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『予知夢』〜あなたには分からない〜
しおりを挟む冷たい石床。
無音の空間に響いた、水滴の落ちた音。
小さな窓から見える月の光だけが、牢獄を照らす。
――ああ……これは……『予知夢』ね……
私は鉄格子の向こうにいる“未来の私”をぼんやりと眺めていた。青みがかった銀髪は何日も洗われていないせいでベタつき、肌も薄汚れていた。嗅覚も明確だったら、臭いもしただろう。
外から靴音が近付く。門の前にいる警備兵と誰かが会話を交わし、重厚な扉がゆっくりと開かれた。フィオーレの光のない紫紺色の瞳は、救いのない夜を連想させた。終わりのない夜は永遠に朝を受け入れない。キャンドルを持って現れたその人はリアン様。軽蔑と怒りを青水晶の瞳に宿しながらも、表情からでは真意は伺えない。
『フィオーレ=エーデルシュタイン』
感情が宿っていないリアン様の声で伏せていた顔を上げた“未来の私”
『君の今後が決まった。エルミナを害そうとした君を伯爵夫妻は、一切擁護しないと断言した。君は廃嫡になり、北の鉱山送りとなった』
『…………そうですか』
重い罪を犯した罪人が送られる流刑地の1つ。極寒の地で採れもしない鉱石を劣悪な環境で探せられ、食事も1日1回、怪我や病気になってもまともな手当も受けられず死んでいく地獄の流刑地。送られて生きて戻った人はまずいないと聞く。実質上の死刑。
死刑を宣告されたも同然なのに“未来の私”は動揺しなかった。光のない瞳にリアン様は映ってない。
『……言いたい事があれば聞こう』
『結構ですわ。私とて伯爵令嬢。最後くらい、潔く受け入れます』
『……その潔さがあるのに、何故エルミナを……』
『……周囲に大事に育てられたあなたやエルミナに、私の気持ちなんて永遠に分かりませんわ。カンデラリア公爵家の血を引くエルミナとロードクロサイト公爵家の血を引くあなた。お似合いのカップルですわね』
『……伯爵夫妻は、君もエルミナも平等に愛していたと話していた』
『は……』
冷たく、憎しみの籠められた瞳でリアン様を見上げるのが『予知夢』の中であろうと、自分なのは嫌な気分だ。
『“愛していた気になっていた”だけ、ですわ。他人のあなたも大事にされていたエルミナは知らないでしょう……あの両親が、陰で跡取りはエルミナがいいと何度も嘆いて事を』
『!』
『お母様と一緒に死んでいれば良かったのに、そうしたら問題なくエルミナが跡取りになれたのに。……夜中にそうやって嘆くあの2人を何度も見て、挙句、周囲にもエルミナに跡取りの座を譲れと強要されていた私の気持ちなんて……大事に守ってもらっていただけのあなたやエルミナに何が分かりますの?』
きっと……分からないだろう……。いいや、リアン様やエルミナ以外でも分かる人はいない。『予知夢』の的中率は高い。私が家から出たいのは、的中率もある。
……でも……本当は……
『フィオーレ……俺は……』
『……馬鹿な話をしてしまいましたね。さあ、もう帰って下さい。私はやっとあの家から解放されるのです。あの2人からもエルミナからも周囲からも解放されて――自由になるのです』
『それは死ななければ得られない自由なのかっ?』
『言ったでしょう? 大事にされてきたあなたには何も分からないと。分かってもらおうとも思っていません。さあ、早く帰って。そして2度とその目障りな顔を見せないで』
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