令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ

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心の奥

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案内された席は窓から庭が見えて日当たりも良い場所。

「ここ…」

鮮明に覚えているこの席。
いつもこの席に座って両親と祖父母とケーキを食べていた。

そして向かいの席には。


『俺ここの苺ショートが大好きなんだ』

『私も!』

初恋の男の子がいた。
どこの誰かもわからなかった。

アレーシャよりも年上でこの店で出会ったのだ。


一緒に食べたのは苺のショートケーキ。

二人で食べたあの時の味は今も鮮明に覚えていて。
忘れることなんてできなかった。

「美味しい」

あの時と変わらない味。
幸福だった幼少期を思い出すと涙が流れる。

「お嬢様…」

「アレーシャ様」

「えっ…何で」



まだ幸せだったあの頃。
本当は頻繁でなくても来ることはできた。

それでもここに来ないのはアレーシャにとって思い出してしまうから。

穏やかな暮らしに、愛され過ごした時間。
厳格な父でありながら愛人を作らず母を愛していた父。
優しい祖父母と本当に幸せだった。

その記憶を思い出すと哀しくて辛いから無意識に来ることを拒んでいたのかもしれない。

金銭的余裕がないなんて言い訳で。

本当は――――


「アレーシャ」

「申し訳ありません」

顔を俯かせようとするもレオンハルトは頬に触れ優しく涙を拭った。

「ずっと我慢していたはずだ。貴女はずっと耐えて、耐えて。心が悲鳴をあげていたはずなのに」

耐えて、耐えて、耐え続けた結果。
心の奥底で哀しいと言う想いは消えることなく膨れ上がっていた。

誰にも弱みを言えない。
母が死んでから沢山のモノを失ってしまった。

優しい祖父母に心配をかけてはいけないと言葉を飲み込み心を殺し続けて来た。

母との約束を守る為に。

『アレーシャ、お父様をお願いね』

『お母様!』

『あの人は不器用で言葉も少ないけど…でも解ってあげて』

母の死に目にも立ち会わなかった。
母が死んで喪が明けてすぐに義母との再婚話を聞いて嫌悪感を抱かなかったわけじゃない。

けれどそれは仕方ないことだと思っていた。
貴族の間では愛人を持つのは当然で結婚しても恋愛は愛人とする。

一夜限りの遊びの恋を楽しむ令嬢・令息だって普通にいる。
既に幼少期で達観した考えを持つようになったのも、行儀見習いとして宮廷に侍女として仕えるようになったからだ。

再婚した義母はアレーシャを毛嫌いし、大人しいのをいいことにやりたい放題。
カテリーナもわがまま放題でアレーシャを召使のように扱っていた。

何度も泣きたくなってもその都度自分自身をしかりつけ笑っていた。


『どんな時も笑顔でいなさい』

母が教えてくれた言葉だった。

『自由に生きることができなくとも女性であることを恨んではいけません。誇りを持ちなさい』

どんな時も強く笑顔でいる。
それが母の教えだった。


だから泣くこともできなかった。

「貴女は誇り高い方だ。だが一人でずっと耐え続けることはできるはずがない」

「私は…」

「せめてその荷を俺に預けて欲しい。貴女の騎士として」

ずっと気を張って来たアレーシャは涙を止めることができなかった。




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