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エリザベート嬢はあきらめない
マルティナ・ノルマン様
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聖女として紹介された入学式のあと、ロリエッタの周りには、何時も誰か取り巻きがいるようになっていた。
「エリザベート様、少し宜しいかしら?」
取り巻きの1人が声をかけてきた。
「何かご用ですか?」
私は尋ねた。
「ロリエッタ様に対する色々なイジメの事は聞いていますわ。エリザベート様、貴方がたとえウィリアム殿下の最有力婚約者候補でも、あの方への振る舞いは、あまりにも酷すぎるのでは有りませんこと?」
ロリエッタ様はこの国の聖女になられる方です。だから、ウィリアム殿下を取られると思って、嫉妬しての行いと伺いましたわ。
公爵家の令嬢ともあろう方が、恥ずかしいとは思われませんの?」
取り巻きはまくし立てた。
私は幼い時から今日みたいな日が来ない事を祈りながら、周りの人々には優しく親切に丁寧に、笑顔で話す事を心がけていた。
けれど、もういいだろう。
私の思いは届かなかったのだから。
「貴方、お名前は?」
私はその取り巻きに尋ねた。
「マルティナ・ノルマンですわ」
その名前に聞き覚えがあった。
「あら?マルティナ・ノルマン様でしたの。ご機嫌よう」
マルティナは少し驚いた顔をした。
「こうしてお話しするのは初めてね。昔の面影がなかったので、気が付きませんでしたわ」
マルティナは、エリザが自分の名前を知っている事に驚いたのか、黙ってしまった。
「驚きましたわ。貴方、ロリエッタ様の取り巻きになってしまわれたの?
昔からとても個性的な方だったけれど、前は何かこう、もっとご自分をアピールなさっていたわ。ウィリ様と仲良くなりたくて、頑張っておられたじゃありませんか。
私ね、色々と残念なご様子の令嬢だと思いながらも、貴方を嫌いになれなかったの。
失礼ながら、貴方の想いはウィリ様には届いていなかったけれど、私はいつも見ていたの。貴方がウィリ様に、想いを告げれる日がくればいいなと思いながら。
想いを告げて玉砕(ぎょくさい)なされば、諦めもつくだろうにと思って、応援していましたのに。
私はロリエッタ様には全く興味がありません。だから意地悪する気にもなりませんの。どちらかと言うと貴方への興味の方が大きいわ。
まさか、マルティナ様とお話しする日が来るなんて・・
今日の不思議な出来事No.1だわ。
マルティナさま、貴方には人の取り巻きなんて似合いませんわ」
今度は私がまくし立てていた。
マルティナ様は何度めかの、驚いた表情をして私をみていた。
「いつもウィリアム殿下に大切にされていた貴方に、私の気持ちなんてわかるはずありません。私はいつも貴方が羨ましくて・・」
その後は涙で声が出なかった。
「知っていましたわ」
この方(マルティナ様)のお父様のセザール・ノルマン侯爵は、あの頃は宰相だった。自分の娘をウィリ様の婚約者の最有力候補にしたくて画策していると言う噂話を、メイドの誰かから聞いた事があった。だから彼女は、頑張っているのだと分かっていた。
それにセザール様は、ドリミア学園の食堂で働く女性を愛人として別宅に匿って(かくまって)いらっしゃるとか。
その時の事件の責任を取って、宰相の職も辞され、彼女のお母様は彼女を置いて、実家に帰ってしまわれたと聞いている。
自分が頑張っているのに、周りがどんどん崩れていく辛さ。私には分かる。
私はマルティナ様に前の椅子を勧めた。涙を流し少しは落ちついたのか、彼女は勧められるままに腰を下ろした。
「マルティナ様、お疲れが溜まっておられるのだわ。ちょっと失礼しますね」
私はそう言って自分のコートを彼女の後ろから、彼女の姿を覆うようにかけた。
そして、彼女の両手にそっと自分の手を重ねた。
「何を?」
