【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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私が中を覗き込むより早く、運転席のドアが開いた。

下りてきた人物の顔を見た途端、パンプスのヒールが急ブレーキを掛ける。

分かっていた。
遼平くんじゃないことくらい。
だって、私は木っ端微塵に振られてるんだから。

現れたのは、カシミヤのチェスターコートに長身を包んだ、いかにもアッパークラス感漂う男。
年齢は、遼平くんと同じくらいだろうか。

「ごめんなさい。人違いでした」

バッチリ目が合ってしまった手前、とりあえず謝っておく。
さっさと踵を返そうとるすと、男はニッコリと微笑んだ。

「君、蓮見千歳さんでしょ?」

「…どうして私を?」

「僕ね、君の大ファンなんだ。毎日ポスター見てるけど、実物の方が100倍可愛いね」

なんて言うか、胡散臭い。
息を吐くように女を口説いてそう。

人生最悪のクリスマスの日に、ナンパ男まで寄越すなんて、神様って本当に意地悪だ。

「それはどうも。急いでいるので、これで失礼します」

「残念だな」

相手にせずに今度こそ立ち去ろうとする私を、またも男が引き止めた。

「君のポスターがもう見れなくなってしまうなんて」

どうしてこの男がそれを?

ただのナンパ男じゃない。
そう考え直し、振り返って相手の顔をまじまじと見た。

「…あなた、誰なんですか?」

「自己紹介する機会をもらえて光栄だな。僕は光城みつぎ宗一郎そういちろう。君のもう一人の婚約者だよ」

光城みつぎ 

その名を聞いて分からないほど馬鹿ではない。

「もしかして、晴臣のー?」

「フフッ。光城うちの名前を聞いて光越会社じゃなく晴臣アイツの名前が出て来るなんて、ちょっと安心したよ」

何を言ってるのかよく分からないけれど、意味深に笑っても涼しげな目元が晴臣のそれを思い出させる。

でも今は、腹が立ってるから一秒も見ていたくない。

「そうですか。じゃ、さようなら」

「ちょっと待ってよ。『婚約者』についてはスルーなの?」

肩を掴まれ、三度目の正直も失敗に終わってしまった。

「離してください!そういうタチの悪い冗談、本当に迷惑なんで…!」

意外なほどあっさりと肩の手を離してくれたかと思えば、凍えそうだった体がカシミアのコートに包まれた。

「冗談なんかじゃないよ。eternoとの契約更新の条件として手塚くんに君を手放させたのは、他でもない僕だからね」

目の前の、この男が?
晴臣じゃなくて?

「あなた、本当に一体何者なんですか…!?」

「あれ?さっき言い忘れてたかな。僕、光越の代表取締役なんだ。ちなみに晴臣から見れば僕は叔父に当たる人間だよ」
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