ラヴィニアは逃げられない

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43話

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 調べた結果、娘の父親は愛人宅を管理する執事であった。子供を望む大公と何度肌を重ねても子が宿らないのに焦った愛人は、大公の遠い親戚にあたる執事を誘惑して大公と同じ白髪の娘を儲けた。大公夫人と違って見目そのものを弄ってないが体に流れる血は大公と同じではない。
 結局のところ、三人の子がいても大公と血の繋がった子は一人もいない。感染症に罹った時早くから薬の投与を受けていれば、一人くらいは実子を得られたのかもしれないのに。
 積み上げて来た人生が崩壊し、残ったものは何もない。

 哀れだと抱けても同情はしない。フラム大公がいなくなってホッとしているのも事実だから。


「フラム大公家がいなくなってこれでラヴィニアの不安も少しは消えるかな」
「うん……。ねえメル」
「どうした」
「メルが乗っていた馬車が事故を起こしたでしょう? あれも大公家が関わっていたんじゃないの?」
「勿論調べたよ。予め細工をしてあったのか、単なる事故だったのか」


 調査の結果、馬車の事故は人為的なものではなかった。完全なる整備士の確認不足。馬車の事故で怪我を負ったメルにプリムローズが近付く算段だったのではと、あの時ラヴィニアに扮したプリムローズを追い出した直後から調査した。整備士の確認不足だったと知った時は不要な疲れを感じたのは未だに覚えているとうんざりげに言われ、何とも言えなくなってしまった。
 今頃本物の家族として過ごしている皇帝と大公夫人、ロディオンとプリムローズの現状も連絡があった。皇帝は大公へ泣きながら謝り続ける夫人を慰め続け、未だに現実を受け入れられないロディオンは尊敬していた大公に拒絶された事がトラウマとなったらしく時折その時の光景を思い出しては泣き叫び、プリムローズに至っては今まで本物の兄のように慕っていたエドアルトや恋心を抱いていたメルに自分を救い出すよう見張りにずっと言い続ける始末。全員救いようがない。
 彼等の話はこれで終わりとメルが強制的に話題を変えた。深く聞いたところで全て自業自得の末路なのだから。


「フラム大公家がお取り潰しとなってから、プリムローズ様やロディオン様からの嫌がらせがなくなった以外でも変わった事があるの」


 シルバース邸に行くと感じていた鋭い視線。気のせいかと思いながらも、ずっと視線はラヴィニア一人に向けられ続けた。最後の最後まで正体は分からなかったものの、フラム大公家が無くなったことで視線が消えたのなら繋がりがあったのだ。

 急にメルに抱き締められると上からメルの溜め息が降りた。


「ラヴィニア……どうして一度も言ってくれなかったんだ」
「あ……ごめんなさい。視線を感じていただけで他に何もなかったから」
「だとしてもだ。はあ……ただ、ラヴィニアの言う視線の正体はシルバース家にはもういない」
「え」


 抱き締められたまま詳しく聞くとフラム大公家のお取り潰しが決まってすぐ一人の侍女がマリアベルにより強制退職させられた。


「以前から頻繁に隠れて誰かと連絡を取り合っているのを使用人が見掛けてな。実害が出るまで泳がせる方針にしたんだが……正体はラヴィニアもお察しだ」
「やっぱり……大公家の?」
「ああ」


 フラム大公家お取り潰し決定の明朝、裏口から外へ出ようとしたところを待ち構えていた騎士に拘束され、庭に待っていたマリアベルの前に突き出された。

 自白薬を飲ませた結果、侍女は大公家が送り込んだ密偵。と言っても常に流していたのはメルについての情報のみ。メルの好きなもの、足を運ぶ場所、一日のスケジュール、とにかくメルに関しての情報を流していただけと判明。プリムローズが馬車での事故をいち早く聞きつけ、ラヴィニアに扮してシルバース邸に突撃をかませたのもその侍女のせい。

 シルバース家に関わる重要な情報が外部に漏洩されていなかったのは不幸中の幸い。被害に遭ったのはメルだが、侍女から送られる情報は全てプリムローズが大事に保管していたお陰で此方も外部への漏洩の心配はない。

 話をするメルの目が遠くなっていく。同情をしてしまう。
 件の侍女がラヴィニアを睨むだけで実際に手を出さなくて良かったとメルが抱き締めてくる力が増した。


「これで全部終わった。後はブラッドラビットの出産後のケアをしてから、元いた村に帰すだけだな」
「うん」


 修道院へ出発する三日前、保護したブラッドラビットが出産を迎えた。腕利きの魔獣医師を呼び、半日にも及ぶブラッドラビットの出産は滞りなく終わった。産まれた赤ちゃんウサギは五匹。成猫と同じサイズのウサギの赤ちゃんをラヴィニアやメルは初めて見た。産まれたらすぐに母親の腹に持って行き乳を吸わせ、五匹とも吸い付いていた。
 母体と赤子の様子を見つつ、頃合いを見て村へ帰す。村人達もブラッドラビットが再び戻ることには賛成しており、大昔からの関係を大事にしてきた彼等にとっては朗報。一度人間に酷い目に遭い、村に帰した後村人を襲う懸念が残るが契約はそのままとなるなら理性は保たれる。

