社長の×××

恩田璃星

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葵の家探し 6

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 だけど、今となっては母の行動に、ほんの少し感謝している。

 結局は愛も恋も幻想で、永遠には続かないことを教えてくれた。

 だから、きっと律への気持ちもいつか消えてくれる。

 そう思わせてくれた。

 こんな風に思える日が来るなんて、私も大人になったなぁなんてぼんやり思っていたら、突然背後から律に抱きすくめられた。

 「…りっちゃん?」

 巻きついた腕は私の胸の少し上にあって、このままだと勢いよく跳ねた心臓の音が伝わってしまう。

 何とか律の腕から逃れようともがくと、更に力が込められてしまった。

 「…そんなこと言うな」

 「え?」

 「お前はちゃんと愛されてたよ。お前の母親に」

 思いがけない律の言葉に、一層身体が強張った。

 「…何でりっちゃんにそんなこと分かるのよ?」

 「それは…分かんないけど、俺には分かる」

 「何それ?」

 「それに優おじさんも、父さんも、母さんも…俺も、葵のこと愛してる」

 「…」

 「だから…大丈夫。お前は何も心配せずに、好きなヤツができたら、そいつのとこに飛び込め。それだけで、お前は誰より幸せになれるよ」

 律のことを『すごい毒』と唯人は言った。

 今、身をもってその意味を知った。

 律はハチミツよりも甘い毒で、私の全部を蝕む。
 そしていつも私を意のままに操るのだ。

 私のことを『愛してる』と言って舞い上がらせ、その直後『他の男と、誰より幸せになれ』なんて。

 どこまでも甘くて残酷な、律からの指令。

 分かってるよ。
 私を愛しているのは『家族』として、貴方の『駒』として、だよね。
 
 拒否は許されない。
 そうでしょう?りっちゃん。

 「…そう、かな?」

 声も身体も、震えないよう気をつけたけど、あまり上手くはいかなかった。

 「…俺が言うんだから間違いないだろ」

 「私が幸せにならないと、りっちゃんも安心して結婚できないよね」

 「…母さんに聞いた?」

 「うん。この間ね。…私のことばっか甘やかしてないで、ちゃんと…ちゃんと奥さんになる人、大事にしなきゃ逃げられるよ?うちのお父さんみたいに」

 「俺がそんなヘマするわけないだろ」

 「ヘマって酷ーい。お父さん泣くよ」

 小刻みに震える肩で、泣いてるのがバレないように、「くっくっ」と笑っているフリをした。

 頬を伝わず目から垂直に落ちた涙が、カーペットに吸い込まれ、儚く消えていく瞬間は私にしか見えていないはず。


 それから私がゆっくり律の腕を解いたタイミングで、電話を終えた唯人が戻って来た。





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