【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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遼平くんの肩越しに、奥の間に置かれた照明の光が、小刻みに揺れて見える。
雨に濡れて冷えた私の体が震えているのではない。
私を抱きしめる遼平くんが震えているのだ。

「ごめん…ダメなんだ、嵐の夜は。怖くて…寂しくて…眠れなくて…薬を飲んで無理やり眠っても酷い悪夢にうなされ目を覚ます」

徐々に強められていく拘束に、身じろぎもできない。

「今までは何とか一人でやり過ごしてきたけど、もう無理だ」

遼平くんは甘えるように鼻先を私の首筋に滑らせ、項に顔を埋めた。
唇から溢れる吐息が熱い。

「ダメだよ…いくら似てても、私は永美ちゃんじゃない。私、遼平くんに後悔して欲しくない!永美ちゃんを裏切って欲しくない!!」

ハッと息を飲む音がして、遼平くんがゆっくりと顔だけを上げると、次は私が息を飲む番だった。

「じゃあ…一体僕はいつまで一人でいればいい?」

絶望しきった声と顔に、自分が押し付けたエゴの残酷さを思い知らされる。
謝罪の言葉を探していると、遼平くんは私の肩に額を乗せ、懺悔するかのように語り始めた。

「分かってるって言ったよね?…永美とちーちゃんは、声が違う。笑い方も違う。好きな食べ物も。永美は会社の同期で、よりによって君は…彼女と僕の大切な姪で…年だって一回り以上離れてる。もちろん永美にも申し訳ないと思った。でもー」

もう一度私を抱きしめる腕に力が込められたのと同時に、窓の外に閃光が走る。
雷鳴が轟き終えるのを待って、遼平くんははっきりと告げた。

「それでも君に惹かれていく自分を止められなかった」


違う。
遼平くんは、私に惹かれてるわけじゃない。

そう思わせるのは、願望。
―遼平くんには、永美ちゃんを思い続けていて欲しい。

或いは直感。
―私自身に惹かれているなら、永美ちゃんと違うところを探したりしない。

でも、
これ以上永美ちゃんに絡めた理由で遼平くんの気持ちを否定することはできない。

「…初めてだったんだ。永美がいなくなって、仕事以外でこんなに心が動いたの…」

こめかみに、唇が押し当てられた。

ダメ。
このままじゃ、流される。
引きずり込まれる。

―晴臣。
こんなときどうしたら?


……そうだ!晴臣!!

「ま、待って、私には晴臣が…」

強く胸板を押し返せば、切なげに眉を顰められてしまった。

「やっぱり…そんなに僕じゃダメかな?」

『そんなに』という言葉の意味を測りかねていると、遼平くんが自嘲気味に笑った。

「…知ってるんだ。本当は、椎名くんと付き合ってないんでしょう?」

全く予想していなかった答えに、動揺を隠しきれない。

「…どうして…遼平くんがそれを?」

「これでもeternoの社長だからね。社内の必要な情報は報告させてる」

そう言われて、やっと渡さんとのやりとりに思い当たった。
渡さん人事部が知り得た情報はもれなく社長会社の情報になる。
そんな基本的なことを忘れていたなんて。

自分の迂闊さを悔いる間もなく、遼平くんは畳み掛けるように囁いた。

「椎名くんが経理部の川瀬七海が、彼の昔の恋人ってことも含めてね」
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