35 / 173
6ー2
しおりを挟む
「おっはようございまーす。金曜日はお疲れさまでしたー」
まだ何も知らないらしい飛鳥先輩の明るい挨拶に、私も真由先輩も返事ができない。
「え?何この空気。二人共何かあったんですか??っていうか蓮見、スマホ鳴ってるよ。出ないの?」
「あ…はい。すみません。父からなので、ちょっと失礼します」
飛鳥先輩に促され、真由先輩の心配そうな視線を感じながら、震える手で通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
「千歳か?」
家で話すときより少し厳しい口調に、ごくりと唾を飲む。
無駄だと分かっていながらも、どうか悪い予感が外れていますようにと祈らずにいられない。
「……うん」
「仕事中に悪いが、今すぐLotus本社に来てくれ。聞きたいことがある」
「き、聞きたいことって?」
「電話じゃちょっと、な。今そっちに秘書の中原を向かわせている。着くまで動かないように」
「…分かった」
わざわざ第一秘書の中原さんが来るなんて。
間違いない。
この画像のことだ。
余計な心配をかけたくなくて、父にも黙っていたけれど、多分ネットストーカーのこともバレてる。
このままじゃ、最悪eternoを辞めさせられてしまうかもしれない。
何をどこから話したらいいのか、頭を抱え込んでいると、私が電話をしている間に真由先輩から事情を聞いた飛鳥先輩が明るい声で励ましてきた。
「大丈夫だって!疚しいことなんか何もないんでしょ?あの手塚社長に限って!!」
『疚しい』という言葉に、一瞬遼平くんとのキスが頭を過る。
でも、あれは寝ぼけて永美ちゃんと間違っただけ。
「ありません。宣材資料を見せてもらっただけです」
「なら何も問題ないじゃん。むしろ嫌がらせ対策してもらえるんじゃない?」
「そうですね」
作り笑いをして返事をしたものの、問題だらけだ。
だって、うちの父はけっこう…いや、かなり私を溺愛している。
*
「失礼します」
Lotusの社長室のドアを開け、先客の存在を知った私は絶望した。
応接セットのソファに、こちらに背を向け、遼平くんと晴臣が少し離れて座っていたのだ。
遼平くんも呼び出されているかもしれないとは思っていたけれど、まさか、晴臣までいるなんて。
「ああ、千歳ちゃん。よく来たね」
電話のときとは違う「ちゃん」付け呼びで、デレッと鼻の下を伸ばす父に噛み付く。
「何で晴臣までここにいるのよ?」
「そりゃあ、晴臣は千歳ちゃんの婚約者だからね。今日の話と無関係じゃないことは、ちーちゃんも分かるだろう?」
言いながら父が私に見せて来たのは、例の画像だった。
やっぱりー
晴臣の反応が怖くて、チラリとそちらを見るけれど、晴臣は前を向いたまま微動だにしない。
「その写真は…誰が撮ったかは分からないけど、飲みの後、仕事の資料を見に行っただけ。遼平くんからもお父さんにそう連絡してたし、日付は変わってたけど、ちゃんと帰ってきたのはお父さんだって知ってるでしょ?」
どこか言い訳がましい口調になるのは、変に突かれたくないからだ。
この場にいる誰にも、キスのことだけはバレてはいけない。
「うん。知ってる。さっき遼平から聞いた話とも食い違いはないね」
納得してくれたと安堵したのは束の間―
「でも、じゃあどうして千歳ちゃんは土曜も日曜もご飯も食べずにお部屋に引きこもっていたのかな?お父さん、久々の休みだったから一緒に出かけようって何回も誘ったのに」
まだ何も知らないらしい飛鳥先輩の明るい挨拶に、私も真由先輩も返事ができない。
「え?何この空気。二人共何かあったんですか??っていうか蓮見、スマホ鳴ってるよ。出ないの?」
「あ…はい。すみません。父からなので、ちょっと失礼します」
飛鳥先輩に促され、真由先輩の心配そうな視線を感じながら、震える手で通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
「千歳か?」
家で話すときより少し厳しい口調に、ごくりと唾を飲む。
無駄だと分かっていながらも、どうか悪い予感が外れていますようにと祈らずにいられない。
「……うん」
「仕事中に悪いが、今すぐLotus本社に来てくれ。聞きたいことがある」
「き、聞きたいことって?」
「電話じゃちょっと、な。今そっちに秘書の中原を向かわせている。着くまで動かないように」
「…分かった」
わざわざ第一秘書の中原さんが来るなんて。
間違いない。
この画像のことだ。
余計な心配をかけたくなくて、父にも黙っていたけれど、多分ネットストーカーのこともバレてる。
このままじゃ、最悪eternoを辞めさせられてしまうかもしれない。
何をどこから話したらいいのか、頭を抱え込んでいると、私が電話をしている間に真由先輩から事情を聞いた飛鳥先輩が明るい声で励ましてきた。
「大丈夫だって!疚しいことなんか何もないんでしょ?あの手塚社長に限って!!」
『疚しい』という言葉に、一瞬遼平くんとのキスが頭を過る。
でも、あれは寝ぼけて永美ちゃんと間違っただけ。
「ありません。宣材資料を見せてもらっただけです」
「なら何も問題ないじゃん。むしろ嫌がらせ対策してもらえるんじゃない?」
「そうですね」
作り笑いをして返事をしたものの、問題だらけだ。
だって、うちの父はけっこう…いや、かなり私を溺愛している。
*
「失礼します」
Lotusの社長室のドアを開け、先客の存在を知った私は絶望した。
応接セットのソファに、こちらに背を向け、遼平くんと晴臣が少し離れて座っていたのだ。
遼平くんも呼び出されているかもしれないとは思っていたけれど、まさか、晴臣までいるなんて。
「ああ、千歳ちゃん。よく来たね」
電話のときとは違う「ちゃん」付け呼びで、デレッと鼻の下を伸ばす父に噛み付く。
「何で晴臣までここにいるのよ?」
「そりゃあ、晴臣は千歳ちゃんの婚約者だからね。今日の話と無関係じゃないことは、ちーちゃんも分かるだろう?」
言いながら父が私に見せて来たのは、例の画像だった。
やっぱりー
晴臣の反応が怖くて、チラリとそちらを見るけれど、晴臣は前を向いたまま微動だにしない。
「その写真は…誰が撮ったかは分からないけど、飲みの後、仕事の資料を見に行っただけ。遼平くんからもお父さんにそう連絡してたし、日付は変わってたけど、ちゃんと帰ってきたのはお父さんだって知ってるでしょ?」
どこか言い訳がましい口調になるのは、変に突かれたくないからだ。
この場にいる誰にも、キスのことだけはバレてはいけない。
「うん。知ってる。さっき遼平から聞いた話とも食い違いはないね」
納得してくれたと安堵したのは束の間―
「でも、じゃあどうして千歳ちゃんは土曜も日曜もご飯も食べずにお部屋に引きこもっていたのかな?お父さん、久々の休みだったから一緒に出かけようって何回も誘ったのに」
1
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる