【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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そんな。
まさか。
いきなりこんな展開になるなんて!!

一人パニクっていると、程なくシャワーを終えた晴臣が寛いでいるのか、リビングからテレビの音が聞こえ始めた。
続いて、お湯張りの終わりを知らせるメロディーが聞こえる。

グズグズしていたら呼びに来られて、顔を合わせる羽目になってしまう。
それどころかお風呂に入らせてもらえなくなるかもしれない。
それだけは何としてでも避けたい。

たまたま買ってあった真新しい下着を握りしめ、バスルームまでダッシュした。

服を脱いで浴室に入ると、鏡に映る自分の姿が目に入った。

この体が、心が、私の全部が今から晴臣のものになるのか。

そう考えたら湯船に浸かってもいないのに体が熱くなる。

鏡を見ないようにしながら、頭の天辺から足の指の間まで、いつも以上に念入りに洗い上げ、のぼせてしまわないうちにバスルームを後にした。

髪を乾かし、パジャマに身を包んだ私は、リビングのドアの前で深呼吸した後、俯いたまま「お持たせ」と言いながらドアを開けた。


でも、返事が返ってこない。


不思議に思って顔を上げると、ソファにあるはずの晴臣の姿が見当たらない。


え?
もしかして、私、晴臣に会いた過ぎて都合のいい夢でも見てた?

不安になって、晴臣の寝室へと急ぐ。
今度は躊躇わずにドアを開けると、晴臣はベッドに大の字で横たわっていた。

スースーと規則的な呼吸音が聞こえる。

…もしかして、寝てる!!?

そっと足音を立てないように近づくと、両目が閉じられていた。

がっかりしたような、ほっとしたような。

でも、仕事忙しかったって言ってたもんね。
心の中で労いながらサラリと額を撫でたときだった。

晴臣の両目がカッと開くと、額に置いた手を引かれ、バランスを失った私の体は強い力で抱きとめられていた。

「は、晴臣!?寝てたんじゃなかったの!?」

ドッと心拍数が跳ね上がる。
慌てて体を起こそうとしても、晴臣の両のかいながそれを許さない。

「この状況で眠れるわけがないだろう。ずっと…ずっとこの日を…千歳が自分の意思で俺のところに来てくれる日を待ち続けて来たんだから」

耳に直接響く同じくらい早打つ晴臣の鼓動と、聞いたことのないほど切なげな声に、逃げようとする気持ちが薄れ、つい口を挟んでしまった。

「私が自分の意思で晴臣のところにって…私、自分から晴臣の寝室ここに何回も来たよ?」

「…アレは単に添い寝しに来てただけだろう?でも…だから…正直、アレが何よりもキツかった」

「キツかった?」

晴臣はまだ私が逃げると思っているのか、そのままの状態で起き上がり、自分の膝の上で私を横抱きにすると、苦々しげな表情で語り出した。

「三年前の契約交渉のとき、手塚から『ちーちゃんは身も心も完全に僕に溺れてる』って吹き込まれて、今日までまんまと信じてたからな。当時あの状況で全く男として求められないことが死ぬほど苦しかった」

遼平くん、何てことを!?
青ざめながら、ただ首をブンブンと横に振ることしかできない私を見て、晴臣が頷いた。

「理由を誤解したまま、千歳に気がないのだけは分かってて。ただ側に居させてくれと自分から望んだ癖に、隣で眠るお前に触れたくて仕方がなかった。」

あの頃、幾度もそうしていたのだろうか。
晴臣は私の髪を一筋掬い上げ、愛おしげに口づけた。

その仕草だけで、胸がいっぱいになる。

「今夜こそ、千歳が欲しい」

私は黙って頷いた。
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