79 / 173
12ー1
しおりを挟む
こんな顔のまま遼平くんが目を覚ましたら、心配させてしまう。
とりあえず涙と鼻水でぐじゃぐしゃの顔をどうにかしなきゃ。
辛うじて涙は止まったけど、まだ上手く息継ぎできない。
遼平くんはまだ幸せそうに眠っている。
起こさないよう、口に手を当てたまま着るものを探すと、部屋の箪笥に入っていた浴衣を見つけた。
羽織って足音を立てないように内風呂を探す。
貴賓室には露天風呂が付いているけれど、とてもそんな気分じゃないから。
いくつもあるドアを開け、ようやくパウダールームの奥に続くバスルームを見つけると、勢いよく飛び込んだ。
温目に設定したシャワーの湯を全開して頭から浴びると、少しずつ頭が冴えて来た。
私はこれからどうしたらいいんだろう?
永美ちゃんの存在が遼平くんの中から消えることはきっと、未来永劫、ない。
分かっていたはずの現実を目の当たりにしただけで、こんなに取り乱してしまうなんてーこの先上手くやっていけるのかな?
そもそも、「この先」なんてあるの?
昨夜の流れ的に、元々一夜限りのつもりだったのかもしれない。
考えても考えてもキリがない。
こんな時
私がもっと大人だったら…
永美ちゃんだったら
遼平くんのことを、もっとちゃんと正確に理解してあげられるのかな。
ネガティブ思考全開で頭を洗っていると、廊下からドタドタと騒々しい足音が聞こえてきた。
そして突然、ノックもなしに浴室のドアが「ガチャッ」と空いた。
「わぁっ!ごめん!!」
遼平くんが悲鳴を上げ、ドアはすぐさま閉じられた。
あまりに突然のことで、声も出なかったけど、悲鳴を上げたいの、こっちなんですけど…。
シャワー浴びてたから当然ハダカだし。
昨夜全部見せたけど、バスルームより暗かったし。
恥ずかしさで、折角引っ込んだ涙がまた溢れそうになっていると、遼平くんが弁解を始めた。
「お、起きたらちーちゃんがいなくて、それで…心配で」
そう言えば。
すぐにドアの向こうに消えた遼平くんは、頭は寝癖でボサボサで、浴衣も体に引っ掛けただけの、いつもの遼平くんとはかけ離れた姿だったような…。
泣き顔を見せるより、返って心配をかけてしまったらしい。
こんな時、永美ちゃんだったらどうするんだろう?
「本当にごめん。僕も露天の方に行ってるから、ゆっくりして。後で顔見せて」
「…待って、遼平くん」
浴室のドアを半分開け、顔だけ覗かせて言った。
「勝手にベッド抜け出してごめんね。私、ちゃんとここにいるから」
遼平くんはほんの少しの間目を見開いた後、安堵した顔で頷き、パウダールームを後にした。
とりあえず涙と鼻水でぐじゃぐしゃの顔をどうにかしなきゃ。
辛うじて涙は止まったけど、まだ上手く息継ぎできない。
遼平くんはまだ幸せそうに眠っている。
起こさないよう、口に手を当てたまま着るものを探すと、部屋の箪笥に入っていた浴衣を見つけた。
羽織って足音を立てないように内風呂を探す。
貴賓室には露天風呂が付いているけれど、とてもそんな気分じゃないから。
いくつもあるドアを開け、ようやくパウダールームの奥に続くバスルームを見つけると、勢いよく飛び込んだ。
温目に設定したシャワーの湯を全開して頭から浴びると、少しずつ頭が冴えて来た。
私はこれからどうしたらいいんだろう?
永美ちゃんの存在が遼平くんの中から消えることはきっと、未来永劫、ない。
分かっていたはずの現実を目の当たりにしただけで、こんなに取り乱してしまうなんてーこの先上手くやっていけるのかな?
そもそも、「この先」なんてあるの?
昨夜の流れ的に、元々一夜限りのつもりだったのかもしれない。
考えても考えてもキリがない。
こんな時
私がもっと大人だったら…
永美ちゃんだったら
遼平くんのことを、もっとちゃんと正確に理解してあげられるのかな。
ネガティブ思考全開で頭を洗っていると、廊下からドタドタと騒々しい足音が聞こえてきた。
そして突然、ノックもなしに浴室のドアが「ガチャッ」と空いた。
「わぁっ!ごめん!!」
遼平くんが悲鳴を上げ、ドアはすぐさま閉じられた。
あまりに突然のことで、声も出なかったけど、悲鳴を上げたいの、こっちなんですけど…。
シャワー浴びてたから当然ハダカだし。
昨夜全部見せたけど、バスルームより暗かったし。
恥ずかしさで、折角引っ込んだ涙がまた溢れそうになっていると、遼平くんが弁解を始めた。
「お、起きたらちーちゃんがいなくて、それで…心配で」
そう言えば。
すぐにドアの向こうに消えた遼平くんは、頭は寝癖でボサボサで、浴衣も体に引っ掛けただけの、いつもの遼平くんとはかけ離れた姿だったような…。
泣き顔を見せるより、返って心配をかけてしまったらしい。
こんな時、永美ちゃんだったらどうするんだろう?
「本当にごめん。僕も露天の方に行ってるから、ゆっくりして。後で顔見せて」
「…待って、遼平くん」
浴室のドアを半分開け、顔だけ覗かせて言った。
「勝手にベッド抜け出してごめんね。私、ちゃんとここにいるから」
遼平くんはほんの少しの間目を見開いた後、安堵した顔で頷き、パウダールームを後にした。
1
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる