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52.道を踏み外した娘~ステンシル侯爵side
しおりを挟む以前からブリチア王国は大国と同盟を結ぶ話が出ていた。
有力候補は軍人国家の中でも力が強く、文明の発展が進んでいるシメリス帝国だった。
ブリチア王国が従国となれば、我らの立場が変わって来る。
だが、国外追放となった私の娘が皇太子妃になっているなど知らなかった。
「貴方、これはどういうことですの!何故あれが!」
「私が知るはずがないだろう!お前こそ何も知らないのか!」
新しく立太子したのがユーリ殿でその隣にはアイリスが映っている。
美しく着飾りながらも派手過ぎず、聡明な皇太子妃として装いを重視されていた。
「何が賢妃再来よ…あんな出来損ないが!ありえないわ」
「叫ぶな。みっともない」
ここ最近は、妻の癇癪に頭が痛かった。
これまでは領地と王都の行き来をしていたからここまで目にする事はなかったが。
何より、ここまでヒステリックに叫ぶことはなかった。
「お父様、当日は私達も参加するんでしょ?あんなのが皇太子妃なんておかしいわ。私の方がふさわしいわ!」
「そうよ。衣装が美しいだけで、あんなのが」
さっきからあれとか、あんなのとかとは何だ?
そう思ったが、妻や娘達がアイリスを名前で呼んでいるのを聞いたことはあるか。
優しく控えめで、何でも言う事を聞く娘だった。
私もそんアイリスを好んでいたし、今回もここまで反抗するとは思わなかった。
何故だ?
今までは何でも言う事を聞き、我儘を言わなかったのに。
婚約者を長女に差し出せと言っただけだ。
それを怒って家を出るまでになるなんて。
あろうことにも傍付きの侍女のロビンは親と縁を切ってまで我が家との関係を断ち、その後男爵家も侯爵家と関係を断ったのだ。
全てはあの婚約破棄騒動から生活が一変した。
「貴方、縁を切ったとはいえ…娘の悪行をこれ以上黙って見ているわけにはいきませんわ。皇太子妃に相応しいのはイライザですわ!」
「うむ…」
言いたいことは解る。
ユーリ殿は何を考えているのか解らない。
イライザとの婚約に何の不満があると言うのか。
騎士でいるよりも侯爵の地位を継ぐ方が名誉なはずだ。
「国外追放をされて母方の国に逃げるなんて考えもしませんでしたわ…でも、皇太子様になられるなんて」
「イライザ、あれに妃なんて務まるわけがないでしょう?」
「そうよ、帝国は笑いものになるわ。お姉様の方が相応しいわ」
アイリスに皇太子妃の器はない。
勝手な真似をしたことは許しがたいが、頭を下げて謝るならば情けをかけてやろう。
心を入れ替えるならば、私は再び勘当を解いてやろうと思っているのだから。
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