 メルの背に腕を回し、嗅ぎ慣れた香りがもっと欲しくて首筋に顔を埋め大きく息を吸い込む。周囲の目を気にせず二人きりになれたのは今が久しぶりでこの時間にずっと浸っていたい。それはメルも同じ気持ちだった。ラヴィニアを抱き締めると耳元に唇を寄せ「……いい?」と囁いた。
 意味をすぐに解したラヴィニアは薄っすらと頬を赤く染め、コクリと頷いた。


 ●○●○●○



 夕食も終え、湯浴みは一緒に入ろうと広い浴槽に二人で浸かった。離宮で生活していた頃では、事後メルがラヴィニアを浴室まで運び体を洗ってくれていた。
 薔薇の花弁が浮かぶ水面に手を入れ、両手でお湯を掬って薔薇の香りを楽しむ。甘い薔薇の香りをもう一度とお湯を掬っていると「ラヴィニア」と後ろに座って抱き締めているメルの声が上から降った。


「気に入った?」
「とっても」
「良かった」
「んっ……」


 腹から乳房まで手を這い上がらせ、下から大きな膨らみを形を変えて揉まれる。メルの掌が敏感な先端に触れ声を漏らした。熱いお湯に浸かっているせいか、いつもより体が熱くなるのが早い。


「薔薇に夢中になるのもいいが俺の相手もして」


 低い声で囁かれるだけではなく耳を舐められ、ぴくんと反応する。胸を揉んでいた手は止まり、硬くなった先端に指先が触れた。
 指の腹で転がされ、摘まれ、爪で引っ掻かれ、時に強く引っ張られて。メルの一つ一つの動作で身体は敏感に反応し、浴室というのもあり声がいつもより響く。
 暫く胸を弄られているとどうしようもなく下腹部が熱くなってきた。触れてほしい場所から滑りを帯びた愛液が出ており、嬌声を上げるラヴィニアは胸を弄るメルの片方の手を秘所に持って行った。


「ここも、触ってっ」
「いいよ」
「んっ!」


 後ろにいるメルの顔は見えなくてもきっと嬉しそうにしている。だって、声がそうだから。
 メルの手から自分の手を離そうとしたが何故か掴まれてしまう。お湯の熱さと徐々に上がって来る体温のせいか頭がぼんやりとしているラヴィニアは疑問にさえ思わない。されるがままにしているとラヴィニアの手を上から掴んだまま、メルが触れたのは秘所。声を上げる前に自分の指とメルの指が中に入った。


「ああっ、あ、メルなにしてっ」
「うん? 自分で触っているように感じるだろ?」
「あっ、あああ……! ひあ……いやあぁ」


 手を退けようとしてもメルの手が覆っているから動かせない。二本の人差し指が入口の近くを擦り、手の動きを止めたくてもメルが上から動かすからされるがまま。メルの片手は勿論胸を弄るのを忘れない。ラヴィニアの手を覆って秘所を触っている間、硬くなったままの胸の先端を指で弄り、声が段々と高くなっていくラヴィニアを眺める。
 不意に目に入った心臓の上に浮かんでいる刻印。胸からそれへ手を触れると甲高い声が上げられた。


「ああ――っ!」


 一気に感度が上がり、悲鳴混じりの嬌声を上げたラヴィニアは達し、メルに体を預けた。お湯に浸かっているのもあって頭がぼうっとしてしまう。秘所から指を抜かれ、手も解放された。
 両脇に手を入れられて立たされると浴槽の淵に手を置いてと言われ、言われるがままにした。頭を低くさせられ、尻を高く突き出す格好が恥ずかしいと訴えるがメルには聞き入れてもらえず。


「ああっ!」
「何度かイかせてから、と思ったけど先に俺が我慢の限界」
「ま、メル、ああう」


 脚を開かされ、昂ぶった塊をゆっくりと、根本まで挿入された。胸を触られている時からメルのソレが大きくなっていたのは知っていた。お尻に当たっていたソレを何時挿れてもらえるかも待っていた。

 いつもはベッドに寝かせられ、メルに体を覆われて動かれるが今日は体勢が異なる。いつもより深く中に進むソレに興奮し、結合部から流れる愛液の量は増えていく。
 メルが動く度に声を上げ、自身も自然と腰を動かしてイい場所に導き、ラヴィニアは与えられる快楽に溺れていった。




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