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番外編
番外編2. 駿の疲労(上)
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『駿、それで相談なんだけど……』
『何?』
颯人が相談したいという場合はたいていどうでもいいことだ。こいつは大切な決断は結局自分で決めているし、そのまま突っ走る。実際、俺に恋愛相談していたくせに気づいたら、告白までしていたくらいだから、こいつの相談なんてたいした相談じゃないはずだ。
『奏、いつまで経っても俺のこと下の名前で呼んでくれないんだよ。やっと付き合い出せたのに』
『えっ待って、切っていい?』
ほらどうでもいいことだった。ベッドから頭だけ上げて確認した時計はもう、十二時になりそうだ。こいつこんなことでこの時間に電話したのかよ。
『普通に話聞けよ』
『なんで颯人がちょっとキレるの?』
夏休みに入ってから、部活三昧だ。学校があるときとは違って、毎日無条件で宮本に会えるわけではないから最近の颯人は目に見えて、元気がなかった。というより宮本と付き合い始めてから、キャラ崩壊のように明るく花を飛ばしていた颯人が、宮本に出会う前以上に枯れていたのだ。
部活が休みのお盆に会うことを提案したら、宮本の父方の実家が地方にあるらしく、お盆の期間は丸々帰省でいないらしかった。
そして、颯人にとってはやっと終わったお盆の最終日、こうして颯人は電話してきたのだ。
『それでさ、今日の夕方にお土産持って奏がうちに来てくれたんだよ』
颯人はどうやら話を続ける気みたいだった。だから俺もとりあえず相槌を打っておいた。
『最近は付き合いたてで浮ついてたから全然気にならなかったんだけど、久しぶりに会ったら、そういえば奏、俺のことまだ苗字で呼んでるなって気づいたわけで……。どうしたら下の名前で呼んでくれると思う?』
『まず浮ついてるって自覚してくれててよかったわ。……そうだなあ、俺にいい考えがあるんだけど』
颯人の下の名前で呼んでもらいたいという欲求と、俺の夏休み部活だけで終わりたくないという気持ちを掛けたらいいアイデアを思いついた。
『俺が日程を組むから、颯人はとりあえず花火セット二、三個買っておいて。絶対線香花火が入ってるやつ! じゃ、明日も部活だしもう寝るわ』
勝手に電話を切って、そのまま将吾に空いている日がないかメッセージを送った。
――ちなみに、宮本にも空いてる日聞いて、合わせておいてくれる?
そうして迎えた今日、夏休み最後の週も終わりそうだ。聞けば、お盆最終日から颯人は一度も宮本に会えていなかったらしい。可哀想な話だ。
会場は宮本家になった。
本当は颯人の家でやるつもりでいたのだが、玄関のアプローチで男四人が手持ち花火をするのは少し気まずいのでどうしようか悩んでいた。俺の家だと妹が、やりたいやりたいと騒いで、花火の目的を壊すだろうし、将吾の家も年の離れた兄弟がいるから同じような状況になるだろう。
じゃあ宮本の家はどうかとお願いしてみた。宮本が親に確認したら、保護者のいない家で花火をするのはあまり良くないから、むしろ我が家の庭でやるように言われたらしい。
俺は宮本家の場所を知らないから一度颯人のところに寄った。シャツにジーンズの颯人に、夏へのやる気を感じなかった。俺はもちろん甚平を着ている。
「ちゃんと花火持った?」
「鞄に入ってるけど、これと下の名前で呼んでもらうのなんか関係あんの? 駿が遊びたいだ――」
「いいや、関係ありますよ」
宮本家の玄関前で、宮本と将吾が待っていた。
宮本は紺の浴衣姿だ。
「……なんで」
「俺が宮本に浴衣か甚平でやろうってメッセージした」
「いやなんで俺には言わないの?」
「普通にサプライズ?」
颯人が宮本の浴衣を知らなかったように、宮本も颯人の私服を知らない。どういうことかと驚いた顔を宮本が俺に向けてきた。
宮本に浴衣でやろうと言ったのは単純に、浴衣の宮本を見て颯人がどんな顔をするか見たかったからだ。案の定、宮本を見て颯人は、ニコニコと目を細めていた。
「でもなんで将吾も甚平着てるわけ?」
「……奏のお父さんが貸してくれたんだよ」
宮本の後ろで腕を組んでいる将吾も俺と似た色の甚平を着ていた。
「ふーん。じゃ、早速やろうか!」
宮本家に入ると、綺麗な顔の男女が出てきて、なるほど両親だとわかった。挨拶をしたら、今度は宮本にまったく似ていない気さくさでハグをされた。
「バグが起きる」
「俺も始めて奏の家来たときバグったよ」
将吾が横で笑うなか、せっせと自分の下駄を持って、宮本が消えた。颯人が後に続いていこうとすると、途中でお父さんに腕を掴まれた。
「颯人くん、甚平あるよ」
なんでそんなに甚平を持っているのか謎だ。その疑問が顔に出ていたのだろう。近くに立っていた宮本のお母さんが教えてくれた。
「夏祭りで甚平着てる屋台のおじさんがかっこよく見えるって言って、一時期着るのにハマってたのよ」
なんだかこのイケオジのお父さんは見かけによらずおもしろい人なんだということはわかった。二階に消えた颯人はグレーの甚平を着て、戻ってきた。先に庭に出ていた宮本は、甚平になった颯人を見て、わかりやすく顔を背けた。
