34 / 44
34話
しおりを挟む茶会での疲れがどっと出て小さな欠伸を漏らしたラヴィニアはベッドに腰掛けた。このまま少し眠ってしまおうかと横になると拗ねた声色が上から降ってきた。
「俺がいるのに寝てしまうの?」
「ううん……欠伸が止まらなくて……すごく眠いの……」
堪えようとするが欠伸が止まらず、これなら一旦眠った方が眠気もマシになるだろうと横になった。隣を叩くとメルも寝転んだ。
「メルは眠くないの?」
「あまり」
「私はこのまま寝る……ふあ……」
言いながらも欠伸が出る。眠たげに小さく口を開き、瞼を閉じて寝の体勢に入った。
「……」
横からメルの視線を感じる。寝顔を見られるのは今更だと言われても恥ずかしい。が、やはり眠気には勝てない。
額に温かい何かが触れた。「おやすみラヴィニア。ゆっくり眠って」とメルの声の後にまた額に何かが触れた。きっとキスをしてくれたのだ。メルの服をギュッと掴み、ラヴィニアは心地良い眠りに就いた。
――次に目を覚ますと空が朱色に染まり掛けていた。
「起きた?」
ぼんやりと瞬きを繰り返していると自分を抱き締めているメルの声が。ゆっくりと顔を上げるとメルの瞳と目が合った。
「メル……」
「どう? 眠れた?」
「うん。メルも寝ていたの?」
「ああ。さっき起きたばかりだよ。多分、誰も起こしに来てはないようだ」
又は、二人が寝ているのを見てそのままにしてくれたか。
「二、三時間は寝ていたようね」
「夕食までもう少しだけど、食べるまで寝る?」
「ううん。起きる」
眠たげに手で瞼を擦り、上体を起こした。小さく欠伸をし、横になったままのメルの頬を撫でた。
「ふふ」
「俺の顔を撫でて楽しい?」
「うん。小さい時もこうやって撫でていたでしょう?」
「そうだったかな」
撫でるラヴィニアの手を掴み、膝に頭を乗せたメルに苦笑しながらも髪を撫でると綺麗な瞳に見つめられくすぐったい気持ちとなる。
「ラヴィニア、前に修道院へ行きたいと言っていただろう? 落ち着いたら一緒に行こう」
「うん」
前は修道院へ行きたいと言ったら嫉妬して意地悪な真似をしたのに、今度はメルから提案をされた。不思議に思うがお世話になった院長にお礼を言える、ハリーがいたらハリーにもお礼が言える。
「ラヴィニアの言っていたハリーが誰か分かったから」
「カトレット公爵令息だったのよね。全然知らなかった」
そして、ハリーの方もラヴィニアがキングレイ侯爵令嬢とは気付いていなかった。
「剣の鍛錬にばかり日々を費やしているから、社交にもあまり顔を出さないんだ。母上がお茶会を開く時、カトレット公爵夫人も招かれるが大体ハロルドについて嘆いているよ」
「そうだったの……道理で知らないわけね」
「出席が必要な夜会には出るが基本ハロルドは出ない。だから、ハロルドもラヴィニアを知らなかったんだ」
院長の知り合いの理由も知れた。今度会う時はお互い貴族だ。しっかりと覚えておこうと決めたラヴィニアは体を起こすなり胸に顔を埋めて押し倒したメルの髪を少し引っ張った。
「もうっ、メル」
「今夜、俺の部屋においで」
「駄目、だ、大体公爵夫妻がいるからシルバース家の屋敷では抱かないって言ったのメルだよ」
「そろそろ限界」
「我慢して」
「……」
渋々顔を上げたメルの表情も同じで若干拗ねている。隣に寝転がったメルに頭をキスされ、夕食を呼びに執事が訪れるまで二人はじゃれあった。
――食事の席に来ると既にマリアベルが座っている。が、隣の席には誰もいない。
「母上、父上は?」
「魔法監査室」
「え?」
マリアベルが口にした魔法監査室は、今日フラム大公家を押し込んだ。更に皇帝も入れると言っていたが明日以降だと思っていたとメルが言うとマリアベルも同意した。
「明日にしましょうとは言ったのよ? それでも――」
『面倒事は今日終わらせてくる。明日、変身魔法が解けたプリムローズ様とロディオン様を見せてあげよう』と言い残し魔法監査室へ転移した。
「父上らしい……」
呆れるメルにマリアベルも同意した。
ヴァシリオス不在で夕食を頂きましょう、とマリアベルの言葉を受けラヴィニアとメルは席に着いた。
――魔法監査室ではヴァシリオス以外の面々は呆然としていた。放り込むタイミングは同じがいいとヴァシリオスは敢えてフラム大公家を別室に置いていた。嫌がる皇帝の首根っこを掴み無理矢理魔法監査室に投げた。合図を受けた部下達も次々にフラム大公家を連れて入った。
泣き叫ぶ大公夫人の声を聞き、意味を悟った皇帝はヴァシリオスに泣き叫んだ。
が、彼等への慈悲等持ち合わせていないヴァシリオスは薄い笑みを浮かべたまま変身魔法が解けたプリムローズとロディオンを見つめた。
髪の色も瞳の色も皇帝と同じで、夫人譲りの顔も皇帝の面影を残す顔に変わった。
顔を青ざめ、絶望する夫人と皇帝。
呆然とするフラム大公。
プリムローズとロディオンも鏡で自分の姿を見せられ呆然とした。
「さて、お馬鹿さん達。楽しい夜にしよう」
961
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる