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3.いくらなんでもギャップがあり過ぎです
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その日の放課後。
俺は担任の手伝いをするため、ひとり教室に残っていた。
教室の前方の扉が勢いよく開き、一軍女子がぞろぞろと入ってくる。俺は、あっという間に取り囲まれてしまった。
さっそく嫌な予感が的中したことを悟る。
「な、何か用……?」
通常よりかなり多めに瞬きをしながら、彼女たちに問う。
「委員長って、マジで玖堂くんと付き合ってないわけ?」
一軍女子のリーダー的存在である新田さんが口を開いた。
俺は、こくこくと首を振る。
「付き合ってない」
「これから、付き合う予定は?」
圧をかけられる。バシッと決まったメイクの顔面は強力だ。盛り過ぎな睫毛には、他人を威圧する戦闘力が備わっていると思う。
「そ、そんなものは……」
あるわけない、と言いかけたが玖堂の「友だちからはじめる」という言葉が頭をよぎった。
「委員長」
低い声にビクリとする。
「は、はい」
「否定しないの?」
「み、未来のことは分からないから……」
俺は預言者でも超能力者でもない。なので、未来のことは分からない。うん。間違ったことは言っていない。
もちろん、それで彼女たちが納得するはずもなく……。
背中に嫌な汗を感じる。ビビりまくっていると、再び前方の扉が開いた。助かった、青山が来た! と、思ったんだけど。
教室に入って来たのは、まさかの玖堂だった。
「みんなで、なにしてるの」
玖堂が、こちらに近づいてくる。
そして、一軍女子たちを見下ろす。ゆっくりと髪をかき上げる。
悠然とした態度に、新田さんをはじめ一軍女子たちはちょっと怯んだ顔を見せる。
しかし、俺には分かる。今の玖堂は何も考えていない。なぜなら、いつものぼけっとした顔だから。
モブを助けに来たヒーローに見えるかもしれないが、ぜったいに玖堂は何も考えていない。断言してもいい。
「なにしてるのって、聞いてるんだけど?」
玖堂の低い声が、静まり返った教室に響いた。
これも、決して圧をかけているのではなく。単純に疑問だから、確認しているだけだ。
けれども、女子たちは勘違いしたのか逃げるように教室を飛び出して行った。
ぼけーーっとした顔の玖堂が、パチパチと瞬きをする。
「なんだったんだろう……?」
そう言って、ゆっくりと首をかしげる。
ほら、やっぱりな。何も考えていない。
自分の予想が当たって、俺は苦笑いした。
「玖堂こそ、どうしたんだよ」
とっくに帰ったと思ったのに。
「宮下が残ってるから」
「もしかして、俺のこと待ってるつもり?」
「うん」
自分の席から、玖堂が椅子を持ってきた。どうやら本当に待つつもりみたいだ。
「たぶん、小一時間か……もしかしたら、それ以上かかるかもしれないぞ」
昼休み、玖堂は「早く帰りたい」と駄々をこねていた。そのことを思い出して、俺は忠告した。
「俺も手伝うよ。そうしたら、早くおわるでしょ」
そう言って玖堂は、にこにこと笑った。
失礼ながら、戦力になるんだろうかと疑ってしまった。いや、いないよりはマシか……。そんなことを考えていたら、青山がやって来た。
「悪い、遅くなった~~。職員会議があるのを忘れてて……」
まったく悪びれる様子もなく、青山がプリントをどさりと机に置く。
「これをまとめるんですか?」
「そう、五部ずつ」
「分かりました」
さっそく、俺はプリントに手を伸ばした。
「今日は助っ人もいるのか~~」
玖堂を見ながら、青山が満足そうにうなずく。
「助っ人になるかは分かりませんが、とりあえず頭数が増えたことは事実です」
「がんばります」
俺に失礼なことを言われているのに、気にした様子もなく玖堂が参加表明をする。
「玖堂は良い子だなーー」
青山がうれしそうに、玖堂を見る。
その言葉にカチンときた。
俺はいつも手伝ってるのに。俺のほうが、ぜったいに良い子なのに。
「遅刻することもなくなったし、先生はうれしいぞ~~」
さらにムカッとする。俺のおかげなのに。俺が毎朝、玖堂の目覚まし担当として奮闘しているから……。
胸の辺りに不快感を覚えながら、サクサクと作業を進める。長年に渡って表情筋を鍛えてきたので、こんなときでも俺は「なんでもありません」という顔ができる。
ホッチキスのバチン、という音と感触がストレス発散になることに気づいて、俺は率先してホッチキス係になった。
バチン、バチン、と力を込めながらプリントを綴じる。
狙った場所に、ホッチキスの針がいくように集中する。
バチン、バチン、と繰り返していると、ちょっと冷静さを取り戻した。
自分は一体、どれだけ褒められたいんだ……。
ちらりと視線を上げる。玖堂は、ぽやぽやした顔でプリントの束を作っている。青山もご機嫌だ。
