58 / 63
因果の鎖
しおりを挟むそれはきっかけにすぎなかった。
初めて顔を合わせた時からどうしても劣等感が拭い去れなかった。
「今日からお前の母と娘になる人だ。挨拶を」
「ユスティーナと申します」
美しい顔立ちに,美しい作法。
何から何まで自分と違うと思い知らされた。
けれどその憂いは直ぐに取り払われる。
父は愛人である母を愛し、娘であるルクレチアを溺愛していた。
「お父様!私もこのドレスが欲しいわ!」
「譲ってあげなさいユスティーナ。お前は姉なのだから」
「でも…解りました」
貴族の間では政略結婚に愛は必要なく利益の追求のみ。
政略結婚で結ばれたユスティーナの母と違い、ルクレチアの母は愛で結ばれたのだから、父親から溺愛されている事にやりたい放題をしていた。
ユスティーナの大事なものは全て奪って来た。
夜会では差をつけるべくゴージャスなどれを選びユスティーナのはみすぼらしいドレス。
「きゃあ!」
「ユスティーナ…」
お茶会ではわざとドレスを汚し堆積させるように仕向けた。
「お茶会で粗相をするとは…妹に劣るとはなんと恥知らずな」
「お父様、そんなに怒らないで上げてください」
「本当にお前は優しい自慢の娘だ」
ルクレチアは頭を働かし、父親の前では姉思いの優しい妹を演じ社交界でも男に媚びを売っていた。
しだいにユスティーナは居場所がなくありつつある中、縁談の話が持ち上がる。
跡継ぎがいないことから婿養子を迎えることになり。
本来ならば長女の婚約者になるがルクレチアは得意の色香で誘惑し婚約者を寝取り。
邸からユスティーナを追い出した。
目障りな存在さえいなくなれば侯爵家は自分のモノ。
全ては自分の思い通りになったかと思ったが、侯爵家は父親の代から借金を抱えており借金は膨れ上がり、時期を同じくして疫病が逸った。
その所為で父親は多額の借金を残し亡くなり。
母親は有り金を持ちだして愛人と駆け落ちし、夫も愛人と駆け落ちをして家は没落した。
なのに‥‥
「見て、プライム伯爵夫妻よ!!」
「なんて美しいのかしら!」
貧乏貴族だったプライム家は事業が成功し資産家になり。
疫病に聞く薬草を生産したことから出世をした。
「いつ見ても素敵ね」
「セルジオ様は奥様一筋で…少し変わっていらっしゃるけど」
「でも羨ましいわ」
目の前には散々あ笑って来たユスティーナが憧憬の的となっていた。
「ユスティーナ様は慈善活動をなさっていて…本当に素晴らしいですわ」
「なんでも王妃様にサロンの出入りを許されたそうですわ!」
王妃からも目をかけられ。
消えていた劣等感が蘇り嫉妬を抱く。
沸々と湧き上がる、黒い感情が支配されていく。
(憎い、ユスティーナ)
こんな惨めな思いをしたルクレチアは復讐を誓った。
偶然を装ってユスティーナに近づき。
何食わぬ顔で邸に訪れた毒を薬に混ぜて暗殺した。
愛する妻が病死して弱り切っている所に漬け込みセルジオの妻に収まったが、既にセルジオには娘がいた。
「アレーシャです」
礼儀ただしく挨拶をする姿がかつての姉と瓜二つ。
自分達に優しく微笑みかける姿すら疎ましくして仕方なく。
「ねぇ聞いた?」
「ええ、プライム伯爵夫人はお金目当てで、嫁いだみたいよ」
「なんて意地汚いのかしら」
又社交の場では散々中傷の的になり。
宮廷に呼ばれるようになっても。
「王妃様!」
「王妃様よ…お声をかけていただかなくては!」
舞踏会の席では王妃に声をかけてもらおうと思っても。
無視をされる。
(なっ…なんでよ!!)
「ごきげんようプライム伯爵。久しぶりではありませんか」
「ご機嫌麗しゅうございます」
ルクレチアは無視されるのにセルジオには挨拶をする王妃はその後も同じだった。
「御息女は日に日に美しく成長して将来が楽しみだわ」
「ありがとうございます」
あげく王妃はアレーシャを気に入っていて、その後サーシャとの御付き侍女に命じるようになった。
(どうして…どうしてなの!)
王族に取り入ろうとしても上手く行かず、苛立ちを抱き。
日に日に美しく成長するアレーシャはユスティーナにそっくりになり悪意が膨れ上がって行き止めらなくなっていた。
「私から全てを奪って…許せない」
何をしてもユスティーナの影が離れない。
影を殺すにはその元凶を経つしかないと思った。
地下牢にて見下ろすルクレチアは意識を失ったアレーシャに殺意を向ける。
「クルエラ様の手を煩わせる必要もない」
全てを奪われたなら今ここで奪い返してやろうと思った最中。
「うっ…」
薬で眠らせられたアレーシャが意識を取り戻した。
376
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。
絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。
王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。
最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。
私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。
えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない?
私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。
というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。
小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。
pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。
【改稿版について】
コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。
ですが……改稿する必要はなかったようです。
おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。
なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。
小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。
よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。
※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。
・一人目(ヒロイン)
✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前)
◯リアーナ・ニクラス(変更後)
・二人目(鍛冶屋)
✕デリー(変更前)
◯ドミニク(変更後)
・三人目(お針子)
✕ゲレ(変更前)
◯ゲルダ(変更後)
※下記二人の一人称を変更
へーウィットの一人称→✕僕◯俺
アルドリックの一人称→✕私◯僕
※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
謹んで、婚約破棄をお受けいたします。
パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる