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エリザベート嬢はあきらめない
サウスパール王国の闇
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『エリザ、エリザ。まだ、苦しんでる子がいるよ』
ポケットの中から出てきた緑の精霊ミールが言った。
(ミールも付いて来ていたのね)
今日はこの小さな友人の存在をすっかり忘れていた。
突然聞こえてきた声で、その存在を思い出したエリザは、ちょっとミールに申し訳なかったなと思いながら苦笑した。
『苦しんでいる子?このお城にいるの?』
ミールに念話で尋ねた。
『そう、このお城にいるわ。この部屋の空気はとっても清らかになったけれど、その子の部屋は真っ暗で息苦しそう。その子が助けを呼んでいるよ』
「この部屋の他にも、まだ私が浄化しなければならない場所があるようですわ。
ロザリー様。出てみないと場所は分からないのですが、この部屋を出てもよろしいでしょうか?」
レティシア様がミールの言葉を聞いて王妃様に言った。
王妃様をはじめ、サウスパール王国の全員が困ったような顔をした。
「原因がそこにあるなら、この部屋を浄化した意味がなくなってしまいます。原因の場所を浄化しなければ、この部屋もまた元の状態に戻ってしまうでしょう」
それでもサウスパール王国の全員は、ドアの前に立ち塞がる。
「レティシア様、実は外に出れない重要な理由があるのです」
王妃様は決心したような表情で、サウスパール王家の隠された闇の部分について、語り始めた。
サウスパール国王の側室の女性は、何やら怪しげな輩と繋がっていて、彼女の護衛と称して彼らはこの城に自由に出入りしているらしい。
きっと城全体が見張られている。この部屋から一歩でも出たら、私とレティシア様の存在が彼らに見つかってしまうと言うのだ。
その輩が城に出入りするようになった頃から、サウスパール城の雰囲気が変わって行ったらしい。
王の信頼していた側近が亡くなったり、重い病に倒れたりして、王の周りには信頼できる重鎮が殆どいなくなってしまった。
側室は言葉たくみに彼らを王に紹介して行ったらしい。
そしていつの間にか、国王陛下の周りの重要なポストの殆どすべてが、彼らの仲間で埋まっていたそうだ。
側室の息子(第2王子)を次の国王にする為に、彼らは闇魔法をつかって、王太子であるアンソニーを亡き者にしようと企んでいる。
ドリミア学園の魔法学教室での事件も、そんな彼らからの攻撃だったのだ。
彼らはアンソニーがいなくなったら、王は王妃様が産んだサミュール様に、王位を継承させるつもりではないかと考えている。
「サミュール様。虚弱体質を改善できると聞く果物をお持ちしました。このお薬も巷で虚弱体質に効くと評判ですのよ」
そんな優しい言葉をかけて、側室はサミュール王子や側近に近づいて行った。
初めは側室を警戒していた第3王子の側近や従者も、たびたびの贈り物に慣れていき、警戒心も薄れていった。
そして、周りが気がついた時には、明るく素直だったサミュール王子は笑わなくなっていた。口数も少なくなって、どこか人を警戒するようになってしまっていた。
2年前の魔法学教室の事件には、闇の魔法が使われていた。
アンソニーは第3王子が変わってしまった原因も、闇魔法に関係があるのでは?と気がついたのだ。
それからは、側室からのお見舞いの品を、全て破棄してその後は受け取らないようにと、サミュール王子の側近に指示を出した。
そうする事によって、サミュール様は薬が切れた時に中毒症状で苦しんだけれど、やがて抜け出すことができた。
けれど、サミュール王子の明るさは戻らず、先日、とうとう寝込んでしまい、目を覚さない状態になってしまったという訳だ。
彼らは恐ろしい。だから王妃様達は、お祖母様と私がここにいると彼らに知られないように、部屋から出る事に反対しているのだ。
