悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

いつでも待っている

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 翌日の夜、エリザの部屋に来客があった。サウスパール王国のアンソニー・フランクとレオン・スタンフィールだ。管理室にきちんと手続きをした上での訪問だった。

「へえ、女子寮の部屋ってこんな感じなんだね」

「女の子の部屋の割には、飾り付けが少ないでしょ?」

「僕はこの方が寛げるよ。調度品の趣味は最高だし」

「ああ、流石さすがエリザだ。このソファーもいいね」

 2人とも、楽しそうに部屋の中を見回っている。

 そんな2人に、エリザは紅茶とお菓子を出した。

 2人と話していると、ドリミア学園での楽しかった日々が思い出される。サウスパール王国を訪れた時の事も、今ではいい思い出になっている。

 サウスパール王国の国王陛下の側室とその愛人。彼らが行っていた悪事の数々。

 側室は、一生を修道女として過ごす事になり、愛人の男は魔力を奪われ、労働の刑に処されたと聞いている。

 平和になったサウスパール王国に思いを馳せていると、アンソニーとレオンが急に居住まいを正した。

「エリザ、僕らはサウスパール王国に帰ることにしたよ」

 アンソニーが言った。

「今、世界の至いたるところで瘴気が発生して、異世界から魔物がやって来ている。レティシア様や君の父上達が、いち早く駆けつけて対処してくれている事も知っている。 

 その瘴気や魔物が、我が国に現れないとは限らない。
 そんな時に王太子の僕が、国外にいるわけにはいかないんだ」

「僕らが戻ったところで、何も出来ないのは分かっているんだけどね。その時は、我が国も君の父上達に頼らざるを得ない。何も出来ないことが悔しいよ」

 レオンが言った。

「この国の様子も変わってしまったね。エリザ。その事と瘴気や魔物の発生が、何か関係しているような気がするんだけど、流石さすがにそこまでは掴つかめなかったよ。

 ウィリアム殿下やキミの友人達が、この国を出た事も知っている。どうしてキミだけが、この国に残ったの?」

 アンソニーが真剣な表情で私に問いかける。

「今の学園の現状を見る限り、今、1番この国を離れたいのは、エリザ、キミじゃないか!

 王都学園はキミの悪い噂でもちきりだ。その噂を息子や娘に聞いた親達も、社交の場で面白おかしく、エリザベート・ノイズ公爵令嬢の悪口を広めていると聞いている。

 あのロリエッタという女生徒は、本当に聖女なのか?僕はそれも疑っている。

 エリザ、キミは何をしようとしているの?

 この国の為に、自分を犠牲にすることはない。そうだろう?
 あんな女を聖女にしたのは、この国の国王なのだから。

 彼女に酔いしれている取り巻きに全てを押し付けて、キミは自由にすればいいじゃないか」

 アンソニーはよく状況を見ている。それで、私の為に怒ってくれている。

「ウィリアム殿下とだって、本当は何もないんだろ?前にも言ったけど、ウィリアム殿下には他に意中の人がいる。キミの従姉妹だ。2人とキミが仲良く買い物をしている姿も見たよ。知っていたんだね。
 それなのに、どうして、キミが最有力婚約者候補のふりをしているの?」

「ウィリアム殿下の最有力婚約者候補と思われるだけで、人々から注目され、嫉妬され、噂の的になるという事は、賢いキミなら分かっている筈なのに。どうして、損な役割りばかり引き受けるんだ。エリザ!キミは人が良過ぎるよ」

 こんな風に私の為に憤ってくれるなんて。
 ありがとう、アンソニー。

「エリザ、僕たちと一緒にサウスパール王国に来ないか?父上も母上も弟達も喜ぶよ。新しい環境の中で、サウスパール王国の事をゆっくり知っていって欲しいんだ」

 アンソニーは立ち上がって私の近くに来て膝を折った。

「エリザベート、僕と結婚しよう。僕の妻に、我が国の国母になって欲しい」

 まさか結婚を申し込まれるとは・・

「ありがとう、アンソニー。でも私は一緒には行けないの。私はこの国でしなければいけない事があるの。私にしか出来ない事なの」

「やっぱり何かあるんだね。僕は本気だよ。でもキミが一緒に来ない事なんて分かっていたんだ。僕はその役目から君を解放してやりたい。

 その役目が苦しくなったらいつでも放り出して、我が国に来たらいいよ。僕は待っているから。

 改めての返事は、この世界が再び平和を取り戻してからでいいよ。真剣に考えて欲しい、エリザベート」

「アンソニー・・」

 ヴァイオレットの瞳に涙が浮かぶ。この人は、こんなに温かい眼差しで私を見ていてくれたのか。

 私は頷いた。

「平和になったらきちんと考えて、お返事させて頂くわ。アンソニー」

「我が国の王太子殿下の心を捉えるなんて、さすがエリザベート・ノイズ公爵令嬢だ。僕も待っているよ」

 それから2人が帰るまで、楽しい話を沢山、沢山した。

「さよならは言わない。一度、国に帰ってくるよ、エリザ。無理をするんじゃないよ。投げ出したくなったら、いつでも投げだして来ればいい。僕はいつでも待っているよ。エリザ」

「無理をしちゃダメだよ」

「僕らはいつでもエリザの味方だからね」

「ありがとう。貴方がたも!お元気で!」

 2人は帰っていった。
 また、平和になったら会いましょう。ありがとう。
 その時までにゆっくり考えておくわ。
 サウスパール王国のアンソニー王太子殿下。
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