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婚約者はまだいない
しおりを挟む入学式当日、在校生徒はいつも通りの時間に登校し、開始の前に講堂へ行き新入生入場を待つ。続々と生徒達が教室に入ってくる。すると、廊下から黄色い声が響いた。呆れ顔のアウテリート様は「クラス替えがないのが唯一の不満だわ」と零されて、私は苦笑した。
王太子殿下とリアン様が一緒に入られた。2人は幼馴染で入学当初からよく一緒にいるのを何度も見掛けている。私はリアン様と同じ空間にいられるだけで幸せだ。取り巻き達の子のように近付けない、声なんて掛けられない。緊張が優って顔が強張ってしまう。
「殿下やリアン様も大変ね。毎日毎日」
「特に今年からは激しさが増しそうですよね」
気軽に彼等と会えるのは今年だけ。卒業すれば、それぞれの地位に立つ者としての役割を熟す日々がやってくる。
「後、まだ婚約者がいないのも追っかけられている原因の1つでしょうね」
「アウテリート様は殿下やロードクロサイト様との縁談話は来ないのですか?」
「1度、王太子殿下との婚約の話は持ち上がったわ。でも断ってもらったわ。あたしの大伯母は、隣国の先王妃だったけれど、決して良い王妃とは言えなかった人だもの。それに、あたしには好きな人がいるもの」
「そうでしたね」
アウテリート様には想い人がいる。私と違って両想いで卒業後はその方と一緒になるのだとか。正式な婚約は卒業後になるらしい。羨ましくて、ちょっと寂しい。好きな人と結ばれる彼女が。でもしょうがない。想い人まで自分を好きだなんて奇跡そうそうない。
「ただちょっと心配なのよ。あの方、何かあれば妹君の話ばかり。決して悪い方ではないのだけれど……、妹君にも会うといつも謝られるの」
「あ……はは……それは……大変ですね」
偶に聞く隣国の話は楽しく、他では聞けないので一句一句逃さないよう真剣に耳を傾けていると不意に強い視線を感じた。一瞬だったので周囲に目を向けても誰も見ていない。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもありません。そうだ、アウテリート様。今日の終わり、一緒に教会へ行きませんか?」
「良いわね。でもごめんなさい。今日は先約があるの」
「そうですか……」
「おじ様にはよろしく言っておいて」
「はい」
1人で行くのは寂しいが先約が大事だ。今度は必ず一緒に行こうと約束したところで教師が教室に入った。
簡単な挨拶を済ませた後、私達は入学式出席の為講堂へ向かった。
……教室で感じた視線をずっと背中に感じたまま。
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