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「行くぞ、千歳」
すっかりいつもどおりの涼し気な表情を取り戻した晴臣とは対象的に、私の心臓はさっきからずっとバクバク鳴りっぱなしだ。
「失礼します」
何も知らない父が、「どうぞ」と待ちかねていたのか弾んだ声で返事をした。
晴臣がドアを開けると、やはり父は立ち上がって私達を出迎えた。
そして、吸い寄せられるようにある一点に視線を落とした。
「は、晴…臣?何ソレ??」
「え?ああ、コレですか?」
白々しく返事をすると、晴臣は指と指をしっかりと絡めて繋いだ自分の左手と、私の右手を見せつけるように掲げた。
「付き合ってるんで。俺たち」
「……え?いつから?」
晴臣の一言に、膝から崩れ落ち、放心している父の代わりに口を開いたのは遼平くんだった。
父ほどではないけれど、遼平くんもかなり驚いた顔をしている。
「金曜の夜、手塚社長のマンションから帰ってからです。千歳が部屋から出てこなかったのは、俺と正式に付き合うことになったのが嬉しすぎて泣いてたからです。でも照れ屋なんで、言えなかったんだよな、千歳」
晴臣に同意を求められ、渋々頷くと、遼平くんは更に目を丸くした。
「…そうだったんだ。おめでとう」
「『おめでとう』じゃなーーーーーーいっ!!!」
祝福の言葉で襲い掛けた胸の痛みは、父の絶叫でかき消された。
「つ、つ、つ、付き合い始めた?千歳ちゃんと晴臣が??何でっ!?どーやって!!?」
正直父の反応は私にとって予想外でしかなかった。
生まれた途端に私を晴臣と結婚させると決めた張本人なんだから、ここは手放しで喜ぶところじゃないの?
釈然としない私を他所に、不敵な笑みを浮かべる晴臣。
「今更何言ってるんですか?『千歳がその気になりさえすれば交際を許してやる』って言ったのはおじさんでしょ?」
「…そんな…晴臣なんてつい最近まで千歳ちゃんに全然相手にされてなかったくせに…いつの間に!?何でOKしちゃったの、千歳ちゃん!!」
いくら父に涙目で問いかけられても、本当は、正式には付き合ってないとは言えない。
そう。
晴臣が提示した、キスの件を黙っている一つ目の条件は、「お試しからでいいから俺と付き合え」だったのだ。
正直、失恋直後でとてもそんな気分ではなかったんだけど。
晴臣の考えでは、今回ストーカーに写真を撮られた場所が遼平くんのマンションだったことから、犯人は遼平くんに好意を寄せる人物の可能性があるとのこと。
仮に社内の人間が犯人であって、私と晴臣が婚約していることを知っていてもこんな嫌がらせをしてくるのは、私と晴臣がそういう関係に見えないことも原因の一つだと言うのだ。
何となく晴臣に上手く丸め込まれたような気がしなくもないけれど、どっちにしろ私には選択肢なんてなかった。
「行くぞ、千歳」
すっかりいつもどおりの涼し気な表情を取り戻した晴臣とは対象的に、私の心臓はさっきからずっとバクバク鳴りっぱなしだ。
「失礼します」
何も知らない父が、「どうぞ」と待ちかねていたのか弾んだ声で返事をした。
晴臣がドアを開けると、やはり父は立ち上がって私達を出迎えた。
そして、吸い寄せられるようにある一点に視線を落とした。
「は、晴…臣?何ソレ??」
「え?ああ、コレですか?」
白々しく返事をすると、晴臣は指と指をしっかりと絡めて繋いだ自分の左手と、私の右手を見せつけるように掲げた。
「付き合ってるんで。俺たち」
「……え?いつから?」
晴臣の一言に、膝から崩れ落ち、放心している父の代わりに口を開いたのは遼平くんだった。
父ほどではないけれど、遼平くんもかなり驚いた顔をしている。
「金曜の夜、手塚社長のマンションから帰ってからです。千歳が部屋から出てこなかったのは、俺と正式に付き合うことになったのが嬉しすぎて泣いてたからです。でも照れ屋なんで、言えなかったんだよな、千歳」
晴臣に同意を求められ、渋々頷くと、遼平くんは更に目を丸くした。
「…そうだったんだ。おめでとう」
「『おめでとう』じゃなーーーーーーいっ!!!」
祝福の言葉で襲い掛けた胸の痛みは、父の絶叫でかき消された。
「つ、つ、つ、付き合い始めた?千歳ちゃんと晴臣が??何でっ!?どーやって!!?」
正直父の反応は私にとって予想外でしかなかった。
生まれた途端に私を晴臣と結婚させると決めた張本人なんだから、ここは手放しで喜ぶところじゃないの?
釈然としない私を他所に、不敵な笑みを浮かべる晴臣。
「今更何言ってるんですか?『千歳がその気になりさえすれば交際を許してやる』って言ったのはおじさんでしょ?」
「…そんな…晴臣なんてつい最近まで千歳ちゃんに全然相手にされてなかったくせに…いつの間に!?何でOKしちゃったの、千歳ちゃん!!」
いくら父に涙目で問いかけられても、本当は、正式には付き合ってないとは言えない。
そう。
晴臣が提示した、キスの件を黙っている一つ目の条件は、「お試しからでいいから俺と付き合え」だったのだ。
正直、失恋直後でとてもそんな気分ではなかったんだけど。
晴臣の考えでは、今回ストーカーに写真を撮られた場所が遼平くんのマンションだったことから、犯人は遼平くんに好意を寄せる人物の可能性があるとのこと。
仮に社内の人間が犯人であって、私と晴臣が婚約していることを知っていてもこんな嫌がらせをしてくるのは、私と晴臣がそういう関係に見えないことも原因の一つだと言うのだ。
何となく晴臣に上手く丸め込まれたような気がしなくもないけれど、どっちにしろ私には選択肢なんてなかった。
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