『ミールがレティシア様とエリザを見えなくしてあげようか?』
思わぬ助けが入った。
『そんな事が出来るの?ミール。』
『出来るよ。他の人間からも見えなくなってしまうけどね』
『いい考えね』
レティシア様が言った。
「ロザリー様、近くに可愛らしい精霊が来てくれているんです」
「まあ、素敵!」
「側室達に見つからないように、精霊が私とエリザの姿を消してくれます。だから、自由にこの部屋から抜け出す許可を頂けませんか?」
「さすがヴァイオレッの大聖女様ですね。精霊とも話せるなんて。わかりました。貴方様を信じますわ」
こうして、私達は部屋の外に自由に出ていく許可をもらったのだ。
「今から精霊に、私達2人の姿を消してもらいまね。ご心配なさならいで」
レティシア様は後の皆さまにそう言ったあと、念話でミールに言った。
『ミール、お願いするわ』
レティシア様が言うと、ミールは小さな手をサッと振り上げた。それはまるで踊っているように見えた。緑の光が私とレティシア様に降り注いだ。
『これで悪い奴らにも、誰にも見えなくなったよ』
『ありがとう、ミール』
「まあ、お2人の姿が本当に消えてしまったわ」
「これは驚いた!」
「ドアが開いたら僕達も外に出ます。エリザ、僕が見える?」
「見えますわ。アンソニー」
「声は聞こえるんだね。僕には君達が見えないから、どこに向かうのか言ってくれる?」
『あの部屋が真っ黒よ』
私にも『真っ黒』は見える。
「今、私たちが立っている場所から見える、前の建物の3階の部屋は、何方(どなた)のお部屋なの?そこに行きたいわ」
「フレッグの部屋だ」
「第2王子の部屋です。あの部屋は危険です」
アンソニーとレオンは反対した。
サミュール王子の側近のエリオと王妃様は、そのまま王子の側に残っている。
『中には男の子1人だけだよ。他に誰もいないよ。その子が1人でソファーに座ってるんだ。『助けて』って言っているのは、その子だよ』
『行ってみましょう。ミール、瞬間移動で中に入っても大丈夫かしら?』
レティシア様は数々の危険な場所を浄化してこられた方だ。この行動力と判断力はさすがだ。
『大丈夫だよ。その子の他には誰もいないから』
「精霊に聞いてみたら、部屋のまわりにも中にも誰もいないみたい。あの部屋は誰にも見張られてはいないようよ。
誰か来る前に入りますね。心配なさらないでね」
レティシア様は他の皆さまを気遣って言われた。
「アンソニーもレオンも、サミュール様のお側にいて差し上げて。私達は大丈夫だから」
「わかった。くれぐれも気をつけて」
「ええ、気をつけますわ。では行ってきます」
私とアンソニーの会話が終わった次の瞬間、私とお祖母様は第2王子フレッグの部屋の中にいた。レティシア様が移動魔法を使ったのだ。
ミールの緑の光のおかげで、私達の姿は消えた状態だ。
立派な家具やソファーが置かれ、煌びやかな飾り付けがしてある部屋だった。
ボーっとした様子でソファーに座っている青年。この方がきっと第2王子のフレッグ様だろう。
良く見ると、彼は人には見えない黒い紐で括られていた。あの『元気の補充が必要マーク』と同じ黒い瘴気の紐(ひも)だった。
何重にもグルグルと瘴気の紐は彼に巻きついていた。手にも足にも身動き出来ないほどに巻きつけられていた。
「誰だ!そこにいるのは。また母上に何か言われて私を操りに来たのか!」
「!」
「!」
「生憎(あいにく)だな。私はまだお前達が望むほど、弱ってはいない。アイツにも母上にもそう伝えるがいい」
第2王子のフレッグ様は、私達がいる方向を見てそう言った。
彼は真面(まとも)だった。
そして、姿を消した私たちの気配を感じる魔力を持っている。彼の助けを求める気持ちがミールに届いたのだ。
レティシア様は彼から見えないままの姿で、フレッグ王子に近づいた。
