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一 皇子ヴァルフリードについて
閑話 血だらけ殿下
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──血だらけ殿下。
敵国の人間は、ヴァルフリードをそう呼んだ。きっかけはなんだったか。その日は確か、十六で初陣してからさほど経っていないときのことだ。髪まで返り血まみれになりながら敵陣を単騎で突破し、敵将の首級を五つは検分台に並べてみせた。
敵に流れた噂はこうだ──男娼のような貌に、緋色の髪は血で染め上げたよう。血まみれの穢れた皇子であると。
物心ついたときから、大公となる皇弟の息子として剣を握っていた。己を一振りの剣と捧げ、皇帝陛下の帝国を守護せよ。帝国に仇なす敵は打ち払え。
命じられるがままに、人を殺し、国を滅ぼした。それは、己を認めてほしかった一心だったかもしれない。己の汚い自己顕示欲のためだけに、人も国も死に絶えた。
そも、自分は人間としては育てられなかったように思うのだ。妾腹だったのだから。母は、自分と同じ緋色の髪の持ち主で、美しい人だったそうだ。だが、父の愛妾だった。美貌で、愛妾になった。
むろん、正妻からはひどく疎まれた。正妻より愛妾が先に男児を産むというのは、古今東西、禍根の種になる。正妻はヴァルフリードの生まれた五年後に弟イザークを産んだ。だから、イザークとは腹違いの兄弟だ。
皇弟であり大公であった父は、愛妾の子であるヴァルフリードを最初から大公にさせる気でいた。それは、愛情からだったとは、ヴァルフリードにはどうしても思えないのだ。
皇帝の軍を預かる総指揮官としての任を務める大公は、むろん、帝国の剣そのものだ。父は、日頃から戦場にあった。自分の判断一つで敵を殺し、味方を死なす。そういう生き方を、あるいは、父は弟イザークにさせたくなかったのではないか……。
そう穿った考え方を、ときどきしてしまうのだ。正妻の子は生かし、いつ死んでもよい愛妾の子は戦場に放り投げておけばよい。勝手に死ぬから。
だから、大公を引退した父が、新皇帝に即位するという手紙を送ってよこしたときに、ヴァルフリードは、いっそう落胆した。いや、別に父へ期待していたわけではないのだ。ただ、「皇太子をヴァルフリードとする」と書いてあった文言を目にするなり、やはり父は、愛妾の子である自分を憎んでいるのだと再確認させられただけだ。
皇帝という暗殺されかねない面倒な責務。それを、おまえにもやれ、と言っているのだ。弟を庇え。弟をおまえの身を挺して生かせ。おまえは弟を生かすための駒なのだ。
そのようなわけで、妻の選定くらいは好きにさせてほしかったのだ。手紙にはこう添えられていた。
──帝国に帰還したら、皇太子妃にふさわしい女性を選べ。
それが、アウローラを指していないことくらいは、分かっていた。だから、「彼女を人質から逃がせば皇太子失格となる」と淡い期待を抱いたのだ。
(だが、きみは、おれの元に戻ってきてしまった……)
なぜだ。なぜ、人質でいようとする。おれの子を孕んでいるかもしれないというのに。もしそうなら、おれに隠れて密かに産み育て、その子を帝国とは全く関係のない世界で幸せにしてあげてほしかった。
だが、もう、それは叶わない。アウローラは、帝国の柵と生涯関わることを選んでしまった。
(なぜなのだ……)
問うたところで、きみはきっと、正直に答えてはくれないだろう。
♢
ヴァルフリードは、ガタン、という馬車の揺れで、ついと目を覚ました。
「……お目覚めですか」
向かいの席にはアウローラが同乗している。
「まあ、本質的には、目覚めていないかもな。深い霧の中を、手探りで進んでいる……」
「は……?」
アウローラが、きょとんと菫色の目をまばたきさせた。
「いや、なんでもない。妄言だ」
「仮にも皇太子が昼から妄言とは、帝国が危うくございますわね」
「その通りかもな」
アウローラには、正直、皇太子妃を失格になって、レンゼルで生きていてほしい。そのためには、彼女は愛してはならないことを痛いほど分かっていた。
「アウローラ」
「なんでしょう」
「きみを愛するべきではないのかもしれない」
「は、はあ」
アウローラが不思議そうな顔をしているものだから、ふふ、とヴァルフリードは苦笑をこぼしてしまった。
「それでも、きみを愛そうと思う」
そう言えば、「え?」とアウローラは目を丸くして口をぽかんと開ける。
「ですから、そんな回りくどいことをなさらなくても、私は逃げたりしませんので」
「逃げてほしいなあ」
