令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ

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淑女の気品

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振り下ろした手が当たることはなかった。

「何で…何で何も言わないのよ」

抵抗することもしないアレーシャはただ見ているだけだった。

「私は貴女に嫌がらせをしていたのに何で!」

一言ぐらい何か言えばいいのに。
罵倒を浴びせ、今のジェーンを嘲笑えばいいのにと思った。

「どうして一度も私達に仕返しをしなかったの?本当はできたんでしょ」

有頂天になって他の先輩と一緒に嫌がらせをして来た。
伯爵家の長女でありながら後妻に入った義母とその娘に居場所を奪われ日陰で生きるしかないと馬鹿にして来た。

だが、正当な血筋を受け継ぐアレーシャは義妹に劣っていても伯爵家の令嬢であることは変わりない。
成り上がりの男爵家のジェーンを潰すなんて容易いことだった。


「私は私の為に手を出しません」

「それは…」

ジェーンに代わりスザンヌが尋ねる。

「暴力を暴力で返せば相手だけでなく私自身も傷つきます。私は私の誇りを守る為にしたことです」

ずっと大人しかったアレーシャ。
意気地なしで抵抗することもできない弱い人間だと思っていたがその逆だった。


(最初から‥‥負けていたんじゃない)

身分をひけらかし相手を屈服させるようなことは誇り高い貴族の振舞いではない。


「私は私の為に貴女達を傷つけるような真似はいたしません。それが私の誇りです」

例えどんなに暴力を受けても仕返しのような真似はしない。
力ある者が力を振るう時は個人的な感情で振るうべきではないと知っていたから。

手をかざし、癒しの魔法で傷を癒す。

「私の顔が…」

カテリーナに傷つけられた傷が塞がって行く。

「風が…」

竪琴を奏ると風が吹き大気が喜んでいるかのようだった。


「薔薇は枯れているわけではありません。まだ生きています」

「本当ですか?」

「ええ、ちゃんと手入れをすれば数日で元に戻ります」

裾をたくしあげて花壇に向かい手入れを始める。
荒らされた薔薇を一輪、一輪手に取りハンカチに包む。

「どうするのですか?」

「この薔薇は凍らせて広間に飾ります。事情を話せばお許しくださいます」

「ですが…」

あれだけ怒っていたのに許してくれるか不安だった。

「心を込めて誠心誠意お詫びするしかありません。それ以外に必要なものはないのですから」

「はい…」

スザンヌはこれまでのことを悔いた。
侍女として何一つできていなかっただけではなく女性として人として欠落した部分が多かったのだと気づかされる。


「失敗を恥じる必要はありません。同じ過ちを繰り返さなければいいのですから」

「はい…はい。申し訳ありません」

これまでのことを心から悔やみ頭を下げる。



(私はこれまでなんてことを!)

ちゃんと人を見ていなかった。
カテリーナこそが貴族の淑女として相応しいと思った過去の自分をしかりつけてやりたくなった。


本当の淑女は美しいドレスも装飾品にもかなわない程の美しさを持っている。

淑女の気品とはその振る舞いで決まるのだとようやく気付いたのだった。



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