「フレッグ様、お静かに。私はアミルダ王国のレティシアと言います。見えない姿のままのご挨拶で失礼いたします。」
「アミルダ王国のレティシア様?聖女レティシア様ですか?」
「はい。私はレティシアです。良く1人で頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」
そう言ってレティシア様は、フレッグ王子に巻かれた黒い紐に手を置いた。
するとフレッグ王子が光に包まれ、光の飛沫で全身が見えなくなった。黒い紐やその他、沢山の糸や紐が光の外に飛び出して、消えていく。
全ての糸や紐が飛び出したあと光の飛沫(しぶき)が鎮まり、彼を包んでいた光も消えていった。
彼を縛っていた紐は全て消えていた。
ミールは優雅に手を一振りして、緑の光をフレッグ王子に飛ばした。緑の光はキラキラと輝いて彼の中に消えていった。
自分も消えることで、フレッグ王子は私とレティシア様を見る事が出来るようになった。
「貴方がレティシア様ですか?」
フレッグ王子はお祖母様に言った。
「貴方は?」
「私はドリミア王国のエリザベート・ノイズです」
「貴方が!」
(どうやら、フレッグ王子は私を知っているようだわ)
「私はアンソニー様の同級生ですのよ」
「その貴方がどうしてここに?どうして・・?」
「貴方が助けを求めている声が聞こえたのです。お助けに参りました。フレッグ様」
レティシア様が言った。
「本当に?・・助けに来て下さったのですか?・・私を?」
「そうです」
「フレッグ様、もう大丈夫です」
「ああ!本当に?ありがとう!ありがとうございます!」
フレッグ王子は感極まったご様子だ。
この部屋を見張っていた術は、私たちが入って来た時に効力を失っている。
レティシア様は光魔法でこの部屋を浄化した。
「フレッグ様、今からサミュール様の部屋に参ります。よろしいですか?」
「わかりました」
瞬間移動で私達3人はサミュール様の部屋に戻ってきた。
レティシア様が部屋に結界を張り、外から誰も部屋に入れないようにした。話し声も漏れないようにした。そしてミールの魔法を解いてもらった。
「フレッグ殿下!」
「フレッグ!」
「フレッグ様!」
「フレッグ兄さま」
「フレッグ様」
皆が口々にフレッグ王子を呼ぶ。
「王妃様、兄上、サミュール。私と私の母が・・・。すまない」
「レオン、エリオ、お前達にも迷惑をかけた。申し訳ない!」
フレッグ王子は皆に向かって頭を下げた。
「フレッグ様。頭を上げて下さいませ。貴方様のせいではありません。お一人で戦っておられたのですね。お可哀想に・・」
王妃様は涙を流しながらフレッグ王子を優しく抱きしめた。
「王妃様、陛下は何処に?」
レティシア様が尋ねた。
「ご自分の部屋にいらっしゃいます」
「今から行かせて頂いても?国王陛下にも一緒に、フレッグ様のお話を聞いて頂きたいので」
「もちろんです。陛下をこちらにお連れしてはどうでしょうか?レティシア様」
『王様の部屋は、外から見張られているけれど、中には王様しかいないよ』
ミールが教えてくれる。
「今なら誰も見張っていないようです」
「王妃様、私とエリザベートと一緒に、陛下の部屋に行って頂けますか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。では、まいります」
『ミールお願い』
『わかったよ』
私とレティシア様、そして王妃様はミールの緑の光で姿を消してもらった。そして、レティシア様の瞬間移動で国王陛下の部屋に入った。
陛下は執務中だった。
側近も誰もいなかった。
レティシア様はすぐに部屋に結界を張った。これで、外から誰も入って来れない。声も漏れなくなった。部屋に仕掛けてあった見張りの魔法も解除した。
全ての処理が終わった後、ロザリー様が陛下に声をかけた。
「陛下」
国王陛下は声のする方を振り返ったが、勿論、王妃様の姿は見えない。
