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番外編
お転婆王女と苦労人皇子③
しおりを挟む言葉だけで見事なまでに撃退したルシアン。
「公爵夫人、ありがとうございます」
「いいえ、私も迂闊でしたわ。もう少し気にかけるべきでした」
最近王都に来たばかりの辺境地に住まう貴族は何かと宮廷貴族の苛めの標的になりやすい。
相手が高位貴族でなかったならば猶の事だ。
「リーシア、社交界ではこのような事が起きます。それでも無暗に仕返しをしてはなりません」
「どうして…悪いのは」
「例えあちらに非があっても謝らせることも改心させることは無理でしょう。むしろ下手に手を出せば責められるのは私達よ」
「そんな!悪くないのに」
「だからよ。それに正しいから手を出すのは悪となるわ」
まだ幼いリーシアには解らなかった。
今までは面と向かって悪いと思った人間を凝らしてめていた。
「リーシア、ある女性は例え誰かに傷つけられても手を出さなかったわ。その方はご自分が傷つこうとも守る為に傷だらけになりました」
「どうして…」
「例え悪い人でも傷つける事が嫌だったのでしょう」
「そんなの!」
偽善に過ぎないと思った。
強くなければ何一つ守れない、そんなのに意味があるのかと思ったリーシアにルシアンは告げた。
「力での服従は意味がないから。貴女が悪い人を殴っても。その人は恨みを抱くでしょう」
「じゃあ、どうしたらいいの?悪い人を凝らしてもダメで、黙って見ていればいいの?」
ずる賢い人間は平気で他人を踏みつける。
真面目に精一杯生きている人間が損をして卑怯な手を使う人間が得をする。
そんな世界が大嫌いだった。
幼いながらに貴族の常識はリーシアを苦しめていた。
真っすぐで純真だからこそ。
「リーシア、貴女にも何時か解るわ。教皇猊下の御心が…あの方のなさろうとした事が」
「はい…」
ルシアンの言葉は幼過ぎたリーシアには理解できなかった。
そんな折、一冊のグリモワールの持ち主としてリーシアが選ばれた。
「リーシア、これから神殿に向かいます」
「神殿?」
「そうです。貴女がお仕えすることになるであろう方の魂が眠る場所です」
公爵令嬢が使えるのは国王かもしくは王太子とその妃ぐらいなのだが。
「いずれこの国を導かれる聖職者のトップ、白の大魔導師様です」
「白の大魔導師?」
この時リーシアは宗教には関心を持っていなかったがその考えをがらりと変えられることになるのだった。
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