悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

エリザベートの怒り

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 瘴気が浄化された夜更けの空には、星が無数に煌めいていた。

「瘴気の浄化も終わり、魔物は異世界に戻りました」

 エリザベートは国王陛下を見てそう言った。

「其方達のおかげで我が国は救われた。感謝する」

 窓が開き国王陛下が姿を現した。

「陛下、どういたしまして。私達はやるべき事をやっただけですわ。

 魔物達を異世界に戻してくれたのは、精霊テネーブです」

 陛下は彼女の言葉を聞いてテネーブに黙礼を行う。

「俺も俺のやるべきことをしただけだ。礼には及ばぬ」

 テネーブはそう言って国王陛下を見た。エリザベートの話は続く。

「〈あとの事〉は、この国の聖女ロリエッタ様にお任せ致しますわ」

 聖女ロリエッタの名前を聞いた人々が、騒めきはじめた。

「貴方が聖女になってくれるのではないのですか?」

 誰かが大きな声で問いかけた。

「エリザベート様。我が国の聖女になって下さい」

「ヴァイオレットの聖女様」

「ロリエッタ様ではダメです」

「あの聖女様は役に立たないわ」

「エリザベート様、私達を見捨てるのですか?」

 ザワザワ……
 ザワザワ……

 ザワザワ……
 ザワザワ……

「嫌ですわ」

 エリザベートは言った。

「私は自由に生きて行きますわ」

 それを聞いたロリエッタは、驚いた表情を浮かべた。

 エリザベートは人々を見下ろして話を続ける。

「『見捨てるのですか?』どなたが仰ったの?

 私を見捨てて私の追放を望んだのは、あなた方だったのではありませんか?

 自分達は私を見捨てても、私はあなた達を見捨てないと思っているのですか?

『ロリエッタ様を要らない?』要らないのはエリザベートだったのでは?

 自分は〈ただのモブ〉だと思って、好き勝手に人を批判するのは辞めて下さる?不愉快ですわ」

 彼女は怒っていた。

「ロリエッタ様も、こんな方々の聖女なんてお辞めになったら?

 〈あとの事〉も、この国の聖女をお辞めになるのなら、行う義務はありませんわ」

 国王陛下もこの会話を聞いておられるだろう。

 エリザベートには今のロリエッタが、どこにでもいる普通の日本の女子高生に見えていた。

「貴方に聖女は似合わない。こんな人々なんか放っておいて、貴方は〈貴方の世界〉にお帰りなさい。私はその為の協力を惜しみませんわ」

 ロリエッタは驚愕に眼を見開いてエリザベートを見ていた。そして小さく呟(つぶ)やいた。

「帰れるの?・・パパとママのところに?」

「どうなさいます?私と一緒に来られますか?」

 ロリエッタは何度も何度も頷きながら、涙を流している。

 エリザベートは少しの間、目を閉じて心を落ち着かせた後、話を続けた。

「つい堪えきれずに暴言を吐いてしまいましたわ。若気の至りと思いお許し下さい。それでは皆さま、私はこれで失礼いたします」

 彼女は優雅に淑女の礼をとり、テネーブと一緒に、聖女ロリエッタを伴って姿を消していった。

 後に残された人々は暫くの間、言葉を発することなく、誰もいなくなった空を見ていたのだった。
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