「陛下、ロザリーです。今、陛下の前に来ております。許しもなく入室した事、お許し下さい。外で見張っている者に知られたくなかったので」
「ロザリーか。面白い術を使って入ってきたものだな」
「陛下、ここに、聖女レティシア様とノイズ公爵家の令嬢のエリザベート様がいらっしゃいます」
「目の前に?」
「そうです」
『ミール、解除をお願い』
私達はサウスパールの国王陛下の前に姿を現した。私とレティシア様は陛下に一礼をして、一歩下がった。
王妃様は今までの事を陛下に説明した。
国王陛下はサミュール様が目を覚された事を大変喜ばれて、すぐに部屋を訪ねたいと言われた。
王妃様は、フレッグ様のことは話されなかった。
私たち4人はお祖母様(聖女レティシア)の瞬間移動でサミュール様の部屋に戻ってきた。
その場にいた全員が、私たちと一緒に現れた国王陛下に一礼をした。
「サミュール!気がついたか!」
「父上!」
国王陛下はサミュール王子の手を握った。お互いに何度も何度も頷きあって喜びを噛み締めておられた。
そのあとで私たちを振り返った国王陛下は、初めてフレッグ王子に気がついて、大きく目を見開かれた。
「フレッグ、其方が何故ここに?」
「父上・・」
「フレッグ様のお話を一緒に聞いて頂きたくて、陛下にここに来て頂きました。どうぞ、こちらにお座り下さいませ」
王妃様が陛下にソファーを勧めた。
私たちもそれぞれソファーに座り、サミュール様の側近のエリオが皆にお茶とお菓子を用意して下さった。
そしてフレッグ様は国王陛下に挨拶をした後、今までの事を話し始めたのだった。
ポケットの中から出てきた緑の精霊ミールが言った。
(ミールも付いて来ていたのね)
今日はこの小さな友人の存在をすっかり忘れていた。
突然聞こえてきた声で、その存在を思い出したエリザは、ちょっとミールに申し訳なかったなと思いながら苦笑した。
『苦しんでいる子?このお城にいるの?』
ミールに念話で尋ねた。
『そう、このお城にいるわ。この部屋の空気はとっても清らかになったけれど、その子の部屋は真っ暗で息苦しそう。その子が助けを呼んでいるよ』
「この部屋の他にも、まだ私が浄化しなければならない場所があるようですわ。
ロザリー様。出てみないと場所は分からないのですが、この部屋を出てもよろしいでしょうか?」
レティシア様がミールの言葉を聞いて王妃様に言った。
王妃様をはじめ、サウスパール王国の全員が困ったような顔をした。
「原因がそこにあるなら、この部屋を浄化した意味がなくなってしまいます。原因の場所を浄化しなければ、この部屋もまた元の状態に戻ってしまうでしょう」
それでもサウスパール王国の全員は、ドアの前に立ち塞がる。
「レティシア様、実は外に出れない重要な理由があるのです」
王妃様は決心したような表情で、サウスパール王家の隠された闇の部分について、語り始めた。
サウスパール国王の側室の女性は、何やら怪しげな輩と繋がっていて、彼女の護衛と称して彼らはこの城に自由に出入りしているらしい。
きっと城全体が見張られている。この部屋から一歩でも出たら、私とレティシア様の存在が彼らに見つかってしまうと言うのだ。
その輩が城に出入りするようになった頃から、サウスパール城の雰囲気が変わって行ったらしい。
王の信頼していた側近が亡くなったり、重い病に倒れたりして、王の周りには信頼できる重鎮が殆どいなくなってしまった。
側室は言葉たくみに彼らを王に紹介して行ったらしい。
そしていつの間にか、国王陛下の周りの重要なポストの殆どすべてが、彼らの仲間で埋まっていたそうだ。
側室の息子(第2王子)を次の国王にする為に、彼らは闇魔法をつかって、王太子であるアンソニーを亡き者にしようと企んでいる。
ドリミア学園の魔法学教室での事件も、そんな彼らからの攻撃だったのだ。
彼らはアンソニーがいなくなったら、王は王妃様が産んだサミュール様に、王位を継承させるつもりではないかと考えている。
