聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ

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37.本物の聖女 (杏奈視点)

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内心狼狽し言葉を探していると、王子は首を傾げ私を覗き込んだ。

「どうしたんだ?」

「いえっ、あっ、すみません。そっ、そうだったんですね……。あの……まだ彼女を探しておられるのですか?」

恐る恐る王子を見つめると、彼は寂し気に笑って見せた。

「さすがにもう探してはいない。だがあいつの事だ、何事もなかったみたいにひょっこりと戻ってきそうな気がするんだ。その日まで俺は誰とも結婚はしない、もちろん婚約もだ。すまない」

王子はおもむろに窓の外へ視線を向けると、焦がれるような表情でじっと聖堂を見つめていた。

王子は今、エリザベスとの思い出を頭に描いているのだろう。
3年たった今でも変わらない気持ち。
その表情を見ていると、胸が張り裂けそうなほどに苦しくなる。
こんなにも王子に思われている里咲さんが羨ましい。

この事を里咲さんに伝えれば、なんと答えるのだろうか。
王子の表情を見る限り、お互い良き仲だったのだとはわかる。
それでも戻りたくないとそういった理由はやっぱり……。

私の居場所を作るための嘘だった……?
いえ、きっとそう……。
だけどここで里咲さんが戻ってきていると伝えれば、王子はすぐに彼女の元へ行ってしまうだろう。
もう彼の瞳に私が映ることはなくなるのかもしれない。
それは……。
私は胸を押さえながらそっと唇を閉ざすと、静かに佇む聖堂を王子の隣で只々眺めていた。

王子の好きな人が里咲さんだと知ってから、彼の瞳を真っすぐに見れなくなった。
隠している後ろめたさとは別に、複雑な想いが込み上げる。
話すべきだとわかっているのに、私の中にいる悪魔が囁くの。

あなたは巻き込まれたの、これぐらい当然じゃない。
里咲さんが勝手に用意したんでしょ、この居場所を。
戻りたくないとそう本人が言ってるのだから、このままでいいじゃない。
それに彼女は街で働き先も見つかって、楽しんで生活しているんだから、きっと大丈夫よ。
だって彼女を知っているのは、あなたとリチャード様だけ。
王子の護衛騎士である彼が黙っているんだから問題ないじゃない。

それにこのまま黙っていれば、王子はいつか彼女を諦めるのかもしれないわよ。
今はまだ3年、だけど5年、6年と時がたてば気持ちも変わるわ。
弱っていく彼の心に付け込むチャンスよ。
そして王子があなたを選べば……王子と結ばれて幸せになれる。

ずっと里咲に憧れていたんでしょう?
王子と結ばれれば、里咲の代わりになれるじゃない。
キラキラ輝いてたあなたに戻れる。
そうなればあなたが主人公よ。

弱った心が醜い悪魔に囚われていく。
ニヤニヤと笑う悪魔を見つめていると、その隣に天使の姿をした自分が現れた。
すると彼女は必死にこう囁く。

だめよ、嘘はいけないわ。
あなたは主人公じゃないの。
里咲さんはあなたを助けるために、この世界へ連れてきてくれたんでしょう。
聖女であるはずの彼女の代わりになんてなってはいけなかったのよ。
それにあなたの大切な王子様は、彼女に会いたがっているのよ。
ずっと彼女を待ち続けて、思い続けているわ。

よく考えてみて、里咲さんもきっと王子に会いたいはずでしょ。
だってあんなに素敵な王子様なんだもの。
それに二人は婚約者で幼馴染だったのよ。
彼女は優しいから、あなたを巻き込んでしまった罪滅ぼしに、この場所を用意してくれただけ。
だれが好き好んで、平民として貧乏な生活をしたがるのよ。

安い賃金で汗水垂らして働いて、あなたを守るために、言わないだけで辛いを思いをしているの。
本当はあなたがそうなる側だったのに。
よく考えてみて、この城に居れば、働かなくても優雅な生活が出来るのよ。
それにエリザベスの記憶が彼女なら、この生活にもすぐ馴染めていたはずよ。
なのにいいの?彼女を犠牲にしてこんな生活して。
本当に幸せになれるの?

天使の言葉が刃のように突き刺さる。
私は……いつも自分のことばかりで……。
里咲さんはこの世界に居た時に何かいざこざがあって、聖女にならなかったのだとそう勝手に言い聞かせていた。
幼馴染と会いたくない、喧嘩をして険悪になったのかもしれない、そう思い込もうとしていた。
だから何も調べないで、知ろうともしないで、自分がこの場所に居たかったから……。
王子傍に居たかったから……。

だけど王子から聞いた里咲さんの姿に、私を助けるために聖女にならなかったのだと、そうはっきりわかってしまった。
だってあんなに素敵な王子様に、いなくなってからもずっと思い続けられているエリザベスは、きっと素晴らしい女性だったのだとわかったから……。
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