君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

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21 奏視点

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 昼休みに村田さんと図書室に行くと、司書教諭が駆けつけてきて心配してくれた。

「村田さんが夏風邪かと思ったら今度は宮本くんでびっくりしちゃった。大丈夫だった?」
「は、はい。ぼっ僕もこの時期は風邪を、ひっひくので……」

 それよりも当番のことが心配だった。村田さんは昨日復活したら昨日は出たらしいけど、二人ともいなかった火曜の放課後と水曜日はどうしていたのか、ずっと気になっていたのだ。

「ご、ご迷惑をかけて、すすみませんでした。せっ先生、す水曜日は、大丈夫でしたか?」

「水曜日? ああ、二人とも休んでたからね。……問題なかったわよ」

 先生はそういってくれたが、間があったのでまた少し心配になった。二人ともいなかった日に限ってすごく混んで、先生が大変だったなんてことがなかったならいいけど……。

 端の方で村田さんと一緒にお弁当を食べていたら、ちょくちょく生徒がやってきた。普段のこの時期より多い生徒の数だ。

「今日はなんか来る人多いね」

 カウンターに生徒が来るたびに食事を中断して、貸し出しの受付をしていたら村田さんが呟いた。

「宮本くん、こんにゃくゼリーいる? 二つ持ってきたんだ!」

 村田さんが手を出すようにいうので、器の形にして出せば、りんご味のゼリーを置いてくれた。「私たちの復活を祝って、景気付けにね! ゼリーだけどね」

 村田さんはニコニコ笑ってゼリーを頬張った。袋を開けるときに、汁が飛んでしまってもいいように本や資料がない方向に屈み込んで開けていたのを見てつい笑ってしまった。僕も同じように屈み込んでゼリーを開けた。

「すみません」

 二人して勢いよく立ち上がって、カウンターの向こうでした声に振り返る。

「本の貸し出しお願いします」
「はっはい! ご、ごごめんなさい!」

 僕と村田さんは二人してカウンターに急いで、くすくす笑いながら作業をした。

「返却は二週間後の七月〇〇日です」

 村田さんが本を渡す横で僕は壁にかけてあるカレンダーに思わず目を向けた。

 期末テストが迫っていた。




 昼休みが終わって教室に戻ると、教室がざわついていた。将吾のところにいって何かあったのか聞くとどうやら修学旅行の場所と詳細が今日発表されるらしかった。

 五時限目は加藤先生の授業だからその時に知れると、みんなそわそわしているらしい。

「奏はどこがいい?」
「俺はねえ、韓国に行きたいなあ」
「今、奏に聞いてるんだけど」

 将吾と話していたら江川くんが話に入ってきた。将吾の肩に腕を乗せていて、それはとても不思議な光景だった。いつからこんなに仲良くなったんだろう。

「別にいいじゃん。ちなみに俺が韓国に行きたい理由はね、スカウトされたいからですわ」
「へっ?」

「何その声、俺じゃスカウトされないって言いたの? 颯人ならできるって?」
「いや、そうは言ってないな」

 二人のテンポのいい掛け合いに目を丸くしていると、江川くんと一緒に来ていた宮瀬くんが僕のそばに屈み込んで話しかけてくれた。

僕の机を支えにするために置いている両手が揃っていて犬みたいで可愛い。

「それで奏はどこに行きたいとかあるの?」

 普段は遥上にある顔が僕よりも下にあって、珍しく見下ろす形になってしまう。僕が宮瀬くんを見下ろすなんて申し訳ない。……こうやって見上げられるのは恥ずかしい。

「ぼ、僕はどこでもいっいい、かな?」
「そうなの?」

 少し首を傾げて見せる宮瀬くんに、胸がドキドキする。

「み、宮瀬くんは?」
「うーん俺も奏といけるならどこでもいいかも?」

 思わず顔を逸らしてしまった。心臓が激しく弾いて止まってくれない。

「おっじゃあさ、班決めの時は俺たち四人で組むことにしよう」

 江川くんが言って、宮瀬くんが頷いた。将吾は「なんだかうるさそうだな」と笑いながら、江川くんを見た。僕は……嬉しかった。

「約束だからね」
 先生が入ってきたので席に戻る前、宮瀬くんが僕の耳元で囁いた。




 加藤先生は結局授業の時に行き先を発表してくれなかった。みんながどれだけ頼んでも、授業に集中できなくなるから嫌だ、と言って教えなかったのだ。

 五限が終わり、じりじりと六限をやり過ごしてホームルームになると、みんなが一斉に行き先を聞いた。みんなの修学旅行への熱量に僕は正直驚いた。

 中三のとき僕はクラスにあまり仲の良い子がいなかった。班は先生が決めるというので僕は苦ではなかった。

 だけど、みんなは自分たちで決められないことに、もう修学旅行には期待しないといった態度だった。まだ伸びていなかった髪と裸眼で、数人で固まって静かに京都の町を歩いたのを覚えている。

 だからみんなが熱狂的に旅行先に興味を向けているのが不思議でおもしろかった。

「えー行き先はー……ドラムロールしないの?」

 加藤先生が胸を張って発表しようとしたと思ったらそんなことをいうものだから、みんなが一斉に机を打った。

「ダダダダダ、ダン! 行き先はアメリカでーす」

 先生の発表にみんなが一斉に叫んだ。中には立って喜ぶ子もいて本当に不思議な光景だ。

「まじで? すごくね?」
「この円安の時代になんてことだ!」

 そんなふうに男子たちが騒ぐ中、女子たちは仲良い子同士でアイコンタクトを取っていた。中学の時のしんみりとした雰囲気とは全然違う。僕も引っ張られるみたいに高揚してきた。

 先生がプリントを配り、みんなに説明を始めた。

「ロサンゼルスの予定で、飛行機も入れたら八日間行くからな。二日間のホームステイがあるのと、一日、現地の学校との交流会、二日間だけ班別行動を取ってる。……あとは追い追い説明するからとりあえずプリントに目を通しておけ。……では班決めを行います!」

 まさか今日のうちに班を決めるなんて思わなくて、僕は思わずたじろいだ。騒いでいたみんなも一気に静かになって、クラス中を見渡す。

「一つの班にとりあえず四人だからなあ」

 先生が一度手を叩くと、みんなが一斉に立ち上がった。教室中に靴音が響いて僕は目が回りそうになる。自分が出遅れていることに気づくのに数拍かかって、立ち上がった。

 誰と組めばいい? 僕と組んでくれる? どうすればいい? 将吾はどこに行った? 約束は……。

 はやる頭で周りを見渡していると、突然手を掴まれた。驚いて顔を上げれば宮瀬くんがにっこり笑って立っている。

「約束したから同じ班にならなきゃね」

 混乱しながら頷くとそのまま肩を押されて椅子に座らされた。僕が気づかない間に、将吾も江川くんもこっちに来ていたようで、二人も椅子に座っている。

 教室はまだ班決めで忙しくしていた。こんなにスムーズに自分の班のメンバーが決まるなんて中三の時の僕には信じられないだろう。今だって信じられない。

 恐る恐る宮瀬くんの方を覗き見れば、宮瀬くんは機嫌よく鼻歌を歌っていた。

「颯人、宮本と同じ班になれてめっちゃ機嫌いいんだよ」

 横から江川くんが僕に耳打ちして、耳まで赤くなってしまった。
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