「サミュール様。虚弱体質を改善できると聞く果物をお持ちしました。このお薬も巷で虚弱体質に効くと評判ですのよ」
そんな優しい言葉をかけて、側室はサミュール王子や側近に近づいて行った。
初めは側室を警戒していた第3王子の側近や従者も、たびたびの贈り物に慣れていき、警戒心も薄れていった。
そして、周りが気がついた時には、明るく素直だったサミュール王子は笑わなくなっていた。口数も少なくなって、どこか人を警戒するようになってしまっていた。
2年前の魔法学教室の事件には、闇の魔法が使われていた。
アンソニーは第3王子が変わってしまった原因も、闇魔法に関係があるのでは?と気がついたのだ。
それからは、側室からのお見舞いの品を、全て破棄してその後は受け取らないようにと、サミュール王子の側近に指示を出した。
そうする事によって、サミュール様は薬が切れた時に中毒症状で苦しんだけれど、やがて抜け出すことができた。
けれど、サミュール王子の明るさは戻らず、先日、とうとう寝込んでしまい、目を覚さない状態になってしまったという訳だ。
彼らは恐ろしい。だから王妃様達は、お祖母様と私がここにいると彼らに知られないように、部屋から出る事に反対しているのだ。
『ミールがレティシア様とエリザを見えなくしてあげようか?』
思わぬ助けが入った。
『そんな事が出来るの?ミール。』
『出来るよ。他の人間からも見えなくなってしまうけどね』
『いい考えね』
レティシア様が言った。
「ロザリー様、近くに可愛らしい精霊が来てくれているんです」
「まあ、素敵!」
「側室達に見つからないように、精霊が私とエリザの姿を消してくれます。だから、自由にこの部屋から抜け出す許可を頂けませんか?」
「さすがヴァイオレッの大聖女様ですね。精霊とも話せるなんて。わかりました。貴方様を信じますわ」
こうして、私達は部屋の外に自由に出ていく許可をもらったのだ。
「今から精霊に、私達2人の姿を消してもらいまね。ご心配なさならいで」
レティシア様は後の皆さまにそう言ったあと、念話でミールに言った。
『ミール、お願いするわ』
レティシア様が言うと、ミールは小さな手をサッと振り上げた。それはまるで踊っているように見えた。緑の光が私とレティシア様に降り注いだ。
『これで悪い奴らにも、誰にも見えなくなったよ』
『ありがとう、ミール』
「まあ、お2人の姿が本当に消えてしまったわ」
「これは驚いた!」
「ドアが開いたら僕達も外に出ます。エリザ、僕が見える?」
「見えますわ。アンソニー」
「声は聞こえるんだね。僕には君達が見えないから、どこに向かうのか言ってくれる?」
『あの部屋が真っ黒よ』
私にも『真っ黒』は見える。
「今、私たちが立っている場所から見える、前の建物の3階の部屋は、何方(どなた)のお部屋なの?そこに行きたいわ」
「フレッグの部屋だ」
「第2王子の部屋です。あの部屋は危険です」
アンソニーとレオンは反対した。
サミュール王子の側近のエリオと王妃様は、そのまま王子の側に残っている。
『中には男の子1人だけだよ。他に誰もいないよ。その子が1人でソファーに座ってるんだ。『助けて』って言っているのは、その子だよ』
『行ってみましょう。ミール、瞬間移動で中に入っても大丈夫かしら?』
レティシア様は数々の危険な場所を浄化してこられた方だ。この行動力と判断力はさすがだ。
『大丈夫だよ。その子の他には誰もいないから』
「精霊に聞いてみたら、部屋のまわりにも中にも誰もいないみたい。あの部屋は誰にも見張られてはいないようよ。
誰か来る前に入りますね。心配なさらないでね」
レティシア様は他の皆さまを気遣って言われた。
「アンソニーもレオンも、サミュール様のお側にいて差し上げて。私達は大丈夫だから」
「わかった。くれぐれも気をつけて」
「ええ、気をつけますわ。では行ってきます」
私とアンソニーの会話が終わった次の瞬間、私とお祖母様は第2王子フレッグの部屋の中にいた。レティシア様が移動魔法を使ったのだ。