和やかに作業をすすめる二人を見ながら、俺はひとり自己嫌悪に陥っていた。
俺は担任の手伝いをするため、ひとり教室に残っていた。
教室の前方の扉が勢いよく開き、一軍女子がぞろぞろと入ってくる。俺は、あっという間に取り囲まれてしまった。
さっそく嫌な予感が的中したことを悟る。
「な、何か用……?」
通常よりかなり多めに瞬きをしながら、彼女たちに問う。
「委員長って、マジで玖堂くんと付き合ってないわけ?」
一軍女子のリーダー的存在である新田さんが口を開いた。
俺は、こくこくと首を振る。
「付き合ってない」
「これから、付き合う予定は?」
圧をかけられる。バシッと決まったメイクの顔面は強力だ。盛り過ぎな睫毛には、他人を威圧する戦闘力が備わっていると思う。
「そ、そんなものは……」
あるわけない、と言いかけたが玖堂の「友だちからはじめる」という言葉が頭をよぎった。
「委員長」
低い声にビクリとする。
「は、はい」
「否定しないの?」
「み、未来のことは分からないから……」
俺は預言者でも超能力者でもない。なので、未来のことは分からない。うん。間違ったことは言っていない。
もちろん、それで彼女たちが納得するはずもなく……。
背中に嫌な汗を感じる。ビビりまくっていると、再び前方の扉が開いた。助かった、青山が来た! と、思ったんだけど。
教室に入って来たのは、まさかの玖堂だった。
「みんなで、なにしてるの」
玖堂が、こちらに近づいてくる。
そして、一軍女子たちを見下ろす。ゆっくりと髪をかき上げる。
悠然とした態度に、新田さんをはじめ一軍女子たちはちょっと怯んだ顔を見せる。
しかし、俺には分かる。今の玖堂は何も考えていない。なぜなら、いつものぼけっとした顔だから。
モブを助けに来たヒーローに見えるかもしれないが、ぜったいに玖堂は何も考えていない。断言してもいい。
「なにしてるのって、聞いてるんだけど?」
玖堂の低い声が、静まり返った教室に響いた。
これも、決して圧をかけているのではなく。単純に疑問だから、確認しているだけだ。
けれども、女子たちは勘違いしたのか逃げるように教室を飛び出して行った。
ぼけーーっとした顔の玖堂が、パチパチと瞬きをする。
「なんだったんだろう……?」
そう言って、ゆっくりと首をかしげる。
ほら、やっぱりな。何も考えていない。
自分の予想が当たって、俺は苦笑いした。
「玖堂こそ、どうしたんだよ」
とっくに帰ったと思ったのに。
「宮下が残ってるから」
「もしかして、俺のこと待ってるつもり?」
「うん」
自分の席から、玖堂が椅子を持ってきた。どうやら本当に待つつもりみたいだ。
「たぶん、小一時間か……もしかしたら、それ以上かかるかもしれないぞ」
昼休み、玖堂は「早く帰りたい」と駄々をこねていた。そのことを思い出して、俺は忠告した。
「俺も手伝うよ。そうしたら、早くおわるでしょ」
そう言って玖堂は、にこにこと笑った。
失礼ながら、戦力になるんだろうかと疑ってしまった。いや、いないよりはマシか……。そんなことを考えていたら、青山がやって来た。
「悪い、遅くなった~~。職員会議があるのを忘れてて……」
まったく悪びれる様子もなく、青山がプリントをどさりと机に置く。
「これをまとめるんですか?」
「そう、五部ずつ」
「分かりました」
さっそく、俺はプリントに手を伸ばした。
「今日は助っ人もいるのか~~」
玖堂を見ながら、青山が満足そうにうなずく。
「助っ人になるかは分かりませんが、とりあえず頭数が増えたことは事実です」
「がんばります」
俺に失礼なことを言われているのに、気にした様子もなく玖堂が参加表明をする。
「玖堂は良い子だなーー」
青山がうれしそうに、玖堂を見る。
その言葉にカチンときた。
俺はいつも手伝ってるのに。俺のほうが、ぜったいに良い子なのに。
「遅刻することもなくなったし、先生はうれしいぞ~~」
さらにムカッとする。俺のおかげなのに。俺が毎朝、玖堂の目覚まし担当として奮闘しているから……。
胸の辺りに不快感を覚えながら、サクサクと作業を進める。長年に渡って表情筋を鍛えてきたので、こんなときでも俺は「なんでもありません」という顔ができる。
ホッチキスのバチン、という音と感触がストレス発散になることに気づいて、俺は率先してホッチキス係になった。
バチン、バチン、と力を込めながらプリントを綴じる。
狙った場所に、ホッチキスの針がいくように集中する。
バチン、バチン、と繰り返していると、ちょっと冷静さを取り戻した。
自分は一体、どれだけ褒められたいんだ……。
ちらりと視線を上げる。玖堂は、ぽやぽやした顔でプリントの束を作っている。青山もご機嫌だ。
和やかに作業をすすめる二人を見ながら、俺はひとり自己嫌悪に陥っていた。
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