と、冗談すら言ってしまえば、アウローラはいよいよ困惑するように眉間に皺を寄せた。その困った表情が可愛らしくて、また笑みをこぼしてしまう。
「一体なんです? 今日のあなたは、少し気味悪いですわ」
「嫌ってくれると、助かるのだが」
「……そんなことは、いたしませんが」
「そうか、よかった」
その日の夕刻には、馬車は宿場町の外れで停められて、小さな野営が設けられた。皇子一行の馬車とはいえ、いたずらに目立って襲撃されぬよう、道中は簡素なものだった。
「これ、私が焼いたパンです。無発酵の簡単なものですが」
「や、ありがとう」
アウローラが木皿に載せて差し出した薄パンを、ヴァルフリードは手掴みで受け取った。千切って一口運ぶ。
「素朴だ。うまい」
パンを噛みしめるたび、小麦の香ばしい風味が口の中を麦畑のようにした。
「ありがとうございます」
アウローラは目礼する。
「このパンは、きみみたいだな」
途端に、アウローラは訝しむように片眉を跳ね上げる。
「それ、褒めています?」
「ああ、褒めているとも」
「おそれながら、どこが」
ヴァルフリードは、パンを味わうように目をつぶりながら、答える。
「飾りっけがなくて、分かりやすくて、素の味がする……」
「だから、それ、褒めていませんよね」
「いや、褒めている」
ヴァルフリードは、補足するように、こうも言った。
「帝宮の人間は、飾り立てるばかりで中身が少しもない。きみとは、まったく違う」
「ふうん、そうですか」
「少し、耳が赤いが。……夜気に冷えたか?」
「違いますっ!」
肩を寄せてあたためてやろうと思ったが、つい先日のことが頭によぎり、やはりやめようと考え直す。
(王女を籠絡するなど、これでは男娼そのものではないか)
誇りある帝国貴族とはいえ、一枚岩ではない。手を結ぶ者もいれば、対立する者もいる。派閥があり、それに属し、自分の立場を盤石にする。その中には当然、ヴァルフリードを目の敵にする者もいた。
帝国には現在、三人の皇太子候補がいる。すなわち、次代皇帝ジルヴァンの嫡子ヴァルフリード、次男イザーク、そして退位する皇帝フィリベルトの一人娘である皇女アガーテである。
帝国の皇位継承は男女平等に権利があり、誕生した順に皇位継承位が決まる。本来であればアガーテ皇女がフィリベルトの娘としてそのまま女帝と即位するはずであったのだが、フィリベルトの譲位が決まり、やや予定が狂った。アガーテより二歳年長であるヴァルフリード皇子に継承順が優先されたのだ。
したがって、アガーテ皇女を女帝と仰ぎたがった一部の派閥には著しい反発を招いた。こうして、ヴァルフリードの敵は増えたのである。
当然の帰結として、今回のレンゼル併合はヴァルフリードの即位体制を強固にするための意図が裏では存在した。それゆえ、レンゼル元王女アウローラとヴァルフリード皇子の婚姻は、それの最たる象徴のようなものだった。
(彼女は……王女アウローラは、おれの即位のための道具ではない)
彼女を道具しないためには、どうする。
野営の天幕の中、眠ることも叶わず考え込んでいたヴァルフリードに、一つの天啓にも似たとある閃きが降ってきたのである。
──ならば、おれが道具として、男娼として生きればよい。
天幕の外に出て、ふり仰いでみれば、いつの間にか、夜空のヴェールに金砂銀砂を散らしたような満天の星がさんざめいていた。
敵国の人間は、ヴァルフリードをそう呼んだ。きっかけはなんだったか。その日は確か、十六で初陣してからさほど経っていないときのことだ。髪まで返り血まみれになりながら敵陣を単騎で突破し、敵将の首級を五つは検分台に並べてみせた。
敵に流れた噂はこうだ──男娼のような貌に、緋色の髪は血で染め上げたよう。血まみれの穢れた皇子であると。
物心ついたときから、大公となる皇弟の息子として剣を握っていた。己を一振りの剣と捧げ、皇帝陛下の帝国を守護せよ。帝国に仇なす敵は打ち払え。
命じられるがままに、人を殺し、国を滅ぼした。それは、己を認めてほしかった一心だったかもしれない。己の汚い自己顕示欲のためだけに、人も国も死に絶えた。
そも、自分は人間としては育てられなかったように思うのだ。妾腹だったのだから。母は、自分と同じ緋色の髪の持ち主で、美しい人だったそうだ。だが、父の愛妾だった。美貌で、愛妾になった。
むろん、正妻からはひどく疎まれた。正妻より愛妾が先に男児を産むというのは、古今東西、禍根の種になる。正妻はヴァルフリードの生まれた五年後に弟イザークを産んだ。だから、イザークとは腹違いの兄弟だ。
皇弟であり大公であった父は、愛妾の子であるヴァルフリードを最初から大公にさせる気でいた。それは、愛情からだったとは、ヴァルフリードにはどうしても思えないのだ。