『何?』
颯人が相談したいという場合はたいていどうでもいいことだ。こいつは大切な決断は結局自分で決めているし、そのまま突っ走る。実際、俺に恋愛相談していたくせに気づいたら、告白までしていたくらいだから、こいつの相談なんてたいした相談じゃないはずだ。
『奏、いつまで経っても俺のこと下の名前で呼んでくれないんだよ。やっと付き合い出せたのに』
『えっ待って、切っていい?』
ほらどうでもいいことだった。ベッドから頭だけ上げて確認した時計はもう、十二時になりそうだ。こいつこんなことでこの時間に電話したのかよ。
『普通に話聞けよ』
『なんで颯人がちょっとキレるの?』
夏休みに入ってから、部活三昧だ。学校があるときとは違って、毎日無条件で宮本に会えるわけではないから最近の颯人は目に見えて、元気がなかった。というより宮本と付き合い始めてから、キャラ崩壊のように明るく花を飛ばしていた颯人が、宮本に出会う前以上に枯れていたのだ。
部活が休みのお盆に会うことを提案したら、宮本の父方の実家が地方にあるらしく、お盆の期間は丸々帰省でいないらしかった。
そして、颯人にとってはやっと終わったお盆の最終日、こうして颯人は電話してきたのだ。
『それでさ、今日の夕方にお土産持って奏がうちに来てくれたんだよ』
颯人はどうやら話を続ける気みたいだった。だから俺もとりあえず相槌を打っておいた。
『最近は付き合いたてで浮ついてたから全然気にならなかったんだけど、久しぶりに会ったら、そういえば奏、俺のことまだ苗字で呼んでるなって気づいたわけで……。どうしたら下の名前で呼んでくれると思う?』
『まず浮ついてるって自覚してくれててよかったわ。……そうだなあ、俺にいい考えがあるんだけど』
颯人の下の名前で呼んでもらいたいという欲求と、俺の夏休み部活だけで終わりたくないという気持ちを掛けたらいいアイデアを思いついた。
『俺が日程を組むから、颯人はとりあえず花火セット二、三個買っておいて。絶対線香花火が入ってるやつ! じゃ、明日も部活だしもう寝るわ』
勝手に電話を切って、そのまま将吾に空いている日がないかメッセージを送った。
――ちなみに、宮本にも空いてる日聞いて、合わせておいてくれる?
そうして迎えた今日、夏休み最後の週も終わりそうだ。聞けば、お盆最終日から颯人は一度も宮本に会えていなかったらしい。可哀想な話だ。
会場は宮本家になった。
本当は颯人の家でやるつもりでいたのだが、玄関のアプローチで男四人が手持ち花火をするのは少し気まずいのでどうしようか悩んでいた。俺の家だと妹が、やりたいやりたいと騒いで、花火の目的を壊すだろうし、将吾の家も年の離れた兄弟がいるから同じような状況になるだろう。
じゃあ宮本の家はどうかとお願いしてみた。宮本が親に確認したら、保護者のいない家で花火をするのはあまり良くないから、むしろ我が家の庭でやるように言われたらしい。
俺は宮本家の場所を知らないから一度颯人のところに寄った。シャツにジーンズの颯人に、夏へのやる気を感じなかった。俺はもちろん甚平を着ている。
「ちゃんと花火持った?」
「鞄に入ってるけど、これと下の名前で呼んでもらうのなんか関係あんの? 駿が遊びたいだ――」
「いいや、関係ありますよ」
宮本家の玄関前で、宮本と将吾が待っていた。
宮本は紺の浴衣姿だ。
「……なんで」
「俺が宮本に浴衣か甚平でやろうってメッセージした」
「いやなんで俺には言わないの?」
「普通にサプライズ?」
颯人が宮本の浴衣を知らなかったように、宮本も颯人の私服を知らない。どういうことかと驚いた顔を宮本が俺に向けてきた。
宮本に浴衣でやろうと言ったのは単純に、浴衣の宮本を見て颯人がどんな顔をするか見たかったからだ。案の定、宮本を見て颯人は、ニコニコと目を細めていた。
「でもなんで将吾も甚平着てるわけ?」
「……奏のお父さんが貸してくれたんだよ」
宮本の後ろで腕を組んでいる将吾も俺と似た色の甚平を着ていた。
「ふーん。じゃ、早速やろうか!」
宮本家に入ると、綺麗な顔の男女が出てきて、なるほど両親だとわかった。挨拶をしたら、今度は宮本にまったく似ていない気さくさでハグをされた。
「バグが起きる」
「俺も始めて奏の家来たときバグったよ」
将吾が横で笑うなか、せっせと自分の下駄を持って、宮本が消えた。颯人が後に続いていこうとすると、途中でお父さんに腕を掴まれた。
「颯人くん、甚平あるよ」
なんでそんなに甚平を持っているのか謎だ。その疑問が顔に出ていたのだろう。近くに立っていた宮本のお母さんが教えてくれた。
「夏祭りで甚平着てる屋台のおじさんがかっこよく見えるって言って、一時期着るのにハマってたのよ」
なんだかこのイケオジのお父さんは見かけによらずおもしろい人なんだということはわかった。二階に消えた颯人はグレーの甚平を着て、戻ってきた。先に庭に出ていた宮本は、甚平になった颯人を見て、わかりやすく顔を背けた。
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