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どうやって教室に帰ったのかわからない。前を歩く宮瀬くんについて教室に入ったらもうクラスメイトはほとんどみんな集まっていた。
……宮瀬くんに告白された?
脳がまったく動かない。僕はこういうときどうすればいいか知らない。誰かに告白されたこともないし、ましてや好きな人に告白されたことなんてない。初恋だって宮瀬くんが初めてで……。いや、そもそも告白だったのかな? こんな僕に?
そんなことを堂々巡り、ずっと考えていたら、名前を呼ばれた。
「宮本くん。机……」
ハッとして周りを見たら、みんなが自分の鞄を肩にかけて移動している。黒板の方に目を向けて席替えだと気付いた。中間が終わったから席を替えるんだ。……宮瀬くんと離れてしまう。
テレビに映された座席を確認して、移動した。将吾と席が近くなった。無意識に宮瀬くんを確認したら宮瀬くんは江川くんと前後になっていた。これでよかったのかもしれない。
宮瀬くんは僕の返事を待つと言っていた。僕には待ってもらう資格なんてないのに、宮瀬くんとは同じ土俵に立っていないのに、そんなふうに言ってもらえて苦しかった。
でも彼の目が真剣で、本当に僕が好きなんじゃないか、いやそうなのだと思わされて……。僕も真剣に考えなければいけないと知った。
席が離れても毎日宮瀬くんは必ず僕のところに来て朝の挨拶をしてくれた。僕もそれに返した。そうして気軽に接してくれるのは、宮瀬くんの気遣いなのかもしれないと思って、余計、僕は自分が情けなかった。
僕は宮瀬くんが好き。宮瀬くんも僕が好き。だったら両想いなんだ。だけど、僕は吃音でどうしようもなくコミュ障で、学校の誰よりもすごい宮瀬くんとは似合わない。僕が宮瀬くんと付き合いたいなんて思ったら、そして宮瀬くんと付き合ったら、それはいつか彼の負担になる。僕はそれが嫌だった。
図書委員の順番が回ってきた。今日から一週間、村田ひな子というクラスメイトと僕とで受付をすることになる。
僕も村田さんも去年図書委員だったから勝手を知っていて司書教諭の先生は僕たちに軽く挨拶をすると自分の仕事に戻っていった。
テスト期間でもないこの時期は生徒もあまり図書室には来なくて、僕達は昼休みを持て余していた。
お弁当はカウンターの隅の決められたスペースでなら食べることを許されていて、僕達は本を借りに来る生徒がいない限り、そこでのんびり食事ができた。
小さい声であればおしゃべりできるので、村田さんは僕にたくさん話しかけてくれた。
「宮本くん、髪切ってほんと綺麗になったよね。知ってた? うちの学年、あるグループがあってね、宮瀬くんを推している宮瀬組」
「……ヤクザの組名みたい」
僕が笑うと村田さんは「でしょでしょ!」と喜んだ。
「でも今はもう一つ組があって、宮本組。宮本くん、可愛くて美人でかっこいいってみんな実は陰で推してるんだよ」
「僕を推してる人なんているわけないよ」
「ええ! そんなふうに言っちゃダメだよ。私も宮本くん推してるんだからファンに失礼でしょ?」
村田さんは自分の胸に手を当てて悲しそうな顔をした。こうしておしゃべりが好きでふざけた仕草をする村田さんだけど、僕の話もよく聞いてくれる。僕はなぜか村田さんには吃音が出なかった。
「ごめんなさい」
「そこは謝るんだ! 宮本くんほんと可愛い好き!」
図書室だということを忘れて村田さんが少し大きな声を出せば、教諭が出てきて口に人差し指を当てた。
「話してもいいけど、アリさんの音量でね」
幼稚園児を相手に仕事をしていたことのある教諭はこうして小声のことを「アリさんの声」と言って説明する。僕と村田さんは揃って頭を下げた。教諭が仕事部屋に消えるとまた村田さんが口を開く。
「私はなんで宮本くんがそんなに自信ないのかわかんないけど、でも自分が思っている以上に宮本くんには価値があるって知ってほしいな。……たとえばね、私一年生の時から宮本くんと仲良くなりたいって思ってたんだ。図書委員ってコラム作るでしょう? それを読んでね、なんて綺麗な言葉を書くんだろうって思ったの。それから宮本くんのことが気になったんだ。だから今年同じクラスで、同じ委員会なの嬉しかった」
思わず涙が出そうになった。
「ということで宮本くん、私と友達になってください!」
村田さんが僕に手を伸ばしてきて、笑いながら僕も村田さんの手を握り返した。
「はい」
涙が溢れていたと思う。
「好きです。付き合ってください!」
その日の帰り、図書当番の仕事を終えた僕は体育館裏を通って校門に向かっていた。図書室がある棟からはこっちを通ったほうが近道だったから。でも、早速後悔している。まさか告白の現場に居合わせるとは思わなかった。慌てて校舎の影に隠れて様子を伺えば、男女が向き合っていた。テニス部の女子と、あれはバスケ部の男子だろうか?
