【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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「お願いって何ですか?」

私が尋ねるより早く静謐なチャペルに響いたのは、晴臣の低い声。

重い木製扉に手をかけた晴臣を見つけると、遼平くんはほんの一瞬目を丸くし、怪訝そうに眉を顰めた。

「椎名くん?…どうして君がここに?」

そりゃあそうなるよね。
今完全に業務時間だし。
晴臣は人事部であって、販促部とは無関係だし。

一方晴臣は、遼平くんに怯むどころか、軽く睨みつけているものだから、慌てて私が説明した。

「あ、あの、実は、ここまで送ってもらったんです」

そう。
晴臣はさっき『任せとけ』と言った後、私を連れて人事部の隣にある総務部から社用車の鍵を借り、ここまで私を送り届けてくれたのだ。

「緊急事態みたいでしたし?もちろんちゃんと部長の許可は取ってますよ」

それ、出発した後、電話で、ほぼ事後報告だったけどね。

「で、何なんですか?千歳に頼みって」

人事部長と話したとき以上にふてぶてしい。
同じ新入社員とは思えない大胆さに、さっきから冷や冷やさせられっ放しだ。

遼平くんは硬い表情のまま、仕方なさそうに口を開いた。

「…実は、今日のポスター撮りのモデルを頼みたくて」

「モ、モデル!?」

「何で千歳に?」

「…頼んでいたモデルが、不手際で急に来られなくなって。誰か代役を立てようにも急過ぎて難しいし、別日に取り直そうにもClassic Palaceを使わせてもらえるのは今日限りだからね」

「だからって、何で千歳なんですか?」

「蓮見さんが、今回の商品イメージにぴったりだったからだよ」


「「…商品の、イメージ?」」 

私と晴臣がほぼ同時に尋ねると、遼平くんは力強く頷いた。

「そう。蓮見さんは販促部だからもちろん分かるよね?今回の商品のコンセプトは?」

突然の入社試験のような問いかけに、自然にピンと背筋が伸びる。

「え?あ、はい。『フレッシュ』です」

「その言葉に込められた意味は?」

「20代前半の、若い世代のシェア獲得。それに加え、既存のユーザーに対しては再度eternoの製品を使い始めた頃の瑞々しい気持ち、素肌を意識させることです」

「うん、完璧」

遼平くんが満足そうに微笑んでくれた。

不意打ちのご褒美に、顔がニヤけてしまいそうになっていると、強制的に私の表情筋を引き締めるかのように晴臣は鋭い口調で質問を続けた。

「それと千歳と何の関係が?」

本当に、どんなエイジングケア用品より効き目ありそう。

「…この間、たまたま夜道を一人で歩いている蓮見さんを見かけたものだから、家まで送ってあげたんだよ。蓮見さんはもちろんeternoの社員である前に、僕にとっては大切な姪だからね」

以前から憧れていた『大切な姪』という言葉だけで、昼食を食べそびれた空腹が消え去っていく。
ああ、今のセリフ録音しておけば良かった。

「その時、新社会人としての悩みや喜びを聞かせてもらったら、すごく初々しくて。今回の商品コンセプトに通じるものがあるなと思ったんだ。それで今日、モデルが来れないと聞かされたとき、真っ先に蓮見さんの顔が浮かんだんだよね。…引き受けてくれるかな?」

そんなこと、突然言われても。
遼平くんの頼みであれば力になってあげたいのは山々だけど、モデルなんてー

返事に困っていると、晴臣が一段と強い口調で言い切った。

「ダメです」
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