悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

ドルマンの笑い

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 宰相デイビス・ブルーノは、今、国王陛下との謁見室にいる。

 王都学園に現れた光属性の女生徒、ロリエッタ・トリエール嬢を、正式に我が国の聖女と認定するように国王に進言する為だった。

 彼の隣りには教会の神父ルタールがいた。

 王都学園で水晶玉の輝きを見た彼もまた、彼女こそ我が国の聖女にふさわしい人物だと、国王に進言しに来たのだ。

 他にも子息や令嬢が王都学園に通っている貴族達の多くが、ロリエッタ嬢こそが我が国の聖女にふさわしいと噂し、その噂は国王の耳にも届いていた。

 確かにあの入学式の日、彼女が手をかざした途端に水晶玉が輝いた。それを王もしっかりと見ている。

『彼女がエリザベート嬢が夢に見た、ウィリアムの真実の愛の相手かもしれない』

 あの時はそう思って、彼女に良い印象を持たなかった。アフレイドも同じ見解のようだった。

 彼女をドリミア王国の聖女にする事に反対しているのは、魔法騎士団総団長のアフレイド・ノイズだけだった。けれど、彼の意見は重視したい。

 しかし、彼女が本当に我が国の聖女に相応しい女性なら、息子ウィリアムの婚約者に欲しい。これが国王としての本音だった。

 昔、エリザベート嬢が見た夢の『真実の愛の相手』が彼女なら、それはそれで良いではないか。

『あの時』は、まさかその相手が、我が国の聖女になる女性だとは思いもしなかったのだ。

 聖女となる女生が、ウィリアムの真実の愛の相手であるなら、それは、我が国にとって喜ばしい事ではないのだろうか?

 国王陛下は迷っていた。

 ウィリアムには前々から決めてある、アミルダ王国のアントワーズ王女という婚約内定者がいる。   

 隣国の聖女レティシア様の孫で、エリザベート嬢の従姉妹(いとこ)にあたる。この縁談が破断になれば、隣国との関係は崩れるかもしれない。 

 どうしたものか?

 そんな時、隣国のアミルダ王国の片隅の街で瘴気が発生した。聖女レティシアは2年後だと言っていたのに!早すぎる。

 アミルダ国王から、正式に魔法騎士団の協力を要請してきた。

 このことは、前から聖女レティシアに頼まれていたので、国王も了承済みだった。

 ただ、そうなると、ドリミア王国の防衛の要(かなめ)、魔法騎士団総団長のアフレイドが国を離れることになる。

 アフレイドは自分と王妃の護衛を、親衛副隊長のホワイル・ブラウン伯爵に任せる事にしたようだ。

 彼はウィリアムの側近、エドモンド・ブラウンの父親で、信頼できる人物だった。

 魔法騎士団は第二部隊の隊長ベルトン・アラールに任せ、補佐役にリアム・ノイズを任命した。彼らなら大丈夫だろう。

 そして、アフレイド自身は、魔法騎士団の精鋭の集まりである第一部隊を引き連れて、〈発生した瘴気を追って異世界からやってくる魔物達〉との戦いに備えることになっている。

 聖女レティシアが瘴気を浄化し、結界を強化する。アフレイド達が、この世界に侵入してきた魔物を退治する。

 現れた場所で退治すれば、魔物のドリミア王国への侵入も防ぐことになる。彼ら魔法騎士団は、その為に出向いて行くのだ。

 ・・・・・

 異世界からの魔物は我々が必ず壊滅してみせよう。瘴気もレティシア様にお任せすれば大丈夫だ。

 アフレイドが気にしているのは、自分が留守の間にドリミア王国に発生する瘴気と、それを追ってやってくる魔物のことだった。

 魔物の退治はリアムとベルトンに任せておけば大丈夫だろう。

 問題は発生する瘴気・・

 ロリエッタ・トリエール。彼女で大丈夫だろうか?

 アルベール君に任せてはいるが、彼女に瘴気を浄化する事が出来るのだろうか?
 いや、そもそも彼女はこちらの味方なのだろうか?

 彼女が瘴気を浄化しない時、もしくは、浄化出ない時は、エリザベートの封印を解かなければならないだろう。

 最終的にはエリザベートがいる。だから我が国の事は心配いらない。

 心配なのはその後だ。

 エリザベートがヴァイオレットの聖女だと、皆が気づいてしまう。国民も国王陛下も。

 彼女は国を守る為に瘴気を浄化して、自分の自由をなくしてしまうのだ。

 だから、光魔法が使えるロリエッタ嬢に、我が国の聖女になって欲しい思いは、実は、アフレイドも同じだった。

 ただ、彼女には自覚が足りない。
 国を、民を、思う心が足りない。
 アフレイドはそう感じていたのだ。

 自覚のない聖女に自覚を促す必要がある。

 けれど、間に合わなかった。

 聖女レティシアの予言より、1年ほど早く発生した瘴気の報告があった数日後、

 国王陛下からの正式な任務の命令を受けて、魔法騎士団総団長アフレイド・ノイズと第一部隊のメンバーは、

 瞬間移動でアミルダ王国の聖女レティシアの元に向かったのだった。

 アフレイドが自国から出て行くのを待っていた人物がいた。

 宰相のデイビス・ブルーノと神父のルタールだ。

 彼らはその日から毎日、言葉巧みに国王陛下に進言し、とうとうロリエッタ・トリエールは、正式にドリミア王国の聖女として認定される事になった。

 その日ドリミア王国は国中が聖女ロリエッタの誕生に沸き返った。

「お嬢、お前が本当に聖女になるとはな」

 ドルマンが言った。

「私、本当に、『王国の聖女ロリエッタ』になったんだわ。やったわ!」

 ロリエッタが叫んだ。

「アフレイド・ノイズのいない今、聖女のお前の邪魔をする者はいない。これで、ドリミア城は手中に収めたようなものだな。

 ハッハッハッハ・・」

 女子寮からドリミア城に設けられた聖女の部屋に移り、人払いをして寛いでいるロリエッタの横には、高笑いをするドルマンの姿があった。
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