二人の横を通らないと校門にはいけないから、一度図書室の方に戻って遠回りで帰った方がいいかもしれない。回れ右をしようとしたとき、影の向こうで知っている声が返事をしているのが聞こえた。
「好きな人がいるから無理」
告白を受けているのは宮瀬くんだった。
本当はよくないとわかっているけど、好きな人の声に注意を引かれて、また影の中から様子を窺ってしまう。
冷たい宮瀬くんの返事に、相手は一瞬俯いてそれから走っていってしまった。
溌剌とした雰囲気ですごく可愛い子だった。きっと付き合ったらお似合いのカップルになると思うのに、宮瀬くんは断った。……好きな人がいるから。
彼女が去ってすぐ宮瀬くんは体育館に戻っていった。
僕は結局、図書館の方から遠回りして帰った。
心のささ舟が波に揺れて、ひっくり返った。
……宮瀬くんに告白された?
脳がまったく動かない。僕はこういうときどうすればいいか知らない。誰かに告白されたこともないし、ましてや好きな人に告白されたことなんてない。初恋だって宮瀬くんが初めてで……。いや、そもそも告白だったのかな? こんな僕に?
そんなことを堂々巡り、ずっと考えていたら、名前を呼ばれた。
「宮本くん。机……」
ハッとして周りを見たら、みんなが自分の鞄を肩にかけて移動している。黒板の方に目を向けて席替えだと気付いた。中間が終わったから席を替えるんだ。……宮瀬くんと離れてしまう。
テレビに映された座席を確認して、移動した。将吾と席が近くなった。無意識に宮瀬くんを確認したら宮瀬くんは江川くんと前後になっていた。これでよかったのかもしれない。
宮瀬くんは僕の返事を待つと言っていた。僕には待ってもらう資格なんてないのに、宮瀬くんとは同じ土俵に立っていないのに、そんなふうに言ってもらえて苦しかった。
でも彼の目が真剣で、本当に僕が好きなんじゃないか、いやそうなのだと思わされて……。僕も真剣に考えなければいけないと知った。
席が離れても毎日宮瀬くんは必ず僕のところに来て朝の挨拶をしてくれた。僕もそれに返した。そうして気軽に接してくれるのは、宮瀬くんの気遣いなのかもしれないと思って、余計、僕は自分が情けなかった。
僕は宮瀬くんが好き。宮瀬くんも僕が好き。だったら両想いなんだ。だけど、僕は吃音でどうしようもなくコミュ障で、学校の誰よりもすごい宮瀬くんとは似合わない。僕が宮瀬くんと付き合いたいなんて思ったら、そして宮瀬くんと付き合ったら、それはいつか彼の負担になる。僕はそれが嫌だった。
図書委員の順番が回ってきた。今日から一週間、村田ひな子というクラスメイトと僕とで受付をすることになる。
僕も村田さんも去年図書委員だったから勝手を知っていて司書教諭の先生は僕たちに軽く挨拶をすると自分の仕事に戻っていった。
テスト期間でもないこの時期は生徒もあまり図書室には来なくて、僕達は昼休みを持て余していた。
お弁当はカウンターの隅の決められたスペースでなら食べることを許されていて、僕達は本を借りに来る生徒がいない限り、そこでのんびり食事ができた。
小さい声であればおしゃべりできるので、村田さんは僕にたくさん話しかけてくれた。
