強い祝福が原因だった

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実父、来る1

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 世間で言えばメルルとダグラスは不貞を犯した。仮令、元は婚約者同士だったとしても。メルルの生家がダグラスの弟との婚約を結び直したのだから、メルルの婚約者は変わった。それでも2人が関係を続けたのは真実……心の底から愛し合っていたからだ。

 叔父と姪の立場でも、少しでもいいから、ガブリエルのように優しく接してほしかった。母が亡くなった後、見せ付けられた3人家族の光景。エイレーネーに見せていたのも、ガブリエルに向ける愛情もどれも本心からくるもので。エイレーネーだって愛されたいと願った。

 渇望するまでに欲しいと抱かないのはイヴの存在が大きい。メルルが亡くなったと聞くも、エイレーネーを引き取る事が出来なかったダグラスが苦肉の策としてイヴを寄越してくれた。
 不思議な存在ではあるがエイレーネーにとったら数少ない友達。絶大な信頼を寄せている。


「レーネ。今出て行けば、責められるのは公爵家になる。ダグラスの気配が近いから、行くなら今だよ」


 思わず「え? そうなの?」と口に出しそうになったのをぐっと堪え、声を荒げ過ぎたせいか肩で息をするロナウドと対峙した。


「そうさせて頂きます! 私だって、私を大事にしてくれない人達しかいない家に何時迄もいたくないので!」
「なっ! な、なにを」
「なにを? 貴方が出て行けと言ったのです。だから、言う通り出て行くんです」
「成人も迎えていない貴族の娘が外の世界でどうやって生きていくつもりだ。まさか、ダグラスに助けを求める気か? 無駄だ。あいつは魔法以外に一切の興味を示さない。血の繋がった娘でもだ」
「だとしても、私を悪者にしてお父さんへの鬱憤を晴らす人とこれ以上いたくありません!」
「っ!! お、お父さん、だと? 1度もお前に会いに来ないあの男を父親だと言うのか!!」


 1度も会っていなくてもイヴを通して実父からの愛は受け取っている。
「レーネ。そろそろ行こう。ダグラスが来た」隣にいるイヴの言葉で今度こそ声を出してしまい、駆け出したイヴがロナウドとガブリエル、侍女達を退かして部屋を去って行き。エイレーネーも追い掛けた。

 背後から届く怒声と悲鳴に構わず、イヴの後ろを追い掛けた。玄関ホールまで行き、勝手に開いた扉の外へ出て足が止まった。「レーネ!」と大きな声で呼ばれ、エイレーネーは再び走った。

 屋敷と正門の中間地点にいる男性。遠くても目立つ圧倒的美貌の男性は、毛先に掛けて青が濃くなる青銀の髪を煩わしげに掻き上げた。エイレーネーの姿を認識すると体毎向きを変えた。

 瞳の色は黄金色。
 髪も瞳も同じ。瓜二つと言われても仕方ないくらい、男性はエイレーネーにそっくり。いや、エイレーネーが男性にそっくりなのだ。

 目を凝らすと門番は門に凭れるように眠っている。
 男性――ダグラスの目の前で漸く止まったエイレーネーは乱れる息を整える。間近で見るとそっくり度が上がる。呼吸がマシになった辺りでダグラスが声を発した。


「エイレーネーか?」
「は、はい」


 初めて聞いた実父の声は随分と色気に溢れ、どこか気怠さが感じ取れた。濡れた色香を漂わせ、口から漏れた溜め息が色っぽい。
 その間、イヴはダグラスの足元を回っていた。


「メルルに似たな」
「そう、ですか? 私はずっとお父さんに似たと言われ続けました」
「髪や目の色が同じだからだろう。俺からすれば、メルルにそっくりだ」


 髪や瞳の色だけではなく、他の要素についても似ていると言われ続けたのに、初めて母に似ていると言われ喜びが胸に溢れる。母を一途に愛した実父に言われたのが感動を与えた最大の理由だろう。


「お、お父さん、あの」


 イヴは理由を話してくれているが、自分の言葉でダグラスの許へ行きたい理由を話したい。話し出そうとしたエイレーネーは手で制された。


「お前との話は悪いが後になる」


 気怠さを纏った黄金の瞳はエイレーネーの後ろを見ていた。釣られて見てみるとイヴに退かされた人達も慌てて出て来ていた。特に1人、今にも飛び掛かりそうな気配に包まれダグラスを睨み付けていた。
 エイレーネーを庇うように前に出たダグラスは小さな欠伸をしてロナウドへ「久しぶりだな」と放った。


「お前は変わらんな。俺を嫌うのは結構だが、無関係なエイレーネーにまで当たるな」
「無関係だと? ダグラス、お前の血を引いている時点で無関係なわけあるか!」
「俺とお前の問題であってエイレーネーは関係ない。メルルが生きていた頃からは、彼女からエイレーネーの近況を聞き、亡くなってからは俺の友人が頻繁に様子を見てくれたお陰でこの子について知らない事は殆どない」


 友人、というのはイヴを指す。
 ダグラスの友人を1度も見ていないロナウドははったりはよせと鼻で笑うも「特定の相手にしか見えない魔法を使っていたからな。お前は知らなくて当然だ」と指摘すれば、見る見る内に怒気に染めていく。
 前から抱いていた。魔法の才能が無いに関しては先天的要素も大きい。魔法の才能溢れるダグラスを羨んでいたとイヴは語っていた。


「長話をする趣味はない。とっとと済ませよう。ロナウド、エイレーネーは俺が引き取る。ホロロギウム公爵家はこの子に一銭も金を使ってないが一応衣食住に困らない生活をしていた礼だ。俺が所有する鉱山をやろう」
「黙れ!! エイレーネーは我が公爵家の娘だ!! お前の娘じゃない!!」
「さっき、お前はこの子に出て行けと怒鳴っていたろう。1度放った言葉は2度と口に戻らんよ」


 何時から聞いていたのかと問うと「ロナウドが来た辺りから」と返され、声は風を寄せて聞こえたのだとか。


「ソレイユ家の公子との婚約は俺から王に話しておく。エイレーネーとの婚約が解消されようが、俺が王国に留まりさえすれば良いのだからな」
「な、何を」
「可愛げのない女より、愛想良く振る舞う女の方が可愛いのだろう? お前の娘と婚約を結び直したらいい。何だったら、俺が王国に留まる条件に付けてやってもいい」
「馬鹿にするな!! ガブリエルの愛らしさにソレイユの息子は惹かれているんだ! お前の可愛げのない娘と違ってな!」


 可愛げがないのは、実子のガブリエルよりも目立つ行いをするたびに怒鳴り声を散らすロナウドに辟易とし、地味に目立たずを心掛けていたからだ。ただ、ラウルも同じ気持ちでいたならラウルの前でくらい可愛げのある女の子になっていれば良かったのか。


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