【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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私の顎を掴み、迫りくる光城の顔を見て、唇を奪おうとしているのだと気づいた。

「…イヤ!!」

反射的に顔を背けると、行き場をなくした光城の口は、私の首に吸い付いた。

「ひっ」

気持ち悪い。
ナメクジが這っているような感触に、手足をジタバタと振り回し、覆いかぶさる光城を振り落とそうと藻掻く。

けれどー

「いいの?eterno手塚くんがどうなっても」

それを言われてしまえば、手も足も出ない。

これは、罰だ。
永美ちゃんのものを奪おうとしたことの。
晴臣の気持ちを踏みにじったことの。

抵抗するのを諦め、体から力を抜くと腕と足が棒きれのようにソファに落ちた。

「健気なことだ」

光城は嘲るように笑うと、私の背中に両手を突っ込みホックを外した。
続いてトップスを掴んでゆっくりとたくし上げにかかる。

「他の男の為に身を捧げるなんて…君が志織だったら、僕なら発狂してしまうだろうね」

光城が何か言っているけど、もうこれ以上屈辱的な状況に耐えられず、目も耳も全てをシャットアウト状態の私にはどんな顔で言っているのかも分からない。

あと少しで胸が顕に…というところで、個室にノック音が響いた。

そうか。
光城の目的は、志織さんを嫉妬させること。
そう言えば、さっき呼び鈴を鳴らしていたんだった。
と、いうことは、ここでこれ以上のことをされる心配はない?

「どうぞ」

光城が私のトップスを掴んだまま返事をした。
その後、志織さんか従業員が現れ、私はすぐにも安堵するはずだった。

が、

ドアが開いた途端、私の頭からはザーッと音を立てて一気に血の気が引いていった。

ドンドンドン!

という地鳴りのような靴音が三回した後、私に乗っかっていた光城の体は、テーブルの上に投げ飛ばされた。

あまりの光景に、息を飲む。

空中に押し出された食器類が砕ける音がする中、光城は体を起こすことも許されないまま、襟首を掴まれた。

「止めて!!」

オーダーを聞くついでに案内役をしてきたらしいママさんの悲鳴では、振り上げた拳は止まらない。

忘れていた呼吸を再開し、思い切り叫んだ。

「晴臣!ダメッ!!」

鼻に触れるか触れないか、まさに間一髪のところで拳は止まり、光城の体は再びテーブルに投げ捨てられた。

すぐに志織さんがテーブルに駆け寄り、光城が体を起こすのを手伝う。
その間晴臣は着ていたコートを脱いで私を包むと、私と光城の間を隔てるように立ちはだかった。 

「どうしてここが?」

「…母さんに聞いた」

「ああ…なるほど。電話口であんなにカッカしてた癖に、よく頭が回ったな。さすが僕の次期社長候補だ」

「千歳、帰るぞ」

これ以上長いは無用と、無視して立ち去ろうとする晴臣を、光城が引き止める。

「その子を側に置いて、本当に後悔しない?」

「……側に居ても居なくても同じくらい苦しいなら、俺は側に居る方を選ぶ」

足だけ止めて答える背中を、光城が温かい眼差しで見送っていると、晴臣がピタリと突然振り返って氷のように冷たい視線を投げかけた。

「宗一郎さあ、俺のためにこんな下らない茶番やってるとみせかけて、好きな女のポイント稼ごうなんて姑息なんだよ。それに、いつまでも無関係な女巻き込んでると、俺みたいにそのうち痛い目見るよ?どうしてもそこのオネエサンがNTRネトラれプレイ好きっていうなら、その道のプロに頼めよな」

「晴臣!お前、頭回りすぎて本っ当可愛くない!!」

喚く光城に、ママさんが「NTRネトラれプレイって何?」と尋ねている途中で、晴臣に店の外に連れ出されると、店の前に晴臣の戦車が横付けされている。

ここ、駐車禁止区域なのに。
エンジンもかけっぱなしで。

「…全部光城の茶番って分かってたって言ってなかったっけ?」

「こんな…ワガママで自己中で危機意識のない女にしたのは俺だから、責任とってるだけだ。いいからさっさと乗れ」

次に車が止まるまでの間、私達にしては珍しく、二人共ずっと黙ったままだった。
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