「疲れが取れる『おまじない』を試してみますわ。少しだけ目を閉じていて下さい」
彼女は抵抗しなった。本当に疲れが溜まっていたのだろう。
「はじめます」
私の両手から彼女に静かに光が流れていく。幼い頃よりも目立たない光で『元気の補充が必要マーク』と名付けた黒い靄(もや)が消えていく。
コートのおかげで光は誰にも見えていない。我ながら腕を上げたものね。(今日は誰のキョカも頂かなかったけれど・・大丈夫だわ。)
私は手を離してコートを元に戻した。
彼女の後ろにあった『元気の補充が必要マーク』は消えていた。
「エリザベート様、何をなさったの?」
先ほどよりも美しく見えるマルティナ様が、驚きの声をあげた。そしてまた、涙を流し始めた。
「酷いことを言いに来ましたのに。私、幼い頃から貴方にお返事もしなかったのに。ゴメンなさい!」
彼女も気にしていたのだ。もう何年も前の幼い子供のした事だ。今、こうして謝って頂けたならそれでいい。別に謝って頂かなくても、気にしていなかったのだけれど。
「隣国の聖女レティシア様は、私のお祖母様なの。『疲れが取れるおまじない』が一回だけ使えるようにして下さっていたの。貴方に使えて良かったわ」
勿論、作り話だった。
「家族や信頼できる人のまえ以外で、光魔法を使ってはダメよ。外で光魔法を使うのは『聖女様』の仕事なの。貴方は小さな光しか使えないのに、外で使って聖女様と間違えられたら大変よ。世間が混乱してしまうわ」
物心が付いた頃から、いつも両親やお祖母様(レティシア様)に言われていた。
(マルティナ様、ウソをついてゴメンなさい。)
「私ね、色々な事があって・・」
マルティナ様の涙はまだ止まらない。涙が枯れるまで黙って側で見守っていた。
「もう大丈夫ですわ」
顔を上げて彼女は言った。
「エリザベート様。私はずっと貴方が羨ましかった。けれど今は、ウィリアム殿下が貴方を大切にされている気持ちが分かります。私が及ばないわけですわ。
こんなに清い心をお持ちだなんて!私、ロリエッタ様の取り巻きはキッパリと辞めます!それで、たった今から、エリザベート様、貴方の取り巻きに立候補いたしますわ」
「!」
やっぱり変わっていらっしゃるわ。マルティナ様。
「では、お友達からはじめませんか?」
「ええ、よろしくお願い致します」
こうしてマルティナ・ノルマン様は私の友達になった。
最近、色々あり過ぎて疲れていたのは私も同じ。マルティナ様に光魔法を使った時に、自分の疲れも一緒に消えていた。
さあ、明日からまた頑張らなきゃ。
エリザは教室から出ていく新しい友達の後ろ姿を見ながら、心が癒されていくのを感じていた。
「エリザベート様、少し宜しいかしら?」
取り巻きの1人が声をかけてきた。
「何かご用ですか?」
私は尋ねた。
「ロリエッタ様に対する色々なイジメの事は聞いていますわ。エリザベート様、貴方がたとえウィリアム殿下の最有力婚約者候補でも、あの方への振る舞いは、あまりにも酷すぎるのでは有りませんこと?」
ロリエッタ様はこの国の聖女になられる方です。だから、ウィリアム殿下を取られると思って、嫉妬しての行いと伺いましたわ。
公爵家の令嬢ともあろう方が、恥ずかしいとは思われませんの?」
取り巻きはまくし立てた。
私は幼い時から今日みたいな日が来ない事を祈りながら、周りの人々には優しく親切に丁寧に、笑顔で話す事を心がけていた。
けれど、もういいだろう。
私の思いは届かなかったのだから。
「貴方、お名前は?」
私はその取り巻きに尋ねた。
「マルティナ・ノルマンですわ」
その名前に聞き覚えがあった。
「あら?マルティナ・ノルマン様でしたの。ご機嫌よう」
マルティナは少し驚いた顔をした。
「こうしてお話しするのは初めてね。昔の面影がなかったので、気が付きませんでしたわ」
マルティナは、エリザが自分の名前を知っている事に驚いたのか、黙ってしまった。
「驚きましたわ。貴方、ロリエッタ様の取り巻きになってしまわれたの?
