【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

１４－４

カフェの店員さんからラストオーダーの時間を告げられるまで、座り込んだままその場を動けなかった。

お会計だけは何とか済ませ、触れたら割れてしまいそうな細い三日月に照らされながら、フラフラと覚束ない足取りで駅へと向かう。

私はどうしたらいいんだろう？
どうするべきなんだろう？

ずっと頭の中で答えのない自問を繰り返しているうちに、家にたどり着いていた。

門を潜ろうとした時。
突然、

「こんな時間までどこほっつき歩いてたやがった？」

と、門柱がしゃべった。

びっくりし過ぎてへたり込む私の前に、全身黒尽くめの声の主が闇に溶けていた姿をゆっくりと現し、手を差し伸べた。

「…晴臣！」

数ヶ月ぶりに見たその顔つきは、以前より一層シャープになっている。

「どうして家うちに？」

「…ちょっと、おじさんに話があって」

気まずそうに目を逸らす仕草に、直感が告げた。

「光越のテナントの…件？」

震える声で尋ねると、晴臣は大きく目を見開き、今度は私の目を凝視した。


飛鳥先輩の話は本当だったんだと、引きつった晴臣の顔を見て確信する。

「何で千歳がそれを…？」

「今日飛鳥先輩に会って聞いてきたの」

私の答えがほんの少し晴臣の表情を和らげたけれど、依然として目は吊り上がったままだ。

「飛鳥って…お前に嫌がらせしてたって女だろ？そんなヤツの言うこと真に受けるなよ」

「大学の同級生が光越の人事に居るんだって」

まだ誤魔化せると思っていた目論見が外れたのか、晴臣は苛立ちを隠そうともせずに頭を掻きむしった。
その姿に、こちらも怒りを煽られる。

「だって、遼平くんもお父さんも…晴臣も！！私には何も教えてくれないじゃない！晴臣は知ってたの！？光越と会社のこと。晴臣のお母さんが…晴臣が光越の創業者一族だって…」

「…ああ、知ってたよ」

差し出されたままになっていた手が、私の手首を掴んでゆっくりと立たせた。

「でも、俺には…俺と千歳には関係のないことだと思ってた。俺は千歳と結婚する気でいたからな。そうなってさえいれば、Lotusとeternoの経営は安泰だったし、俺も光越とは無関係でいられたんだ。全部お前が手塚あの男を選んだ結果だよ」

その手の冷たさと、同じくらい。
いや、それ以上に冷たい眼差しに、背筋が凍る。

「これは俺を裏切った復讐だ。俺はお前たちを絶対に幸せになんてしてやらない」