聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ

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20.新しい暮らし

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リックに料理を振舞ったあの日から、夕食の準備が私の日課となった。
最初はメイドみたいな事はしないでほしいと言われたが、無視してやり続けていると諦めたのだろう、何も言わなくなったわ。
他にも掃除や洗濯もするようになり、何もできない頃に比べて、大分気持ちが楽になる。
けれど買い物ついでに街へ出かけると、コッソリ職探しをしてみるの。
いつまでもリックの世話になるわけにはいかないと思っているのだけれど、なかなかね。
今日も求人のポスターが貼ってあるレストランの扉をノックするが門前ば払いだった。

帰ってきたリックを迎えて食事を始めると、料理の感想や今日の出来事について話してくれる。
話しの中でエリザベスの知人や友人の名前が出てくると、つい彼らの事を聞いてしまう。
私はエリザベスではないと言っておきながら、気になって仕方がなかった。

夕食後は時々二人で庭へ出て、月を見ながら語り合った。
昔もこうやって夜にテラスやバルコニーに集まって、くだらない話をしていたわ。
そこにはクリスも居て、愚痴をこぼしたり、弱音を吐いたり、将来のことを語ったり、夢を描いたり。
そんなひと時が幸せだった……。
リックと居るとエリザベスの感情が強くなっていく、そんな気がした。

丸い黄金色の月を見上げながら思い出に浸っていると、リックが私の瞳を覗き込むように顔を向ける。

「リサがいた世界は、どんなところだったんですか?」

青い瞳に私の姿が映り込み視線が絡むと、思わず固まった。
彼が異世界の話を振ってきたのは始めで、いつも過去の思い出やこちらの世界の事、お城の話ばかりだったから―――――――――。

異世界での生活。
あの世界にいた事を頭に描くと、分厚い参考書を詰め込んだカバンを持ち大学へ向かう姿が浮かび上がった。
ここへきたあの日も、いつもと同じように大学へ行って、友人たちと合流して……。
里咲と呼ぶ友人の声が頭に響くが、なぜか顔がはっきりと思い出せない。
笑みを浮かべる口元の上は靄がかかったように白い。
それはまるで夢を見ていたかのように、朧で儚げな記憶だった。

どうして思い出せないのかしら。
必死に思い出そうとしてみるが、彼女たちの顔は浮かばない。
大学時代の友人だけではなく、高校時代の友人も、近所の人たちですら顔も名前も思い出せなかった。

18年暮らしていたはずのに……。
頭に手を当てながら考え込んでいると、そんな私の様子に、リックは心配そうな表情を浮かべた。

「どうしましたか?」

彼の声にハッと顔を上げると、私は無理矢理に笑みを作る。

「いえ、そうね、古文書に書いてあった世界よりも近代化していわ。空飛ぶ乗り物や、馬車よりも数倍早い乗り物があってね、移動がとても便利なの。ここから隣町まで馬を走らせても一週間はかかるでしょう?だけど異世界の乗り物なら、2時間程で到着するわ。それにね、何千キロも離れた相手と会話が出来たり、顔を知らない相手とメッセージを送りあえたり出来るのよ。だから世界中の人といつでもどこでもつながれる。あの技術がこの世界にあれば、目まぐるしく発展するでしょうね。だけど私も全てをわかっているわけじゃない。原理原則は難しいものばかりだった。だから出来る事と出来ない事、この世界に見合う形でやってみたいと思っているわ」

咄嗟に里咲の生活ではなく、異世界について答えると、リックは不思議そうな表情を浮かべた。

「すごいですね。鳥のように空を飛ぶのですか?僕もこの目で一度見てみたいものです。あーですが無茶はやめてくださいね。とんでもないことをやらかしそうで心配ですよ」

「もうまた子供扱いして、私ももう大人なのよ。無茶なことはしないわ」

「そう言ってドレス姿で城のバルコニーから飛び降りて、骨折したのはどこのどなたでしょうね?」

「あの時はリックが追いかけてきたからでしょう!せっかく護衛の目をかいくぐって会場から抜け出したのに、リックに見つかるなんて……。はぁ……見逃してとお願いしたのに」

「あれは見過ごせませんよ。なんせ王と王妃が出席する夜会でしたからね。それを抜け出そうとするなんて、信じられませんでしたよ」

「だっていけ好かない隣国の王子が来るなんて聞いてなかったんだもの。クリスは絡まれて嫌そうにしている私を見て笑っているだけだったのよ。うざいと怒鳴るわけにもいかないし、それなら抜け出すしか方法はなかったでしょう」

プクっと頬を膨らませ顔を上げると、リックはクスクスと肩を揺らせて笑う。
その姿に私もつられて笑顔になったのだった。
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