こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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5.溺愛されることになれていません

5-8

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 玖堂と二人きりになってから、俺は「あんな兄でゴメン」と詫びた。

「騒々しいというか、馴れ馴れしいというか……」

「いや、俺もお兄さんの胸倉を掴んじゃったし。失礼なことしちゃったな」

 玖堂が、気まずそうな顔をしている。

 例の箱を預かっていた経緯も説明した。それを今日、引き取りに来たということも。

「強引に押し付けられて。早く取りに来いって催促してたんだけど……」

「もしかして、それで頻繁にメッセージのやり取りをしてたの?」

「……うん。嘘ついて、ゴメン」

 塾で特別に親しくなった相手はいない。そう玖堂に打ち明ける。

 玖堂が大きく息を吐いた。

「実は、めちゃくちゃ嫉妬してた」

「うん」

「塾に行って偵察しようかと思った」

「え?」

 急に話が不穏な方向に向く。

「宮下を尾行して、塾まで行って。様子を窺おうかと思ったんだけど」

「は?」

「バレたら嫌われそうだし。やめた」

 もう少しで実行するところだったらしい。マジのストーカー案件じゃんかよ。だけど……。

「……嫌わないと思う」

「そうなの?」

 玖堂が、ちょっと驚いた顔になる。

「たぶん、嫌いにはならない。怒るとは思うけど」

 俺をストーキングする玖堂を想像したら、ドン引きしたけれど嫌いにはならなかった。

「残念。だったら尾行すればよかった」

 そう言って、冗談っぽく笑う。 
 
 俺は冷蔵庫を開けて、スポーツドリンクを取り出した。

 玖堂に手渡しながら、「言い出しにくかったんだ」と言って視線を逸らした。

「預かってる物があれだったら、仕方ないよ。言いにくいのは分かる」

 玖堂が苦笑いしながら、俺に理解を示す。

「そうじゃなくて……」

 俺は、ゆっくりと首を振った。

 玖堂の目を見る。言いかけて、逸らす。

 何度か繰り返した。そして、俺はようやく覚悟を決めた。

 兄から聞いた話。

 いつの間にか、過去の記憶をすり替えていたこと。

 両親のこと。自分の幼少期。

 ときどきみる夢の話。

 今まで言えなかったことを玖堂に打ち明けた。

 玖堂は、最後まで俺の話に耳を傾けていた。

「そうか……」

「うん」

「なんだか、分かった気がする」

 玖堂が、静かに言った。

「宮下が、いつも『褒められたい』と思う理由」

 ドキン、と心臓が跳ねた。少しだけ怖い。

 俺は、玖堂になにを突き付けられるんだろう。 

「宮下は、ずっと愛されたかったんだよね」

 玖堂の言葉は、あっけなく俺の心臓を貫いた。

「褒められたくて、そのために一生懸命に頑張るのは、愛情が欲しいからだ」

 やさしい声が、俺の柔らかい場所を抉る。

 痛い。でも、玖堂が相手だから許してしまう。

「そう、かもしれない……。ていうか、たぶん、そう……」

 自分でも気づいていない部分を暴かれるのは、不思議な感覚だった。

 考えてみれば、簡単なことだった。

 褒められたい。注目されたい。俺のことを見て欲しい。

 ずっと、得られなかったもの。

「俺は、ただ愛されたかった」

「うん」

「でも、ダメだった」

「……うん」

「もらえなかったんだ」

 気づいたら、涙が溢れていた。

 苦しい。恥ずかしい。俺は愛されない子どもだった。惨めな子どもだった。

 そのことを玖堂に知られてしまった。

「玖堂には、知られたくなかった……。俺が、愛されなかったこと。玖堂は、普通だから……」

 両親に愛されているから。

 スポーツドリンクをダイニングテーブルに置き、玖堂が俺に手を伸ばす。

 玖堂の両手が、俺の顔を包み込んだ。親指で、溢れる涙を拭う。

「俺は、玖堂が思ってるような人間じゃないかもしれない」

「宮下は、宮下だろ?」

 そう言って、玖堂が微笑む。

 俺は、駄々っ子のように首を振った。

「面倒見の良いお母さんタイプじゃなくて、淋しがり屋かも……」

 語尾が震えた。嫌われたくない。好きなままでいて欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。

 玖堂が、いくら拭っても涙が溢れてくる。

「ハンカチか、タオルある?」

 玖堂が、苦笑いしながら俺に問う。

 俺は、こくんとうなずいた。

「どこ?」

「寝室の押し入れ」

 押し入れの中に、透明の収納ボックスがある。 

 衣装ケースとして利用しているのだ。ハンカチやタオルもそこに仕舞っている。

 玖堂が寝室に向かった。

 自分から離れていく。 

「俺のこと、ひとりにしないで……」

 ぐずぐずと洟をすすると、玖堂が困った顔をしながら戻ってきた。

「ちょっと、取りに行くだけだよ」

「……分かってる。けど、涙が出るんだよ」

「じゃあ、一緒に行こう」

 そう言って、玖堂は俺の手を握った。
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