君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗

文字の大きさ
25 / 47

24

しおりを挟む
「何も嫌なこと言われてない?」
「えっ?」

 駅までの道、僕たちはずっと黙ったままだった。宮瀬くんは思い詰めたように眉間にしわを寄せていて、なかなか話しかけられる雰囲気ではなかった。もし宮瀬くんがいつもの気さくな感じだったとしても僕から話題を振ることなんてたぶんできなかったと思うけれど。

「ほら、さっきのあいつ」
「あっ、な、何も、言われ、なかったよ」
「そう?」

 宮瀬くんはそれでも疑っているようだった。もっと詳しく僕から聞きたいのだろう。だけどそれは否応なしに僕の吃音に触れることにもなる。たぶん宮瀬くんは気を遣ってこれ以上、聞きたくても聞かないのだ。

「……ぼ、僕のこの、は話し方を陰で、わっ悪く言ったことを……謝ってく、くれたん、だけど……」
「うん」
「ぼ、僕はぜんっ、全然気にしてなくて……だから……そのじ、事実だったし」

 宮瀬くんが立ち止まったので、僕も足を止める。何度か瞬きしたあと、宮瀬くんが口を開いた。

「奏は廊下で話聞いてた?」
「えっ、う、うん」
「そっか。じゃあさ俺が奏の声が好きって言ったのも聞いてた?」

 好きな人と帰っているという状況にもともと顔がほてっていたと思う。それが今、宮瀬くんの放った言葉でより一層、赤く熱くなった。

「聞いてたんだ。ならよかった」
 宮瀬くんが笑った。
「奏の声が綺麗なのも事実だよ」

 沈黙が降った。たぶん僕が何か言わないといけない番だ。だけど言葉が見つからない。宮瀬くんの優しい眼差しや言ってくれる言葉が、僕を包んで思考を停止させるのだ。ただ僕は泣きそうになりながら笑みを返すだけだった。

「……あ、ありがとう」

 最終的に辿り着いたのは感謝の言葉だ。宮瀬くんの言ってくれることに応えるにはあまりにもシンプルだけど宮瀬くんは嬉しそうにして首を降った。

 駅に着く前に、スマホにメッセージが届いた。宮瀬くんに断ってからメッセージを見る。

「母さんからだ」
「何か急用?」
「き、今日は、が外食をしようだって」
「おお!」

 母さんが送ってくれた地図を開く。一度家に帰らずに直接来てほしいということだろう。初めてみる店名に首を傾げてしまう。

「み、宮瀬くんここ知ってる?」

 スマホを渡すと宮瀬くんはしばらく地図を見てから「ああ」と言って顔を上げた。

「俺の最寄り駅の近くだ」
「ほ、ほんと?」
 宮瀬くんと僕とは電車の方面が一緒だ。だから、家に帰るための電車に乗っていれば大丈夫だろう。途中下車すればいい。

「心配なら店まで送ってくよ」
「そっそれは、も、申し訳ない、です」

 なんで敬語、と笑いながら宮瀬くんは大丈夫、大丈夫と繰り返した。
「俺の家もそっち方面だからさ、送らせてよ」

 結局甘えることにして、僕は宮瀬くんの最寄り駅で降りた。改札を出ると見知った顔がこっちに手を振っていた。

「かーなーでー!」
「あれ? 奏のお母さんだね?」

 母さんは額に手を当てて、遠くを見るポーズをしたかと思うとこっちに走ってきた。

「宮瀬くん、先日はありがとうね!」
「いえ」

 僕が熱を出した時に二人は会っている。まったく人見知りしない母さんは、同じく人見知りなど知らなそうな宮瀬くんにニコニコと笑顔を浮かべた。

「宮瀬くんは家ここら辺なの?」
「はい。ここから歩いて二十分くらいです」
「そう? 夕食は?」
「これから作ります」

「作る? 宮瀬くんが作るの? 親御さんはご不在?」
「親は今海外に住んでて……」

「あら! じゃあ一緒に夕飯食べましょうよ! その方が宮瀬くんも楽でしょ。私も宮瀬くんがいたら楽しいし。奏の姉二人も大喜びよ!」

 二人のスピード感のある会話に耳を傾けるのに必死になっていると、いつの間にか宮瀬くんも一緒に夕食を食べる流れになっていた。正確にはまだ宮瀬くんは返事をしていないけれど、母さんがこんなに乗り気なら、いくら宮瀬くんでも逃げられないと思った。

 宮瀬くんはしばらく考えてから頭を下げた。
「お邪魔でなかったら」
「やったー! レッツゴー!」

 母さんがスキップでもしそうな勢いで歩き出して、僕はなんだか宮瀬くんに申し訳なくなりながらその後ろに続いた。だけど仰ぎ見た宮瀬くんはすごく楽しそうに笑っていた。




 店に着くとそこには薫姉さんと楓姉さんしかいなかった。
「あれ? 父さんは?」
「お父さんはトイレだよ」
 薫姉さんが店の方を指さして教えてくれた。

「そんなことより! 宮瀬くんですよね? わあかっこいい!」

 楓姉さんは父さんのことなんてどうでもいいでしょと言いたげに手を振って、ぐいっと僕たちと距離を詰めると、宮瀬くんを見上げた。

 僕の家族はみんな社交的だ。初対面とは思えない気さくさで宮瀬くんと話し始めた女性陣に僕は、手持ち無沙汰になって、店の前に置かれていた受付リストに目を向けた。

 宮本 六人

 母さんが事前にメッセージを送っておいたのだろう。人数は宮瀬くんを入れた六人になっていた。なんだか気持ちがモゾモゾした。

 みんなの方に視線を戻すと、宮瀬くんと対面してからずっと騒いでいる姉さんたちに、宮瀬くんは愛想のいい笑顔を浮かべていた。生まれてから何度も聞いてきただろう賛美を謙虚に受け止めながら、三人を褒める宮瀬くんのスマートな対応に驚きが隠せない。

 宮瀬くんは本当にすごい。

 僕はどうすればいいかわからなかった。こんなふうに僕の家族と学校の知り合いが対面する機会は僕の人生にはあまりなかった。小学生の時の何人かか、将吾くらいだと思う。だから、なんだかそわそわした。

 だけど考えてみたら、僕の今感じている緊張感はきっと、好きな人と大切な家族が一緒にいるという不思議な状況のせいなのかもしれない。

「宮本さま」
 店員が顔を出し、僕たちは店に入った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

二人の悪魔は天使を閉じ込めたい

ユーリ
BL
二人の悪魔は神によって創造されたばかりの天使を拾った。最初は単なる一目惚れだったが、何も知らない純粋無垢な天使にどんどん入れ込み始め…次第に閉じ込めたいと考えるようになる。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

妹の身代りに生け贄にされたんだけどガチでマジ恋しちゃいました~世界にただ1人の男Ωは、邪神の激愛に絆される~

トモモト ヨシユキ
BL
邪神の生け贄になることが決まった妹王女の身代わりになるように命じられた不遇な王子は、Ωになるという秘薬を飲まされて邪神の洞に落とされる。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...