ミールの緑の光のおかげで、私達の姿は消えた状態だ。
立派な家具やソファーが置かれ、煌びやかな飾り付けがしてある部屋だった。
ボーっとした様子でソファーに座っている青年。この方がきっと第2王子のフレッグ様だろう。
良く見ると、彼は人には見えない黒い紐で括られていた。あの『元気の補充が必要マーク』と同じ黒い瘴気の紐(ひも)だった。
何重にもグルグルと瘴気の紐は彼に巻きついていた。手にも足にも身動き出来ないほどに巻きつけられていた。
「誰だ!そこにいるのは。また母上に何か言われて私を操りに来たのか!」
「!」
「!」
「生憎(あいにく)だな。私はまだお前達が望むほど、弱ってはいない。アイツにも母上にもそう伝えるがいい」
第2王子のフレッグ様は、私達がいる方向を見てそう言った。
彼は真面(まとも)だった。
そして、姿を消した私たちの気配を感じる魔力を持っている。彼の助けを求める気持ちがミールに届いたのだ。
レティシア様は彼から見えないままの姿で、フレッグ王子に近づいた。
「フレッグ様、お静かに。私はアミルダ王国のレティシアと言います。見えない姿のままのご挨拶で失礼いたします。」
「アミルダ王国のレティシア様?聖女レティシア様ですか?」
「はい。私はレティシアです。良く1人で頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」
そう言ってレティシア様は、フレッグ王子に巻かれた黒い紐に手を置いた。
するとフレッグ王子が光に包まれ、光の飛沫で全身が見えなくなった。黒い紐やその他、沢山の糸や紐が光の外に飛び出して、消えていく。
全ての糸や紐が飛び出したあと光の飛沫(しぶき)が鎮まり、彼を包んでいた光も消えていった。
彼を縛っていた紐は全て消えていた。
ミールは優雅に手を一振りして、緑の光をフレッグ王子に飛ばした。緑の光はキラキラと輝いて彼の中に消えていった。
自分も消えることで、フレッグ王子は私とレティシア様を見る事が出来るようになった。
「貴方がレティシア様ですか?」
フレッグ王子はお祖母様に言った。
「貴方は?」
「私はドリミア王国のエリザベート・ノイズです」
「貴方が!」
(どうやら、フレッグ王子は私を知っているようだわ)
「私はアンソニー様の同級生ですのよ」
「その貴方がどうしてここに?どうして・・?」
「貴方が助けを求めている声が聞こえたのです。お助けに参りました。フレッグ様」
レティシア様が言った。
「本当に?・・助けに来て下さったのですか?・・私を?」
「そうです」
「フレッグ様、もう大丈夫です」
「ああ!本当に?ありがとう!ありがとうございます!」
フレッグ王子は感極まったご様子だ。
この部屋を見張っていた術は、私たちが入って来た時に効力を失っている。
レティシア様は光魔法でこの部屋を浄化した。
「フレッグ様、今からサミュール様の部屋に参ります。よろしいですか?」
「わかりました」
瞬間移動で私達3人はサミュール様の部屋に戻ってきた。
レティシア様が部屋に結界を張り、外から誰も部屋に入れないようにした。話し声も漏れないようにした。そしてミールの魔法を解いてもらった。
「フレッグ殿下!」
「フレッグ!」
「フレッグ様!」
「フレッグ兄さま」
「フレッグ様」
皆が口々にフレッグ王子を呼ぶ。
「王妃様、兄上、サミュール。私と私の母が・・・。すまない」
「レオン、エリオ、お前達にも迷惑をかけた。申し訳ない!」
フレッグ王子は皆に向かって頭を下げた。
「フレッグ様。頭を上げて下さいませ。貴方様のせいではありません。お一人で戦っておられたのですね。お可哀想に・・」
王妃様は涙を流しながらフレッグ王子を優しく抱きしめた。
「王妃様、陛下は何処に?」
レティシア様が尋ねた。
「ご自分の部屋にいらっしゃいます」
