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エリザベート嬢はあきらめない
成敗!
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パーティー当日になった。王都学園の卒業パーティーの会場であるドリミア城の大広間に、ダークブロンドの髪をアップに結い上げ、真っ赤なドレスを着たエリザベートが1人で現れた。
今までの学園のパーティーでは、エリザの隣には必ずウィリアム殿下がいた。
けれど、その殿下は、先ほど別の女性を伴って入場している。
会場にいる学生たちは、エリザベートが来るのを待っていた。あの気位の高い公爵令嬢が、どのような表情で現れるのか。
パーティーに参加している学生たちは、いつも人々の中心で輝いていた、エリザベート・ノイズ公爵令嬢の惨めな姿を期待していた。
けれど、彼女は1人で前を向き、胸を張り、さっそうと現れた。そんな彼女は美しかった。
「エリザベート、お前を待っていた」
エリザにとっては聞き覚えのある、定番のセリフが聞こえてきた。
(あら、やっぱり本物のウィリ様が言った方が、このセリフは決まるわね。)
聖女ロリエッタのお披露目パーティーで、偽ウィリ様に婚約破棄を宣言されているエリザは、呑気(のんき)にも、そう思ってウィリアムを見ていた。
「ウィリ様、お久しぶりでございます。行方知れずになったと伺って、心配しておりました。こうしてお目にかかれて安堵いたしました」
正式な場では、エリザはいつも、きちんと敬語を使ってウィリ様に接している。今日もいつもと同じように挨拶をし、無事な姿を見て安堵したことを伝えた。
エリザの言葉はさらに続く。
「ウィリ様、もし、今から、私に婚約破棄を言い渡そうとしておられるのなら、それは不要ですわよ。だって、私たちは婚約など致しておりませんもの」
ウィリアムは驚いた顔をしてエリザを見た。
「隣にいらっしゃる聖女ロリエッタ様のお披露目パーティーの時に、偽者のウィリ様から同じ台詞(せりふ)を言われ、婚約破棄を告げられましたの。
後でそれを聞いたウィリ様は、「婚約もしていないのに、婚約破棄を言い渡すとは馬鹿な奴だ」と笑っておられましたわ。
もしも今から、私に婚約破棄を言い渡そうとしておられるのなら、ご自分が言っておられた「馬鹿な奴」になってしまいますわよ」
「僕たちが婚約をしていない?」
ウィリアムがつぶやくように言った。
「確かに2人は婚約はしておりませんよ、殿下」
そのつぶやきにリアムが答えた。
「今から殿下や私を誘拐する手引きをした者を捕らえます。2人が婚約をしていない訳は、その後で落ち着いてからさせていただきます。よろしいですか」
ウィリアムは頷いた。
それを見てリアムが合図をした。
すると、魔法騎士団の隊員達が、エリザやウィリアム達を取り囲んだ。
パーティー会場は、ものものしい雰囲気に包まれた。
「ウィリ様、なんだか怖いですわ」
そう言って寄り添うロリエッタの肩を抱き寄せ、ウィリアムが耳元でささやく。
「すまない、ロリエッタ。僕達の婚約を発表するのは、後になってしまった」
「構いませんわ。ウィリ様」
ロリエッタはウィリアムに寄り添いながら、リアムと目を合わせる。
リアムは彼女を見て頷いた。
それを見てロリエッタは満足げに微笑んだ。
「これは国王陛下からの命令だ。悪に染まったヴァイオレットの聖女エリザベート・ノイズ。
お前は黒の魔女の手助けをして、ウィリアム殿下を誘拐した。
主謀者は黒の魔女だ。その魔女が殿下を誘拐しやすいように、手引きしたのはお前だ。その罪は重い」
エリザベートには全く覚えのないことだった。
「お兄さま・・」
エリザはリアムを見た。
このパーティーには国王陛下も来ている。アフレイドもマーガレットも。
静まり返ったパーティー会場の中で、リアムの声が静かに響いた。
彼の体がゆっくりと上に上がって行く。リアムがさっと手を上げると、そこに『砲弾』が現れた。
それを見てウィリアムは驚いた。隣にいたロリエッタはニタリと笑った。
ロリエッタと向かい合うようにして立っていたエリザは、黙ってリアムを見ていた。
リアムは、まっすぐにエリザベートに向けられていた『砲弾』を僅かにずらした。
「聖女ロリエッタの身体を乗っ取り、ウィリアム王太子殿下、アルベール・ロレーヌ、そして、僕、リアム・ノイズを誘拐監禁した罪で、お前を処刑する。灰に帰るがいい、黒の魔女バディー・・・
『成敗!』」
砲弾から真っ白な光が放たれた。
『ギャ~!』
大きな悲鳴と共に倒れて灰に帰ったのは、ウィリアムの横にいた、聖女ロリエッタだった。
「僕がエリザを処刑するはずが無いだろう」
リアムはそう言って『砲弾』を消した。
「黒の魔女を油断させるためとは言え、罪人に仕立て上げて申し訳なかったね、エリザベート」
エリザベートは、そのヴァイオレットの瞳に涙を浮かべてリアムを見ていた。
ウィリアムは夢から醒めたようにあたりを見回していた。遠くにアントワーズの姿が見えた。
(アントワーズ・・)
今度こそ、ウィリアムは全てを思い出した。
国の重鎮たちも、驚きの表情で聖女ロリエッタだった『灰』を見ている。
「彼女も、最初は清い心を持つ聖女だっただろうに」
国王陛下はそう言って、聖女ロリエッタだった灰を見ていた。
「詳しくは分かりませんが、『黒魔術の書』に手を出し、黒の魔女にそそのかされ、体を乗っ取られてしまったのでしょう。
