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しおりを挟む弾かれたように顔を上げると、変わらないフゼアの香りを纏った遼平くんがこちらを窺っていた。
「え…遼平くん!?どうしてここに?」
「ごめんね、こんな時間に突然」
「ううん。良かったら入って」
滅多に使うことのない、ロビーに設置されているソファ。
遼平くんにとりあえず座ってもらい、自販機でコーヒーを買って手渡せば、「ありがとう」と柔らかく微笑みかけられた。
この笑顔を見るのも三年ぶりだ。
もう昔ほど胸がときめくことはないけれど、やっぱり素敵だ。
「本当に久しぶりだね。元気だった?」
今の今まで孤独で死にそうだったとはとても言えなくて、お茶を濁す。
「…うん、まあ。遼平くんは?」
「お陰様で。今日はね、報告があって来たんだ」
「報告?」
「そう。ちーちゃんのお陰で繋がっていた光越との契約が、この三月で終わることになったんだ」
そうだ。
すっかり忘れていた。
あのとき、晴臣が光城からもぎとってくれたeternoと光越の契約期間も三年だった。
「終わりって…全部?eternoは光越から完全撤退するの!?大丈夫なの!?」
聞いたところで、私には何もできることなんてない。
でも、聞かずにはいられなかった。
「いや。売上の良い店舗はいくつか残してもらえることになってる。もちろん契約条件は大分変更されたけどね」
「それで大丈夫なの?」
「うん。僕は実店舗での販売に拘りすぎていたけれど、周りの意見もあって、思い切ってEC 事業の強化をしたら、なんとか軌道に乗せられて、経営を維持できるところまで漕ぎ着けられたんだ」
生き生きと語る遼平くんからは、今までいつも背負っていた影のようなものは、もう感じない。
「そうなんだ…やっぱり遼平くんはすごいな…」
永美ちゃんへの思いを原動力に、着実に前に進んでいる。
それに比べて私はー
と、つい卑屈な気持ちになってしまう。
「全部、ちーちゃんのお陰だよ。本当に感謝してる。…だから、あんな酷いことをした僕が言えた義理じゃないけど…ちーちゃんには誰よりも幸せになって欲しいと心から思ってるんだ。なのに…どうしてこんな所でずっと独りぼっちのままなの?」
「それ、は…」
「僕はちーちゃんにも感謝してるけど、同じくらい椎名くんにも感謝してるんだ。彼が今ここにいないってことは、彼はちーちゃんの気持ちを知らないんでしょう?ちーちゃんがずっとここで独りで待ってる理由を。彼が知ってたら、何があっても、どんなことをしてでも、ちーちゃんの側を離れないはずだよ。どうして言ってあげないの?」
それができたら苦労していない。
私だって好き好んで孤独に耐えている訳じゃない。
「なんで遼平くんがそんなこと言い切れるの?…私なんて自分勝手で、ワガママで、何の取り柄もなくて…だから遼平くんも私のこと利用できたんでしょう!?」
自分の弱さを正当化するために攻撃的になってしまった私は、初めて遼平くんの前で声を荒げてしまった。
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