【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

文字の大きさ
14 / 173

3ー1

しおりを挟む
「どういうことか説明してもらおうか?」

月曜日。
出勤するなり、販促ツールのサンプルを開封していたと思しきハサミを手にした飛鳥先輩に迫られた。

「えっ。何のことですか?」

「しらばっくれるんじゃないわよ!!うちら婚活組はね、優良物件の動向は、ありとあらゆるネットワークを駆使して、リアルタイムで通知されるようになってるよの」

婚活組。
優良物件。

言われて迷わず頭に浮かんだのは、遼平くんの顔だった。

遼平くんは、比較的年齢層高めの顧客をターゲットとしたLotusとは違う、20代を狙った商品展開を目指して発足させたeternoの社長に若干30歳にして抜擢され、今年37歳。
訳ありだけど、一応独身。
眉は意思が強そうな割に、綺麗な二重の優しい瞳が作り出す、甘いマスク。
あの日以来、きちんと自己管理もしているのか、元々細めではあるが、すっきりと引き締まった体。

社会に入りたての私でも惹かれるのだ。
適齢期のお姉様方から見たら、優良物件(それもお肉で言うところのA5ランク)以外の何ものでもないだろう。

もやっと立ち込める苦い感情を飛鳥先輩に悟られるわけにはいかず、ぐっと押し込める。

もしかしたら、この間の夜のドライブを誰かに見られたのかもしれない。
遼平くんと出会った場所は、会社からそう遠くはなかったから。

「あの日はたまたま送ってもらっただけで…」

「…送ってもらった?何の話してんのよ」

「え…?金曜日の夜、りょ…手塚社長に送ってもらった話じゃ?」

「嘘!蓮見、あんた新入社員一の優良株とキスしただけじゃ飽き足らず、手塚社長に送ってもらったの!?前代未聞なんだけど!!」

「あ、なんだ。そっちのことだったんですか」

できるだけ思い出さないよう努めていたうえ、遼平くんとのドライブにすっかり上書きされてしまっていて、晴臣とのキスの記憶なんてもう忘れ去ってしまっていた。

「『そっち』だなんて、今期一の優良株に随分ねえ」

いつの間にか出社してきていた真由先輩が、話に入って来た。
口調はおっとりしているのに、目が怖い。

「一応聞きますけど、今期一の優良株って、晴臣のことですか?」

「当たり前でしょう!eternoはまだ創業して間もない会社だけど、どの企業でも出世コースと言われる人事部に新卒で抜擢されるなんて史上初よ。学歴も申し分ないし、体格にも恵まれて、新入社員には見えないほど風格あるし!何より顔がいい!!そんな男と公衆の面前でキスって。あんた処女じゃなかったの!!」

人事に回されたのは、研究職は畑違いだし、人相悪いから営業にも向かないだけだと思うけど。

と、言えば先輩方の火に油を注ぎかねないので、いつもの決り文句をボソボソと呟く。

「晴臣は、生まれたときからの腐れ縁で…」

「そのくされ縁、ぎゅっと固く結ばれてて、婚約してるってきいたけど?」

「誤解です!生まれたときに親が勝手に決めただけで」

「何ですって!?父親がLotusの社長な上に、あんなハイスペを許嫁に据えてもらえるなんて、生まれながらの勝ち組か!!」

徐々に壁際に追い詰めてくる二人の間をすり抜け、話を変えようと試みる。

「は、晴臣なんかより手塚社長の方が遥かに優良株なんじゃないですか!?」

私にとっては至極当然なことを口にしたつもりだった。
二人のことだから、口を揃えて遼平くんの美点を褒め称えると思っていた。

でも、実際はその逆で、二人共顔を見合わせて押し黙ってしまった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...