悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
14 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

悪役令嬢になります

しおりを挟む
 初めての学園生活はアメリアやウィリ様達のおかげで思いのほか楽しくて、アッという間に一年が過ぎ、私達はドリミア学園の2年生になった。

 今年はウィリ様をはじめ、お昼仲間は皆んな同じクラスになった。

 前世の記憶を取り戻してからは、家族だけではなく、お父様の執事のクロードをはじめ『ゲームには殆ど登場しなかった人達』との交流も、大切にするように努めてきた。

 学園でも『ゲームの中のエリザベート』のような奇抜で悪目立ちするような派手なドレスも着ていない・・・はずだ・・・

 通学用のドレスも自分に似合う派手すぎないものにしてもらっている。

 記憶を取り戻した時、ゲームの中のエリザベートと同じ運命をたどらないようにしようと決めた。そしてこれから自分はどうしたら良いのかを考えた。

 そうよ!あのエリザベートと正反対な事をしよう。悪役令嬢にならないように気をつければいいんだわ。

 傲慢にならない。
 ワガママを言わない。
 食べ物の好き嫌いを言わない。
 人には優しく。
 感謝の気持ちをもって。
 きちんと挨拶をしてお礼を言う。
 その他いろいろ・・

 この9年間、私は本気で頑張ってきた。

 それなのに、私は今もまだ、傲慢で自分勝手なワガママ娘と言われ続けているらしい。

「ご機嫌よう。エリザベート様」

「ご機嫌よう。エリザベート様」

 毎朝、必ず、私に挨拶しに来て下さるクラスメイトが何人かいる。

 彼女達は、私が将来ウィリ様と結婚すると思っている。だから、まるで私が、すでに王妃様になっているかのように、恭しい(うやうやしい)態度で接してくるのだ。

「エリザベート様とウィリアム殿下は、お互いに、なんと呼び合っておられますの?私、前からお聞きしたかったんです」

 その中の1人が聞いてきた。

「殿下は幼い頃から私の事をエリザと呼ばれますわ。私はウィリ様と呼んでいます」

「まあ!素敵!本当に仲が良ろしいのね。後の婚約者候補の皆さんの、入り込む隙なんてありませんわね」

「本当にそうですわ。お2人の間に割り込むような人がいたら、私たちが許しませんわ」

「そうそう、エリザベート様。婚約者候補のお1人が、うちのクラスにいるのをご存知ですか?私、昨日の昼過ぎに、ウィリアム殿下がその令嬢のハンカチを拾ってあげてるのを見てしまいましたの」

「まあ。ウィリアム殿下が?」 

「ええ、その令嬢にとても優しい笑顔を向けておいででしたわ」

「まあ!許せませんわ。ねえ、エリザベート様」

 それはきっと、マルティナ様のことだろう。彼女は今も頑張っておられるのね。

 それにしても、この方達の情報網はすごいわ。彼女達はゲームに出てきた『取り巻き』なのだろう。

「いえ、そっとしておきましょう。ウィリ様は誰にでも優しい方なのよ」

「余裕ですわね。さすがエリザベート様ですわ」

 私は彼女達の話に微笑みながら、当たり障りのない言葉を返していた。

「エリザベート様の今日のドレスも素敵ですわ。本当によく似合っていらっしゃいますわ」

「エリザベート様の知識の深さには脱帽いたしますわ」

 取り巻きのクラスメイト達はいつも、私に話しかけては、褒めて、持ち上げてる。

 ゲームの中の独りぼっちのエリザベートは、どんな気持ちでこの取り巻き達の話を聞いていたのだろう。

 この取り巻き達が、婚約破棄のパーティーの夜、エリザに言われて仕方なくロリエッタを虐めていたと、証言するのは、まだまだ先の話だ。

 彼女達の話に乗らないように注意しなければ。そう思っていたのに。

 取り巻き達が私を囲んで井戸端会議をするのは、朝の挨拶が終わった後の数分だけだった。だから私は彼女達のペースに任せていた。

 けれど、それが不味かったのだ。
 私はまだまだ甘かったのだ。 

 ここはやっぱり『王国の聖女ロリエッタ』の世界で、悪役令嬢エリザベートには冷たい場所だった。

 毎朝、私に挨拶をした後、学園の噂話をして盛り上がっている彼女達が、別の場所で別の教室で、沢山の人に広げている噂の内容を、2年生になってから、アメリアが耳にしてきた。

「私達のクラスにはエリザベート様がいるから大変なのよ」

「毎朝、挨拶をしに行かなければ不機嫌だし」

「あの大きな縦巻きロールもご自慢のようだから、褒めないといけないの」

「隣りのクラスのウィリアム殿下に話しかけただけで、口も聞いて頂けないのよ」

「まあ!ひどい!」

「エドモンド様にご挨拶をしただけで、睨まれた方もいらっしゃるのよ」

「怖いわ」

「だから誰も、ウィリアム殿下とエドモンド様に近づけないのよ」

 私はそれを聞いて呆れてしまった。

「はあ?何?それ?」

 前世の私ならばきっとこう言っただろう。
 そう言う気分だ。 
 前世でなくても言ってもいいだろうか?

「私は他の生徒の行動などに興味がない。
 ウィリ様に話しかけるのなら、お好きにどうぞ。エドに挨拶するのもご勝手に」と。

 挨拶も別に来てもらわなくて良かったのに。
 この大きめの縦巻きロールも。自分が気に入っているから、それでいいのに。

 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。

 アメリアからの情報だけではなく、エドにもお願いして、今までの私に関する噂話の情報を、集めてもらった。

「エリザ、お前も大変なんだな」

 集めた噂話を教えてくれながら、エドが同情の眼差しを向けてくれる。

「ありがとう、エド。これで心が決まったわ」

「どう決まったんだ?」

「私、悪役令嬢になってもいいわ」

「「悪役令嬢?」」

「悪役令嬢か。面白そうだね。エリザに似合いそうだ」

「確かに、似合いそうだ」

「悪役令嬢になっても、私を見捨てないで。国外に追放しないでくれる?」

「大丈夫だよ、エリザ。約束しよう」

 ウィリ様はやっぱり優しい。どさくさに紛れて、ウィリ様に国外追放をしないと約束させてしまったわ。

「追放されたら僕が一緒に付いて行ってやろうか?」

「僕も一緒に行きたいな」

「それは国外追放じゃなくて、外国旅行じゃないの」

「でも二人ともありがとう。私わかったの。黙っていても悪役令嬢にされてしまうって。だったら、きちんとした悪役令嬢になろうと決めたのよ」

「エリザはやっぱり面白いな」

「それがエリザだからね。しっかり考えて、良い悪役令嬢になるんだよ」

「ありがとうウィリ様。私、良い悪役令嬢になるわ。だから、絶対に国外追放しないでね」

「わかったよ」

「『良い』悪役令嬢か。お手並拝見だな」

「なんだか楽しそうね。悪役令嬢の友達も必要じゃない?」

「アメリア。その役を頼める?」

「もちろんよ。『悪役令嬢エリザベートを見守る会』を作るわ」

「見守る会か面白そうだね、殿下」

「しっかりやるんだよ、エリザ」

 何も知らないのに、私を応援してくれると言う貴方達がいるから、私は頑張れる。

 お父様とお兄様はもう大丈夫だ。
 アメリアと言う親友もできた。
 少しずつ変わってきている。

 ここで勇気を出して私らしく生きよう。それで悪役令嬢と言われるのなら、それでいい。

「明日のお昼は食堂に行きましょうか?」

 そう言った私に3人とも笑って頷いてくれたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...