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しおりを挟む「ちょっ、紅美さん!何勝手なこと言ってるんですか!?」
真由先輩が慌て止めようとしても、松本さんは揺るがない。
「だって、椎名くんの話聞いてたら変えたくなっちゃたんだもん。ねえ、千歳ちゃん、ちょっと笑ってみて」
うっ。
晴臣からあんなこと言われた直後にハードルが高すぎる…。
「ほらほら、照れてないで!!そんなことじゃモデルなんて務まらないよー!」
遼平くんも見てるのに…。
「こ、こうですか?」
紅美さんに促されて仕方なく無理やり口角を上げ、笑顔を作ってみせる。
「ぶはっ」
容赦なく声を出して笑ったのは誰でもない、晴臣だった。
「ひどっ!晴臣が変なこと言うからじゃない!!」
「だって、あまりに不自然なんだからしょうがないだろ?やっぱ千歳にはモデルなんて無理だって。もうClassic Palaceにこだわらずに別日にちゃんとしたモデルで撮り直したほうがいいんじゃないんですか、社長?」
…って、晴臣、まだ私がモデルをやることに反対してたいたのか。
チャペルでの険悪な空気の再来かとハラハラしていたらー
「いいえ、問題ないわ。千歳ちゃんで行きましょう」
紅美さんがキッパリと言った。
「千歳ちゃんの顔、黄金比率だけじゃなくて白銀比率もかなり高いのよ。だから、椎名くんの言う通り、華やかで、可愛らしいイメージも合うと思うわ。この顔を、自社で調達できるなんてeterno強運過ぎるー!!…ってことで!!千歳ちゃん作り直すから。男性陣は出ていってくださーい」
「松本、ちょっと待って」
小バエを追い払うようにシッシッと手を振る松本さんに、ずっと黙っていた遼平くんが口を開いた。
「僕は今の蓮見さんでも十分ターゲットの目は引けると思う。中心となって企画してくれた織田村の絵コンテのイメージにもピッタリだからね」
真由先輩は遼平くんの提案を聞いて、小さく安堵のため息を吐いた。
そりゃあそうだ。
何ヶ月もかけて準備してきたのに、ぽっと出の晴臣の意見を全面的に採用されてしまうなんて、私でも嫌だと思う。
でも、今度は松本さんが黙ってはいない。
「でも、椎名くんの意見聞いちゃったら、絶対そっちもやってみたいんですけどー」
職人魂がメラメラしている松本さんは、誰にも止められなさそうだ。
「心配しなくても、松本が言い出したら聞かない性格だってことは分かってるよ。だから、どっちも撮影して、より良いものを使おう。仕上がったものを見て、どちらを使うかは僕が判断する。それでいいね?」
その場にいる全員の意思確認をするように、遼平くんは一人ひとりとアイコンタクトをとっていった。
もちろん晴臣も例外ではなく、今回ばかりは異を唱えなかった。
「よし。じゃあ、カメラマンも待たせてることだし、撮影に入ろう」
遼平くんの号令で、全員が慌ただしくチャペルに向かった。
急に撮影に入ると言われて、一気に緊張マックスになった私を除いて。
どうしよう…。
お腹痛くなってきた。
そんな私に気づいたのは、この場で唯一仕事のない晴臣だった。
「千歳、何やってんだよ、行くぞ」
「だって、緊張しちゃって…」
「大丈夫だって。とにかく笑っとけ。お前ならできる」
「さっきまで反対してたくせに!!」
「…こうなったら仕方ないだろ。腹くくれ」
「似合ってないって言ったし。せめてアレがなきゃまだ良かったのに!!」
喚いている途中で晴臣が突然顔を近づけ、唇が重なる寸前でピタリと止まった。
不意打ちに声も出せないでいると、目の前の晴臣が真剣な顔で言った。
「今から撮影じゃなきゃキスしてる。千歳はどんなカッコでも可愛いし、綺麗だ。ポスターなんかになって他の大勢の男に見せたくないからゴネてみただけ」
晴臣から出た漫画並みの恥ずかしいセリフに、フリーズしてしまった。
「…ほら、これで満足か?」
もうそっぽを向いてしまっていて、顔は見えないけれど、晴臣の耳が真っ赤なのは見える。
「…ちょっと、面白いからもう一回言ってみて?」
「調子乗んなバカ。さっさと行け」
ドン、と背中を押されてチャペルへと向かう足どりは、羽のように軽かった。
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