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一人センチメンタルな私を他所に、宴会は進んでいく。
真由先輩が突然神妙な顔つきでシュバッと手を挙げた。
「ず、ずっと聞きたかったんですけど、社長的にはどっちの蓮見ちゃん推しだったんですか?」
遼平くんは、一瞬面食らったような顔をしたものの、すぐに質問の意図に気づいたらしく、労うように微笑んだ。
「うん。個人的には、やっぱり最初の方かな。eternoらしいっていうか、何ていうか。原点回帰って感じがして好きだったよ」
「じゃあどうして両方使うことになったんですか?」
「ま、…大人の事情ってヤツかな」
「えー、ちゃんと教えてください。次の企画に活かすためにも!!」
食い下がる真由先輩に、遼平くんが少し言いにくそうに口を開いた。
「eternoのブランドイメージを変えるため、かな」
「何で変えないといけなかったんですか?」
「…織田村は本当に仕事熱心だね」
「この歳で恋人もいませんから。仕事が恋人みたいなもんですし」
ニコッと微笑んで見せた真由先輩の口調にはどこか棘があるような気がするのは、私の勘違いなのか、遼平くんは変わらず困ったような顔で続けた。
「eternoは好発進した創業当初からの売上をキープできてる。けど、キープしてちゃダメなんだ。右肩上がりに変えていかないと。だから、だよ」
「親会社の社長から何か言われたって感じ?」
「え!?父に!!?」
「ポスターの件で、許可をもらいに行った時にちょっと、ね」
飛鳥さんがずっと手放さなかったジョッキを置いて、急に居住まいを正した。
その場に居た全員に緊張が走ったらしい。
微妙な居心地の悪さを感じていると、遼平くんがぽんっと私の肩を叩いて明るい声で言った。
「ってことで、次回もよろしくね。ちーちゃん」
****
「わ。みんなもう消えてる」
1次会がお開きとなると、飲まなかった私を除くほぼ全員が2次会のお店に瞬間移動してしまい、気付けば会計を任されたほろ酔いの遼平くんと二人きりになっていた。
とは言え、この数時間ずっと隣に居たので、さすがに緊張も解け、自然に会話もできる。
「2次会は駅前のダイニングバーらしいですよ。先に行ってますって伝言頼まれました」
「ちーちゃんは?行かないの?」
「今日はもう帰ろうかと」
素面で飲み会に出席するのって、結構疲れる。
それに、さっきのお店でご飯も割としっかり食べたので、これ以上胃に何も入りそうにない。
「そっか。じゃあ、社長がいると気を遣うだろうから、僕も帰ろうかな」
二人で並んで駅までの道を歩いていると、不意に遼平くんに謝られた。
「今日はごめんね。しつこくモデルの件頼んで」
「え?」
「でも、どうしてもちーちゃんにお願いしたくて」
謝られたので、諦めてくれるのかと思っていたら、単なるダメ押しだった。
「何か心配事があるなら全力でサポートするから。なんでも言って?」
その言葉に、甘えてしまおうか?
実は、ポスターが世に出てからプチストーカーの被害を受けているのだ。
物理的接触はないものの、ほとんど使っていないSNSに同じ人物から大量のコメントを投稿されたり、会社のメールアドレスに1日に何十通とメールを送られたり。
モデルを務めた経緯が経緯だけに、白黒コンビには相談し辛く、知っているのは晴臣だけ。
だから、もう絶対にモデルなんてするなと、晴臣からもキツく釘を刺されている。
真由先輩が突然神妙な顔つきでシュバッと手を挙げた。
「ず、ずっと聞きたかったんですけど、社長的にはどっちの蓮見ちゃん推しだったんですか?」
遼平くんは、一瞬面食らったような顔をしたものの、すぐに質問の意図に気づいたらしく、労うように微笑んだ。
「うん。個人的には、やっぱり最初の方かな。eternoらしいっていうか、何ていうか。原点回帰って感じがして好きだったよ」
「じゃあどうして両方使うことになったんですか?」
「ま、…大人の事情ってヤツかな」
「えー、ちゃんと教えてください。次の企画に活かすためにも!!」
食い下がる真由先輩に、遼平くんが少し言いにくそうに口を開いた。
「eternoのブランドイメージを変えるため、かな」
「何で変えないといけなかったんですか?」
「…織田村は本当に仕事熱心だね」
「この歳で恋人もいませんから。仕事が恋人みたいなもんですし」
ニコッと微笑んで見せた真由先輩の口調にはどこか棘があるような気がするのは、私の勘違いなのか、遼平くんは変わらず困ったような顔で続けた。
「eternoは好発進した創業当初からの売上をキープできてる。けど、キープしてちゃダメなんだ。右肩上がりに変えていかないと。だから、だよ」
「親会社の社長から何か言われたって感じ?」
「え!?父に!!?」
「ポスターの件で、許可をもらいに行った時にちょっと、ね」
飛鳥さんがずっと手放さなかったジョッキを置いて、急に居住まいを正した。
その場に居た全員に緊張が走ったらしい。
微妙な居心地の悪さを感じていると、遼平くんがぽんっと私の肩を叩いて明るい声で言った。
「ってことで、次回もよろしくね。ちーちゃん」
****
「わ。みんなもう消えてる」
1次会がお開きとなると、飲まなかった私を除くほぼ全員が2次会のお店に瞬間移動してしまい、気付けば会計を任されたほろ酔いの遼平くんと二人きりになっていた。
とは言え、この数時間ずっと隣に居たので、さすがに緊張も解け、自然に会話もできる。
「2次会は駅前のダイニングバーらしいですよ。先に行ってますって伝言頼まれました」
「ちーちゃんは?行かないの?」
「今日はもう帰ろうかと」
素面で飲み会に出席するのって、結構疲れる。
それに、さっきのお店でご飯も割としっかり食べたので、これ以上胃に何も入りそうにない。
「そっか。じゃあ、社長がいると気を遣うだろうから、僕も帰ろうかな」
二人で並んで駅までの道を歩いていると、不意に遼平くんに謝られた。
「今日はごめんね。しつこくモデルの件頼んで」
「え?」
「でも、どうしてもちーちゃんにお願いしたくて」
謝られたので、諦めてくれるのかと思っていたら、単なるダメ押しだった。
「何か心配事があるなら全力でサポートするから。なんでも言って?」
その言葉に、甘えてしまおうか?
実は、ポスターが世に出てからプチストーカーの被害を受けているのだ。
物理的接触はないものの、ほとんど使っていないSNSに同じ人物から大量のコメントを投稿されたり、会社のメールアドレスに1日に何十通とメールを送られたり。
モデルを務めた経緯が経緯だけに、白黒コンビには相談し辛く、知っているのは晴臣だけ。
だから、もう絶対にモデルなんてするなと、晴臣からもキツく釘を刺されている。
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