思い込み、勘違いも、程々に。

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ブロッコリーを刺したまま固まったお父様

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 目障りだなんて嘘だ。『予知夢』の中の私もリアン様が好き。憎まれ口を叩き、話すことはないと後ろを向いた“未来の私”はリアン様が何を言っても聞く耳を持たなかった。
 フィオーレ、フィオーレ、と何度も切羽詰まった声色で呼ばれても、振り返ろうとしない。


『……明日も来る』
『迷惑です』
『……』


 キッパリと言い切られ、項垂れて帰って行くリアン様。彼がいなくなると扉は再び閉められた。



「――……リアン、様……」


 目を覚ましたと同時に起きている異変。頬が擽ったい。触れてみると濡れていた。枕に顔を押し付け、『予知夢』の余韻を消そうと顔を擦り付けた。最後出て行くリアン様の後ろ姿が焼き付いて離れない。項垂れ、寂しげに出て行った彼はどんな気持ちで牢獄を訪れたのだろう。
 私はあの『予知夢』で知ってしまった。リアン様はエルミナが好きで、お父様とお義母様が本心ではエルミナを跡取りをと望んでいながら私を跡取りとして育てていたのは、2人を婚約させる為だと。

『予知夢』は別れの時まで私に視せつけた。
 護送用の馬車に乗り込む私を見送ったのは家族だった人達。傷付けてきた私を最後までお姉様と呼んで、駆け寄ろうとする彼女を引き止めているのはお父様とお義母様。私はその2人に向かって最後とばかりに言いたい事を言った。


『あなた達の言う通りでしたわね。私はお母さんが死んだ時一緒に死ねば良かったのです。そうしたら、こんな下らない騒ぎを起こさずに済んだのに』


 晴れ晴れとし、思い残すことがなくなった人間の最後を悟った気持ちは『予知夢』でもリアルに私に流れ込み、嫌でも実感させられる。私は置いてもらっているだけの娘。あの2人が真に望むのはエルミナ。馬車に乗り込んだから、最後2人がどんな反応をしたのか、エルミナが何をしたかと私には分からない。
 お母さんと呼んだのは、おかあさまだと言い方が被ってしまうから。庶民が使う母親の呼び方はちょっとだけ憧れていたから、最後の最後で呼べて満足だろう。

 その後は北の鉱山まで送り届けられたのか、途中で死んだかは不明。何度か先を視ようと試みたが眩しい光に阻まれて見れなかった。


「さあ、先に起きて顔を洗いましょう」


 泣いた顔を侍女に見られてしまえば心配される。

 時間になって侍女が起こしに部屋に訪れた。泣いていたのを悟られまいと早めに起きて涙を拭った甲斐あってバレなかった。


「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
「本日から、エルミナお嬢様と登校するようにと旦那様が」
「分かったわ」


 やっぱりそうよね……、社交界では私達の不仲は知られていない。姉妹が別々の馬車で登校だなんてやはり外聞が悪い。昨日は入学式だったから言い訳は出来たけれど、今日からはそうはいかない。私が一緒にいた方がエルミナに何かあった時対処出来るのもあるのだろう。侍女に支度を手伝ってもらい、皆が待つ食堂に足を運んだ。席には既に3人が座って待っていた。それぞれに朝の挨拶をし、食事を始めた。
 昨夜トロント様が訪れた話は夕食でも今朝の朝食でも出なかった。最初からいなかった扱いになり、話題は入学式が中心。早速友達が作れたと喜ぶエルミナに安堵するお父様とお義母様の姿を一瞥し、黙々と食事を進める私に隣から微かに緊張した声が飛んでくる。


「お、お姉様はご昼食は誰と食べているのですか?」
「アウテリート様とご一緒させて頂いているわ」
「そうですか……ど、どんなお話をされますか?」


 普段話さないのに今朝は積極的なエルミナを不思議に思うも、意図は瞬時に察した。隣国の公爵令嬢であり、先王妃を大伯母に持つアウテリート様と交流を持ちたいのだろう。とはいえ、いきなり1年生が3年生と親しくするのは幼少期から付き合いがあるくらい。現時点での2人は友人の妹と異母姉の友人という立場。リアン様だけじゃなく、アウテリート様との交流作りの切っ掛けを作らないととなると大変だ。


「街のカフェや流行り、隣国の話かしらね。後は大教会にもよく行くわ」
「大教会?」


 今朝は本当に珍しい。お父様まで入ってきた。


「フィオーレは教会に行っているのかい?」
「はい」
「親しい人でもいるのかな?」
「はい。色んな話をしてくださる方でして。アウテリート様とよく放課後、その方に会いに行って話を聞いているのです」
「アウテリート嬢と言うと隣国のグランレオド公爵家のご令嬢だったな……。…………教会…………」
「お父様?」


 フォークにブロッコリーを刺したまま、小さな声で呟き動かなくなったお父様。心配と安堵の様子を見せていたお義母様も少々難しいお顔をされ始めた。どうしたのだろう。


「……その、話をして下さる方の名前は?」
「オーリー様です」


 私が入学当初から大教会でお世話になっているオーリー様は、隣国の隠居貴族とあり、この国の貴族の方とも知り合いなんだとか。お父様やお義母様が知っててもおかしくはないし、誤魔化す方でもないから素直にオーリー様の名前を出した。
 ――瞬間、ブロッコリーを口元まで手を上げたお父様の動きが完全に止まった。石化したと表現でもいい。


「お……お父様……」


 異様な光景に思わずお父様と強めに呼んでみるも反応はなかった。お義母様が立ち上がって私とエルミナに言う。


「旦那様はいいから、2人はもう行きなさい。そろそろ時間でしょう?」
「ですが……」


 私が言い募ろうとするもお義母様は首を振られた。


「大丈夫。衝撃が強すぎて固まっただけよ。時間が経てば元に戻るから」
「本当ですか? お母様」
「ええ。……ああ、フィオーレ。1つだけ聞かせて」
「はい」
「オーリー様とはどんな話をするの?」
「ええっと、紅茶の話だったり、スイーツの話だったり。ああ、アウテリート様と同じで隣国のお話もしてくれます」
「……そう……ありがとう」


 怪訝を抱きつつも、私とエルミナは食堂を出た。オーリー様を知っているなら、あの方が隣国の隠居貴族だと知っていてもおかしくないのにどうしたのだろう。

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