「今から行かせて頂いても?国王陛下にも一緒に、フレッグ様のお話を聞いて頂きたいので」
「もちろんです。陛下をこちらにお連れしてはどうでしょうか?レティシア様」
『王様の部屋は、外から見張られているけれど、中には王様しかいないよ』
ミールが教えてくれる。
「今なら誰も見張っていないようです」
「王妃様、私とエリザベートと一緒に、陛下の部屋に行って頂けますか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。では、まいります」
『ミールお願い』
『わかったよ』
私とレティシア様、そして王妃様はミールの緑の光で姿を消してもらった。そして、レティシア様の瞬間移動で国王陛下の部屋に入った。
陛下は執務中だった。
側近も誰もいなかった。
レティシア様はすぐに部屋に結界を張った。これで、外から誰も入って来れない。声も漏れなくなった。部屋に仕掛けてあった見張りの魔法も解除した。
全ての処理が終わった後、ロザリー様が陛下に声をかけた。
「陛下」
国王陛下は声のする方を振り返ったが、勿論、王妃様の姿は見えない。
「陛下、ロザリーです。今、陛下の前に来ております。許しもなく入室した事、お許し下さい。外で見張っている者に知られたくなかったので」
「ロザリーか。面白い術を使って入ってきたものだな」
「陛下、ここに、聖女レティシア様とノイズ公爵家の令嬢のエリザベート様がいらっしゃいます」
「目の前に?」
「そうです」
『ミール、解除をお願い』
私達はサウスパールの国王陛下の前に姿を現した。私とレティシア様は陛下に一礼をして、一歩下がった。
王妃様は今までの事を陛下に説明した。
国王陛下はサミュール様が目を覚された事を大変喜ばれて、すぐに部屋を訪ねたいと言われた。
王妃様は、フレッグ様のことは話されなかった。
私たち4人はお祖母様(聖女レティシア)の瞬間移動でサミュール様の部屋に戻ってきた。
その場にいた全員が、私たちと一緒に現れた国王陛下に一礼をした。
「サミュール!気がついたか!」
「父上!」
国王陛下はサミュール王子の手を握った。お互いに何度も何度も頷きあって喜びを噛み締めておられた。
そのあとで私たちを振り返った国王陛下は、初めてフレッグ王子に気がついて、大きく目を見開かれた。
「フレッグ、其方が何故ここに?」
「父上・・」
「フレッグ様のお話を一緒に聞いて頂きたくて、陛下にここに来て頂きました。どうぞ、こちらにお座り下さいませ」
王妃様が陛下にソファーを勧めた。
私たちもそれぞれソファーに座り、サミュール様の側近のエリオが皆にお茶とお菓子を用意して下さった。
そしてフレッグ様は国王陛下に挨拶をした後、今までの事を話し始めたのだった。
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頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです
はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。
とある国のお話。
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不定期更新。
本文は三人称文体です。
同作者の他作品との関連性はありません。
推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。
比較的短めに完結させる予定です。
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最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
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