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嫉妬と嫌がらせ③
しおりを挟むお義母様と話した後、また眠ってしまった私が目を覚ますと外はまだ暗かった。喉の渇きはまだまだ健在で、ベッドサイドテーブルに置かれている水差しを手に取り、逆さまに置かれているグラスを持って注いだ。一杯に注いだ水を一気に飲み干した。これでかなり渇きはマシになった。
静かな夜の世界、人の気配がまるで感じられない。予想では今の時刻は夜中。外の空気を吸いたくなってテラスに出た。濃紺色の空に黄金に輝くお月様が綺麗だなあ、とぼんやり見上げていると「フィオーレ……?」と吃驚した声が届いた。驚いて視線を横へ向ければ、隣のテラスには上着を脱いでシャツを着崩しているリアン様がいた。
夜の挨拶、体調の心配、色々と言う事はある筈なのにリアン様を前にすると何も言えず、俯いてしまった。夜だからあまり見えないだろうが今の私の顔はとても真っ赤だ。自分でも熱いと感じられる程、顔は真っ赤に染まっている。
……リアン様に抱かれている記憶はある。リアン様が私を抱いた記憶があるか分からない。無いなら言うつもりはないし、責めるつもりもない。あの時は仕方なかった。そして、拒まず受け入れたのは私自身。リアン様に抱かれて嫌だと思わなかった。どうせ、結婚出来ない身になるのなら好きな人に抱いてもらえて良かったんだ。
リアン様が私を抱いた事を覚えているなら、気にしないで、ワインに盛られた薬のせいだと言えばいい。
私が顔を上げた時、隣のテラスにリアン様はいなかった。部屋に戻られたのだと思ったら、後ろから誰かに抱き締められた。驚いて声が出そうになるも、抱き締められた時に舞った香りが誰の物か直ぐに分かった。
「リアン、様……」
「フィオーレ……」
一緒だ……私を抱いていたリアン様は、熱が籠った切ない声で私の名前を何度も呼んでいた。その度に私はリアン様を呼んだ。
お腹に回った腕に手を乗せた。抱き締める力が少し強くなった。
暖かい……外見からでは分かり難いけどリアン様の体は細身だけど男性らしい引き締まっていて、背に手を回した時は私の手は重ならなかった。
「……体の調子は?」
「平気です……」
「そうか……」
「あの……リアン様……リアン様は……」
聞くべき、なのだろうか。もしも、覚えていなかったら……。
「……俺は君を抱いた」
「!」
「君も覚えているんだろう?」
「……はい」
なら、私が言うべき事は1つだけ。
「リアン様……この事は秘密にして頂けませんか。責任は取って頂かなくて構いません。私は――!?」
急にお腹に回っていた腕に力を強く込められ、声を上げる前に室内に引き摺り込まれた。さっきまで寝ていた寝台に寝かされ、起き上がろうとしたのを上から覆い被さったリアン様に押さえられた。
「秘密……? 何故? 未婚の令嬢の純潔を奪ったんだ。どんな理由があるにせよ、責任を取る必要はある」
「い、良いんです、あの時は仕方のなかった事ですからっ。リアン様は気にしないで、ください」
「……誰なんだ」
「え……」
「前に言っていただろう。好きな人がいると。君の好きな人とやらは、君が生娘じゃなくても受け入れる心の広い相手なんだな」
「そ、れは……」
私の好きな人……今も昔も変わらず、私の好きな人は貴方ですリアン様……。
言えない、言えないの。『予知夢』の件、現実との違いを知る迄。……ううん、知っても私ではリアン様の側にいられない……。
好意を示してくれたリアン様に嘘を言って拒んだ私に……リアン様の側にいる資格はない。
何も言えないでいると上から溜め息が吐かれた。
リアン様に……呆れられたんだ。
自業自得だ。でもこれで……。
「ん……」
リアン様は離れていく……そう思ったのも束の間、唇に温かいものが触れた。何かと考えるより先に眼前にあるリアン様の顔に驚き、口を開けてしまった。すかさず差し込まれた舌に吃驚するが、頭を撫でられ手を握られて抱かれている時の記憶が蘇った。
初めてで痛がる私にリアン様はこうやってキスをしてくれた。手を握ったら強く握り返された。
優しくて激しいキスに溺れているとリアン様は唇を離し、呼吸を整える私を見ながら苦し気に言葉を紡いだ。
「好きな人がいると言うわりに……君は俺を拒まないな……」
「はあ、あ……」
「フィオーレ……俺を嫌いになったらいい……」
自身のシャツのボタンを乱暴に外して前をはだけ、私のドレスに手を掛けた。慣れた手付きで脱がされ、一糸纏わない姿にされても私に抵抗する意思はない。脱がされている時にもキスをされて抵抗の意思が湧かなかった。
「駄目……リアン、様……」
「言っただろう……俺を嫌いになったらいいと……。今からとことん嫌いにさせてやる」
「や……」
怖い……
体中に這うリアン様の手が、唇が、私の体を馬鹿みたいに敏感にしていく。
――嫌いにさせる、なんて言ったのにリアン様は乱暴に抱いてくれなかった。
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