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遼平くんは私達に「頑張ってね」的な言葉をかけて、立ち去っていった。
せっかくの励ましの言葉を正確に覚えていないのは、涙が溢れないようにすることだけに意識を集中させていたから。
遼平くんの背中が見えなくなると、私は人の波に逆らって、待合室のプレートを空室から使用中に変え、中に駆け込んだ。
「―っ、ううっ」
ボロボロと大粒の雫が頬を伝う。
遼平くんにとって、私はただの姪。
いや、姪どころかただの遠い親戚の女程度の存在だ。
会うのは年に数回。
しかも、姪と言っても、その関係を作った永美ちゃんは結婚後すぐに亡くなっているのだから、当然だ。
そんなこと、分かっていたつもりだった。
でも、実際に彼の言葉で、態度で突きつけられるのがこんなに辛いなんて。
泣いている場合じゃないことも分かっている。
もうOJT が始まってしまう。
とにかく涙を拭かなくてはと、ポケットを探ってもハンカチが見つからない。
「初日から最悪…」
些細なことにまで落ち込んでいると、ノックもなしにドアが開いて晴臣が入ってきた。
「うわ…まさかと思ったけどマジで泣いてるし」
面倒くさそうな声で言いながら差し出されたハンカチは、少し縒れていたけれど綺麗だった。
これ以上メイクが崩れないようにそっと目尻に押し当てていると、晴臣がわざとらしい程大きなため息をついた。
「何よ?」
「こんなことでいちいち泣いててやっていけるのか?お前」
「誰のせいだと…!」
「俺のせいだって言うのかよ?お前がこの会社に入って、あの人との接点が増えれば、遅かれ早かれ知られることになったと思うけど?」
確かに。
遼平くんがeternoの社長として父を訪ねてくるときに私の話になるだろうし、父はおしゃべりだから、その可能性は高い。
「それに、早めに言っておけば、お前の気持ちがあの人にバレることもないだろ。…『絶対に伝えるつもりはない』って言ってたもんな」
咎めるような、戒めるような言い方に、目が覚める。
そう。
確かに言った。
あの日の帰り道、よほど様子がおかしかったのか、すぐに私の気持ちに気づいた晴臣に問い詰められた。
「いくら何でも、それはないだろう。永美さんはお前の姉さんみたいなもので、それも、亡くなってるのに」と。
自分でも分かっていたけれど、初めての恋心を晴臣に全否定されてより強く思い知らされた。
この恋は許されない。
何より、知られてしまったら、遼平くんに嫌われてしまうかもしれない。
だからー
「絶対に伝えるつもりはない。ただ、少しでも近くにいたいの」
そう晴臣に誓った。
せっかくの励ましの言葉を正確に覚えていないのは、涙が溢れないようにすることだけに意識を集中させていたから。
遼平くんの背中が見えなくなると、私は人の波に逆らって、待合室のプレートを空室から使用中に変え、中に駆け込んだ。
「―っ、ううっ」
ボロボロと大粒の雫が頬を伝う。
遼平くんにとって、私はただの姪。
いや、姪どころかただの遠い親戚の女程度の存在だ。
会うのは年に数回。
しかも、姪と言っても、その関係を作った永美ちゃんは結婚後すぐに亡くなっているのだから、当然だ。
そんなこと、分かっていたつもりだった。
でも、実際に彼の言葉で、態度で突きつけられるのがこんなに辛いなんて。
泣いている場合じゃないことも分かっている。
もうOJT が始まってしまう。
とにかく涙を拭かなくてはと、ポケットを探ってもハンカチが見つからない。
「初日から最悪…」
些細なことにまで落ち込んでいると、ノックもなしにドアが開いて晴臣が入ってきた。
「うわ…まさかと思ったけどマジで泣いてるし」
面倒くさそうな声で言いながら差し出されたハンカチは、少し縒れていたけれど綺麗だった。
これ以上メイクが崩れないようにそっと目尻に押し当てていると、晴臣がわざとらしい程大きなため息をついた。
「何よ?」
「こんなことでいちいち泣いててやっていけるのか?お前」
「誰のせいだと…!」
「俺のせいだって言うのかよ?お前がこの会社に入って、あの人との接点が増えれば、遅かれ早かれ知られることになったと思うけど?」
確かに。
遼平くんがeternoの社長として父を訪ねてくるときに私の話になるだろうし、父はおしゃべりだから、その可能性は高い。
「それに、早めに言っておけば、お前の気持ちがあの人にバレることもないだろ。…『絶対に伝えるつもりはない』って言ってたもんな」
咎めるような、戒めるような言い方に、目が覚める。
そう。
確かに言った。
あの日の帰り道、よほど様子がおかしかったのか、すぐに私の気持ちに気づいた晴臣に問い詰められた。
「いくら何でも、それはないだろう。永美さんはお前の姉さんみたいなもので、それも、亡くなってるのに」と。
自分でも分かっていたけれど、初めての恋心を晴臣に全否定されてより強く思い知らされた。
この恋は許されない。
何より、知られてしまったら、遼平くんに嫌われてしまうかもしれない。
だからー
「絶対に伝えるつもりはない。ただ、少しでも近くにいたいの」
そう晴臣に誓った。
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