彼女にとっては、これで良かったのです。これ以上、自分の体を黒の魔女に使われなくて済むのですから」
エリザベートは空を見た。黒い魔女から解放された聖女ロリエッタの魂が、天に召されて行く姿が見えたような気がした。
今までの学園のパーティーでは、エリザの隣には必ずウィリアム殿下がいた。
けれど、その殿下は、先ほど別の女性を伴って入場している。
会場にいる学生たちは、エリザベートが来るのを待っていた。あの気位の高い公爵令嬢が、どのような表情で現れるのか。
パーティーに参加している学生たちは、いつも人々の中心で輝いていた、エリザベート・ノイズ公爵令嬢の惨めな姿を期待していた。
けれど、彼女は1人で前を向き、胸を張り、さっそうと現れた。そんな彼女は美しかった。
「エリザベート、お前を待っていた」
エリザにとっては聞き覚えのある、定番のセリフが聞こえてきた。
(あら、やっぱり本物のウィリ様が言った方が、このセリフは決まるわね。)
聖女ロリエッタのお披露目パーティーで、偽ウィリ様に婚約破棄を宣言されているエリザは、呑気(のんき)にも、そう思ってウィリアムを見ていた。
「ウィリ様、お久しぶりでございます。行方知れずになったと伺って、心配しておりました。こうしてお目にかかれて安堵いたしました」
正式な場では、エリザはいつも、きちんと敬語を使ってウィリ様に接している。今日もいつもと同じように挨拶をし、無事な姿を見て安堵したことを伝えた。
エリザの言葉はさらに続く。
「ウィリ様、もし、今から、私に婚約破棄を言い渡そうとしておられるのなら、それは不要ですわよ。だって、私たちは婚約など致しておりませんもの」
ウィリアムは驚いた顔をしてエリザを見た。
「隣にいらっしゃる聖女ロリエッタ様のお披露目パーティーの時に、偽者のウィリ様から同じ台詞(せりふ)を言われ、婚約破棄を告げられましたの。
後でそれを聞いたウィリ様は、「婚約もしていないのに、婚約破棄を言い渡すとは馬鹿な奴だ」と笑っておられましたわ。
もしも今から、私に婚約破棄を言い渡そうとしておられるのなら、ご自分が言っておられた「馬鹿な奴」になってしまいますわよ」
「僕たちが婚約をしていない?」
ウィリアムがつぶやくように言った。
「確かに2人は婚約はしておりませんよ、殿下」
そのつぶやきにリアムが答えた。
「今から殿下や私を誘拐する手引きをした者を捕らえます。2人が婚約をしていない訳は、その後で落ち着いてからさせていただきます。よろしいですか」
ウィリアムは頷いた。
それを見てリアムが合図をした。
すると、魔法騎士団の隊員達が、エリザやウィリアム達を取り囲んだ。
パーティー会場は、ものものしい雰囲気に包まれた。
「ウィリ様、なんだか怖いですわ」
そう言って寄り添うロリエッタの肩を抱き寄せ、ウィリアムが耳元でささやく。
「すまない、ロリエッタ。僕達の婚約を発表するのは、後になってしまった」
「構いませんわ。ウィリ様」
ロリエッタはウィリアムに寄り添いながら、リアムと目を合わせる。
リアムは彼女を見て頷いた。
それを見てロリエッタは満足げに微笑んだ。
「これは国王陛下からの命令だ。悪に染まったヴァイオレットの聖女エリザベート・ノイズ。
お前は黒の魔女の手助けをして、ウィリアム殿下を誘拐した。
主謀者は黒の魔女だ。その魔女が殿下を誘拐しやすいように、手引きしたのはお前だ。その罪は重い」
エリザベートには全く覚えのないことだった。
「お兄さま・・」
エリザはリアムを見た。
このパーティーには国王陛下も来ている。アフレイドもマーガレットも。
静まり返ったパーティー会場の中で、リアムの声が静かに響いた。
彼の体がゆっくりと上に上がって行く。リアムがさっと手を上げると、そこに『砲弾』が現れた。
それを見てウィリアムは驚いた。隣にいたロリエッタはニタリと笑った。
ロリエッタと向かい合うようにして立っていたエリザは、黙ってリアムを見ていた。
リアムは、まっすぐにエリザベートに向けられていた『砲弾』を僅かにずらした。
「聖女ロリエッタの身体を乗っ取り、ウィリアム王太子殿下、アルベール・ロレーヌ、そして、僕、リアム・ノイズを誘拐監禁した罪で、お前を処刑する。灰に帰るがいい、黒の魔女バディー・・・
『成敗!』」
砲弾から真っ白な光が放たれた。
『ギャ~!』
大きな悲鳴と共に倒れて灰に帰ったのは、ウィリアムの横にいた、聖女ロリエッタだった。
「僕がエリザを処刑するはずが無いだろう」
リアムはそう言って『砲弾』を消した。
「黒の魔女を油断させるためとは言え、罪人に仕立て上げて申し訳なかったね、エリザベート」
エリザベートは、そのヴァイオレットの瞳に涙を浮かべてリアムを見ていた。
ウィリアムは夢から醒めたようにあたりを見回していた。遠くにアントワーズの姿が見えた。
(アントワーズ・・)
今度こそ、ウィリアムは全てを思い出した。
国の重鎮たちも、驚きの表情で聖女ロリエッタだった『灰』を見ている。
「彼女も、最初は清い心を持つ聖女だっただろうに」
国王陛下はそう言って、聖女ロリエッタだった灰を見ていた。
「詳しくは分かりませんが、『黒魔術の書』に手を出し、黒の魔女にそそのかされ、体を乗っ取られてしまったのでしょう。
彼女にとっては、これで良かったのです。これ以上、自分の体を黒の魔女に使われなくて済むのですから」
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