透明人間vs塩田剛三

梧桐彰

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プロローグ

ハンス・ユンゲによるマグネトフォン録音からの書起し

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 愛する妻、トラウデルへ。

 この録音は、私、ハンス・ヘルマン・ユンゲが心の中にしまっておくべき話を、ただ一人、君にだけは伝えたいと思って残したものだ。

 続く録音を最後まで聞いたら、その内容は君の心の中にしまっておいてほしい。テープは燃やしてしまってくれ。

 本題に入る。

 君と結婚して、わずか一カ月で別居することになった、その背景についてだ。

 現在、私はヒトラー総統の従卒から異動し、第十二SS機甲師団に在籍したことになっている。事実これからそうなるのだが、実はつい最近まで大本営に、つまり君のすぐ近くにいたのだ。

 私は総統暗殺を防ぐ任務についていた。

 総統がたびたび暗殺計画の対象となっているのは知っているだろう。だが、今回の相手は、重大性、緊急性ともにこれまでと全く異なっていた。様々な意味で異質だった。

 英国軍は我々の想像を絶する部隊を編み出したのだ。

 この話は、たとえ君であっても信じるのはかなり難しいだろう。私自身、数度の経験を経て、ようやくこれが現実なのだと理解するに至った。それほどに常識を超える事件だった。今でもその記憶を呼び覚ますたびに、これは本当のことかと思う。

 愛するトラウデル。続く文書を読み、すべての事情を理解したら、それが表に出ないよう、でたらめの回顧録を書いてほしい。そこには「ハンスはヒトラーの従卒をやめ、すぐに連合軍の侵攻に備えるため前線に異動した。彼はヒトラーから強い影響を受けすぎており、自分を取り戻したかったからだ。それが、ヒトラーとの付き合いをやめる唯一の方法だった」と残してほしい。君に嘘をつかせるのは忍びないが、この任務は重大で、かつ口外が許されない類のものなのだ。

 さて、詳細は続く手記に記録したが、事件の概要をまず一言でまとめておく。

 総統の暗殺部隊を構成しているのは、透明人間だ。


(以下、テープ焼失につき記録なし)
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