【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

１８－５

意外と頭は冷静だった。

タクシーの中でスマホを開き、目指すべきターミナルを検索する。

遼平くんに空港に行くように言われたときは、どの飛行機に乗っているかもわからないのに…と思ったけれど、なるほど。
この時間になるとかなり絞られる。

以前テレビで晴臣らしき人を見かけたときの映像の記憶を引っ張り出して、これから着陸する飛行機の離陸地と照合する。

多分、これだ。
シンガポール。

シンガポールなら英語圏だから、英語が堪能な晴臣が行かされたのも理解できる。

「第一ターミナルまでお願いします」

そう伝えた途端、一気に緊張してきた。

やっと会える嬉しさ。
どんな反応をされるかという期待と不安。

そもそも、ずっと帰って来なかったのに、本当に遼平くんの伝言だけで、そんなに簡単に帰ってくるの？

複雑な感情を胸に到着ロビーに足を踏み入れると、丁度飛行機を降りた人たちが続々と出てくるところだった。

旅行客や、スーツ姿のサラリーマン。
最終便って、結構人が多い。
迎えの人もそれなりにいて、混雑していた。

人混みの中、晴臣の姿を探すのって思ったより大変！？

と焦る私の予想を裏切って、晴臣はすぐに見つかった。

でも、それは長身で見つけやすいとかそういう理由ではなく。

三年ぶりに見た晴臣が、鬼の形相で人を押しのけ、すごい速さで歩いていたからだった。

何で！？

普通、空港で、思い合う二人（？）の再会のシーンといえば、お互いの姿を見つけ、感極まった表情で、人目もはばからず熱い抱擁→からのキスが定番じゃないの！？

どんどん近づいてくる晴臣は、凶悪過ぎて、熱い抱擁はおろか、完全に他人のフリをしたいレベル。
ぶつかった相手に一応言っている「すみません」が「邪魔すんな。殺すぞ」に聞こえる。

一体何をどうやったら晴臣をここまで怒らせることができるのか。
やっぱり遼平くんにちゃんと伝言の内容を聞かないと。

地を這う虫のごとく身を低くし、柱の影から遼平くんに電話をかける。

「もしもし、ちーちゃん？無事に会えた？」

「会えたけど、怖すぎて近づけないの！！」

「ああ、やっぱり…行かなくて良かった」

電話の向こうでのんびりと返事をする遼平くんにイライラが募る。

「『やっぱり』じゃなくて！遼平くん、晴臣に何て言ったの！？」

「あー…、それはね…男同士の話っていうか、ちーちゃんにはちょっと言いづらいな」

「いいから早く！遼平くん！！」

小さく絶叫したところで背後に人が立つ気配を感じ、反射的に電話を切った。

「…手塚がどうしたって？」

恐る恐る振り返れば、鬼の形相の晴臣が立っていた。