恐れ多くも友人という立場を築けたのは、とある人が関係している。その方とは私達が入学したての頃、王都にある教会で出会った。
物腰穏やかで、時にお茶目な男性で、悩みを持って訪れた私の話を最後まで聞いてくれた。
その方の助言を元に行動をしていくと驚く程に上手くいった。
アウテリート様と会ったのもその方が会わせてくれたから。2人はきっと相性がいいよ、と慈愛に満ちた笑みで告げられるも最初は戸惑った。相手は隣国の公爵令嬢。それも、先王妃を大伯母に持つ、高貴なる血筋の方。
今では互いに軽口を叩ける間柄なので世の中何が起きるか不思議だ。
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