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「どういうことか説明してもらおうか?」
月曜日。
出勤するなり、販促ツールのサンプルを開封していたと思しきハサミを手にした飛鳥先輩に迫られた。
「えっ。何のことですか?」
「しらばっくれるんじゃないわよ!!うちら婚活組はね、優良物件の動向は、ありとあらゆるネットワークを駆使して、リアルタイムで通知されるようになってるよの」
婚活組。
優良物件。
言われて迷わず頭に浮かんだのは、遼平くんの顔だった。
遼平くんは、比較的年齢層高めの顧客をターゲットとしたLotusとは違う、20代を狙った商品展開を目指して発足させたeternoの社長に若干30歳にして抜擢され、今年37歳。
訳ありだけど、一応独身。
眉は意思が強そうな割に、綺麗な二重の優しい瞳が作り出す、甘いマスク。
あの日以来、きちんと自己管理もしているのか、元々細めではあるが、すっきりと引き締まった体。
社会に入りたての私でも惹かれるのだ。
適齢期のお姉様方から見たら、優良物件(それもお肉で言うところのA5ランク)以外の何ものでもないだろう。
もやっと立ち込める苦い感情を飛鳥先輩に悟られるわけにはいかず、ぐっと押し込める。
もしかしたら、この間の夜のドライブを誰かに見られたのかもしれない。
遼平くんと出会った場所は、会社からそう遠くはなかったから。
「あの日はたまたま送ってもらっただけで…」
「…送ってもらった?何の話してんのよ」
「え…?金曜日の夜、りょ…手塚社長に送ってもらった話じゃ?」
「嘘!蓮見、あんた新入社員一の優良株とキスしただけじゃ飽き足らず、あの手塚社長に送ってもらったの!?前代未聞なんだけど!!」
「あ、なんだ。そっちのことだったんですか」
できるだけ思い出さないよう努めていたうえ、遼平くんとのドライブにすっかり上書きされてしまっていて、晴臣とのキスの記憶なんてもう忘れ去ってしまっていた。
「『そっち』だなんて、今期一の優良株に随分ねえ」
いつの間にか出社してきていた真由先輩が、話に入って来た。
口調はおっとりしているのに、目が怖い。
「一応聞きますけど、今期一の優良株って、晴臣のことですか?」
「当たり前でしょう!eternoはまだ創業して間もない会社だけど、どの企業でも出世コースと言われる人事部に新卒で抜擢されるなんて史上初よ。学歴も申し分ないし、体格にも恵まれて、新入社員には見えないほど風格あるし!何より顔がいい!!そんな男と公衆の面前でキスって。あんた処女じゃなかったの!!」
人事に回されたのは、研究職は畑違いだし、人相悪いから営業にも向かないだけだと思うけど。
と、言えば先輩方の火に油を注ぎかねないので、いつもの決り文句をボソボソと呟く。
「晴臣は、生まれたときからの腐れ縁で…」
「そのくされ縁、ぎゅっと固く結ばれてて、婚約してるってきいたけど?」
「誤解です!生まれたときに親が勝手に決めただけで」
「何ですって!?父親がLotusの社長な上に、あんなハイスペを許嫁に据えてもらえるなんて、生まれながらの勝ち組か!!」
徐々に壁際に追い詰めてくる二人の間をすり抜け、話を変えようと試みる。
「は、晴臣なんかより手塚社長の方が遥かに優良株なんじゃないですか!?」
私にとっては至極当然なことを口にしたつもりだった。
二人のことだから、口を揃えて遼平くんの美点を褒め称えると思っていた。
でも、実際はその逆で、二人共顔を見合わせて押し黙ってしまった。
月曜日。
出勤するなり、販促ツールのサンプルを開封していたと思しきハサミを手にした飛鳥先輩に迫られた。
「えっ。何のことですか?」
「しらばっくれるんじゃないわよ!!うちら婚活組はね、優良物件の動向は、ありとあらゆるネットワークを駆使して、リアルタイムで通知されるようになってるよの」
婚活組。
優良物件。
言われて迷わず頭に浮かんだのは、遼平くんの顔だった。
遼平くんは、比較的年齢層高めの顧客をターゲットとしたLotusとは違う、20代を狙った商品展開を目指して発足させたeternoの社長に若干30歳にして抜擢され、今年37歳。
訳ありだけど、一応独身。
眉は意思が強そうな割に、綺麗な二重の優しい瞳が作り出す、甘いマスク。
あの日以来、きちんと自己管理もしているのか、元々細めではあるが、すっきりと引き締まった体。
社会に入りたての私でも惹かれるのだ。
適齢期のお姉様方から見たら、優良物件(それもお肉で言うところのA5ランク)以外の何ものでもないだろう。
もやっと立ち込める苦い感情を飛鳥先輩に悟られるわけにはいかず、ぐっと押し込める。
もしかしたら、この間の夜のドライブを誰かに見られたのかもしれない。
遼平くんと出会った場所は、会社からそう遠くはなかったから。
「あの日はたまたま送ってもらっただけで…」
「…送ってもらった?何の話してんのよ」
「え…?金曜日の夜、りょ…手塚社長に送ってもらった話じゃ?」
「嘘!蓮見、あんた新入社員一の優良株とキスしただけじゃ飽き足らず、あの手塚社長に送ってもらったの!?前代未聞なんだけど!!」
「あ、なんだ。そっちのことだったんですか」
できるだけ思い出さないよう努めていたうえ、遼平くんとのドライブにすっかり上書きされてしまっていて、晴臣とのキスの記憶なんてもう忘れ去ってしまっていた。
「『そっち』だなんて、今期一の優良株に随分ねえ」
いつの間にか出社してきていた真由先輩が、話に入って来た。
口調はおっとりしているのに、目が怖い。
「一応聞きますけど、今期一の優良株って、晴臣のことですか?」
「当たり前でしょう!eternoはまだ創業して間もない会社だけど、どの企業でも出世コースと言われる人事部に新卒で抜擢されるなんて史上初よ。学歴も申し分ないし、体格にも恵まれて、新入社員には見えないほど風格あるし!何より顔がいい!!そんな男と公衆の面前でキスって。あんた処女じゃなかったの!!」
人事に回されたのは、研究職は畑違いだし、人相悪いから営業にも向かないだけだと思うけど。
と、言えば先輩方の火に油を注ぎかねないので、いつもの決り文句をボソボソと呟く。
「晴臣は、生まれたときからの腐れ縁で…」
「そのくされ縁、ぎゅっと固く結ばれてて、婚約してるってきいたけど?」
「誤解です!生まれたときに親が勝手に決めただけで」
「何ですって!?父親がLotusの社長な上に、あんなハイスペを許嫁に据えてもらえるなんて、生まれながらの勝ち組か!!」
徐々に壁際に追い詰めてくる二人の間をすり抜け、話を変えようと試みる。
「は、晴臣なんかより手塚社長の方が遥かに優良株なんじゃないですか!?」
私にとっては至極当然なことを口にしたつもりだった。
二人のことだから、口を揃えて遼平くんの美点を褒め称えると思っていた。
でも、実際はその逆で、二人共顔を見合わせて押し黙ってしまった。
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