昔からとても個性的な方だったけれど、前は何かこう、もっとご自分をアピールなさっていたわ。ウィリ様と仲良くなりたくて、頑張っておられたじゃありませんか。
私ね、色々と残念なご様子の令嬢だと思いながらも、貴方を嫌いになれなかったの。
失礼ながら、貴方の想いはウィリ様には届いていなかったけれど、私はいつも見ていたの。貴方がウィリ様に、想いを告げれる日がくればいいなと思いながら。
想いを告げて玉砕(ぎょくさい)なされば、諦めもつくだろうにと思って、応援していましたのに。
私はロリエッタ様には全く興味がありません。だから意地悪する気にもなりませんの。どちらかと言うと貴方への興味の方が大きいわ。
まさか、マルティナ様とお話しする日が来るなんて・・
今日の不思議な出来事No.1だわ。
マルティナさま、貴方には人の取り巻きなんて似合いませんわ」
今度は私がまくし立てていた。
マルティナ様は何度めかの、驚いた表情をして私をみていた。
「いつもウィリアム殿下に大切にされていた貴方に、私の気持ちなんてわかるはずありません。私はいつも貴方が羨ましくて・・」
その後は涙で声が出なかった。
「知っていましたわ」
この方(マルティナ様)のお父様のセザール・ノルマン侯爵は、あの頃は宰相だった。自分の娘をウィリ様の婚約者の最有力候補にしたくて画策していると言う噂話を、メイドの誰かから聞いた事があった。だから彼女は、頑張っているのだと分かっていた。
それにセザール様は、ドリミア学園の食堂で働く女性を愛人として別宅に匿って(かくまって)いらっしゃるとか。
その時の事件の責任を取って、宰相の職も辞され、彼女のお母様は彼女を置いて、実家に帰ってしまわれたと聞いている。
自分が頑張っているのに、周りがどんどん崩れていく辛さ。私には分かる。
私はマルティナ様に前の椅子を勧めた。涙を流し少しは落ちついたのか、彼女は勧められるままに腰を下ろした。
「マルティナ様、お疲れが溜まっておられるのだわ。ちょっと失礼しますね」
私はそう言って自分のコートを彼女の後ろから、彼女の姿を覆うようにかけた。
そして、彼女の両手にそっと自分の手を重ねた。
「何を?」
「疲れが取れる『おまじない』を試してみますわ。少しだけ目を閉じていて下さい」
彼女は抵抗しなった。本当に疲れが溜まっていたのだろう。
「はじめます」
私の両手から彼女に静かに光が流れていく。幼い頃よりも目立たない光で『元気の補充が必要マーク』と名付けた黒い靄(もや)が消えていく。
コートのおかげで光は誰にも見えていない。我ながら腕を上げたものね。(今日は誰のキョカも頂かなかったけれど・・大丈夫だわ。)
私は手を離してコートを元に戻した。
彼女の後ろにあった『元気の補充が必要マーク』は消えていた。
「エリザベート様、何をなさったの?」
先ほどよりも美しく見えるマルティナ様が、驚きの声をあげた。そしてまた、涙を流し始めた。
「酷いことを言いに来ましたのに。私、幼い頃から貴方にお返事もしなかったのに。ゴメンなさい!」
彼女も気にしていたのだ。もう何年も前の幼い子供のした事だ。今、こうして謝って頂けたならそれでいい。別に謝って頂かなくても、気にしていなかったのだけれど。
「隣国の聖女レティシア様は、私のお祖母様なの。『疲れが取れるおまじない』が一回だけ使えるようにして下さっていたの。貴方に使えて良かったわ」
勿論、作り話だった。
「家族や信頼できる人のまえ以外で、光魔法を使ってはダメよ。外で光魔法を使うのは『聖女様』の仕事なの。貴方は小さな光しか使えないのに、外で使って聖女様と間違えられたら大変よ。世間が混乱してしまうわ」
物心が付いた頃から、いつも両親やお祖母様(レティシア様)に言われていた。
(マルティナ様、ウソをついてゴメンなさい。)
「私ね、色々な事があって・・」
マルティナ様の涙はまだ止まらない。涙が枯れるまで黙って側で見守っていた。
「もう大丈夫ですわ」
顔を上げて彼女は言った。
「エリザベート様。私はずっと貴方が羨ましかった。けれど今は、ウィリアム殿下が貴方を大切にされている気持ちが分かります。私が及ばないわけですわ。
こんなに清い心をお持ちだなんて!私、ロリエッタ様の取り巻きはキッパリと辞めます!それで、たった今から、エリザベート様、貴方の取り巻きに立候補いたしますわ」
「!」
やっぱり変わっていらっしゃるわ。マルティナ様。
「では、お友達からはじめませんか?」
「ええ、よろしくお願い致します」
こうしてマルティナ・ノルマン様は私の友達になった。
最近、色々あり過ぎて疲れていたのは私も同じ。マルティナ様に光魔法を使った時に、自分の疲れも一緒に消えていた。
さあ、明日からまた頑張らなきゃ。
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