「宮本くん、髪切ってほんと綺麗になったよね。知ってた? うちの学年、あるグループがあってね、宮瀬くんを推している宮瀬組」
「……ヤクザの組名みたい」
僕が笑うと村田さんは「でしょでしょ!」と喜んだ。
「でも今はもう一つ組があって、宮本組。宮本くん、可愛くて美人でかっこいいってみんな実は陰で推してるんだよ」
「僕を推してる人なんているわけないよ」
「ええ! そんなふうに言っちゃダメだよ。私も宮本くん推してるんだからファンに失礼でしょ?」
村田さんは自分の胸に手を当てて悲しそうな顔をした。こうしておしゃべりが好きでふざけた仕草をする村田さんだけど、僕の話もよく聞いてくれる。僕はなぜか村田さんには吃音が出なかった。
「ごめんなさい」
「そこは謝るんだ! 宮本くんほんと可愛い好き!」
図書室だということを忘れて村田さんが少し大きな声を出せば、教諭が出てきて口に人差し指を当てた。
「話してもいいけど、アリさんの音量でね」
幼稚園児を相手に仕事をしていたことのある教諭はこうして小声のことを「アリさんの声」と言って説明する。僕と村田さんは揃って頭を下げた。教諭が仕事部屋に消えるとまた村田さんが口を開く。
「私はなんで宮本くんがそんなに自信ないのかわかんないけど、でも自分が思っている以上に宮本くんには価値があるって知ってほしいな。……たとえばね、私一年生の時から宮本くんと仲良くなりたいって思ってたんだ。図書委員ってコラム作るでしょう? それを読んでね、なんて綺麗な言葉を書くんだろうって思ったの。それから宮本くんのことが気になったんだ。だから今年同じクラスで、同じ委員会なの嬉しかった」
思わず涙が出そうになった。
「ということで宮本くん、私と友達になってください!」
村田さんが僕に手を伸ばしてきて、笑いながら僕も村田さんの手を握り返した。
「はい」
涙が溢れていたと思う。
「好きです。付き合ってください!」
その日の帰り、図書当番の仕事を終えた僕は体育館裏を通って校門に向かっていた。図書室がある棟からはこっちを通ったほうが近道だったから。でも、早速後悔している。まさか告白の現場に居合わせるとは思わなかった。慌てて校舎の影に隠れて様子を伺えば、男女が向き合っていた。テニス部の女子と、あれはバスケ部の男子だろうか?
二人の横を通らないと校門にはいけないから、一度図書室の方に戻って遠回りで帰った方がいいかもしれない。回れ右をしようとしたとき、影の向こうで知っている声が返事をしているのが聞こえた。
「好きな人がいるから無理」
告白を受けているのは宮瀬くんだった。
本当はよくないとわかっているけど、好きな人の声に注意を引かれて、また影の中から様子を窺ってしまう。
冷たい宮瀬くんの返事に、相手は一瞬俯いてそれから走っていってしまった。
溌剌とした雰囲気ですごく可愛い子だった。きっと付き合ったらお似合いのカップルになると思うのに、宮瀬くんは断った。……好きな人がいるから。
彼女が去ってすぐ宮瀬くんは体育館に戻っていった。
僕は結局、図書館の方から遠回りして帰った。
心のささ舟が波に揺れて、ひっくり返った。
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