皇帝の軍を預かる総指揮官としての任を務める大公は、むろん、帝国の剣そのものだ。父は、日頃から戦場にあった。自分の判断一つで敵を殺し、味方を死なす。そういう生き方を、あるいは、父は弟イザークにさせたくなかったのではないか……。
そう穿った考え方を、ときどきしてしまうのだ。正妻の子は生かし、いつ死んでもよい愛妾の子は戦場に放り投げておけばよい。勝手に死ぬから。
だから、大公を引退した父が、新皇帝に即位するという手紙を送ってよこしたときに、ヴァルフリードは、いっそう落胆した。いや、別に父へ期待していたわけではないのだ。ただ、「皇太子をヴァルフリードとする」と書いてあった文言を目にするなり、やはり父は、愛妾の子である自分を憎んでいるのだと再確認させられただけだ。
皇帝という暗殺されかねない面倒な責務。それを、おまえにもやれ、と言っているのだ。弟を庇え。弟をおまえの身を挺して生かせ。おまえは弟を生かすための駒なのだ。
そのようなわけで、妻の選定くらいは好きにさせてほしかったのだ。手紙にはこう添えられていた。
──帝国に帰還したら、皇太子妃にふさわしい女性を選べ。
それが、アウローラを指していないことくらいは、分かっていた。だから、「彼女を人質から逃がせば皇太子失格となる」と淡い期待を抱いたのだ。
(だが、きみは、おれの元に戻ってきてしまった……)
なぜだ。なぜ、人質でいようとする。おれの子を孕んでいるかもしれないというのに。もしそうなら、おれに隠れて密かに産み育て、その子を帝国とは全く関係のない世界で幸せにしてあげてほしかった。
だが、もう、それは叶わない。アウローラは、帝国の柵と生涯関わることを選んでしまった。
(なぜなのだ……)
問うたところで、きみはきっと、正直に答えてはくれないだろう。
♢
ヴァルフリードは、ガタン、という馬車の揺れで、ついと目を覚ました。
「……お目覚めですか」
向かいの席にはアウローラが同乗している。
「まあ、本質的には、目覚めていないかもな。深い霧の中を、手探りで進んでいる……」
「は……?」
アウローラが、きょとんと菫色の目をまばたきさせた。
「いや、なんでもない。妄言だ」
「仮にも皇太子が昼から妄言とは、帝国が危うくございますわね」
「その通りかもな」
アウローラには、正直、皇太子妃を失格になって、レンゼルで生きていてほしい。そのためには、彼女は愛してはならないことを痛いほど分かっていた。
「アウローラ」
「なんでしょう」
「きみを愛するべきではないのかもしれない」
「は、はあ」
アウローラが不思議そうな顔をしているものだから、ふふ、とヴァルフリードは苦笑をこぼしてしまった。
「それでも、きみを愛そうと思う」
そう言えば、「え?」とアウローラは目を丸くして口をぽかんと開ける。
「ですから、そんな回りくどいことをなさらなくても、私は逃げたりしませんので」
「逃げてほしいなあ」
と、冗談すら言ってしまえば、アウローラはいよいよ困惑するように眉間に皺を寄せた。その困った表情が可愛らしくて、また笑みをこぼしてしまう。
「一体なんです? 今日のあなたは、少し気味悪いですわ」
「嫌ってくれると、助かるのだが」
「……そんなことは、いたしませんが」
「そうか、よかった」
その日の夕刻には、馬車は宿場町の外れで停められて、小さな野営が設けられた。皇子一行の馬車とはいえ、いたずらに目立って襲撃されぬよう、道中は簡素なものだった。
「これ、私が焼いたパンです。無発酵の簡単なものですが」
「や、ありがとう」
アウローラが木皿に載せて差し出した薄パンを、ヴァルフリードは手掴みで受け取った。千切って一口運ぶ。
「素朴だ。うまい」
パンを噛みしめるたび、小麦の香ばしい風味が口の中を麦畑のようにした。
「ありがとうございます」
アウローラは目礼する。
「このパンは、きみみたいだな」
途端に、アウローラは訝しむように片眉を跳ね上げる。
「それ、褒めています?」
「ああ、褒めているとも」
「おそれながら、どこが」
ヴァルフリードは、パンを味わうように目をつぶりながら、答える。
「飾りっけがなくて、分かりやすくて、素の味がする……」
「だから、それ、褒めていませんよね」
「いや、褒めている」
ヴァルフリードは、補足するように、こうも言った。
「帝宮の人間は、飾り立てるばかりで中身が少しもない。きみとは、まったく違う」
「ふうん、そうですか」
「少し、耳が赤いが。……夜気に冷えたか?」
「違いますっ!」
肩を寄せてあたためてやろうと思ったが、つい先日のことが頭によぎり、やはりやめようと考え直す。
(王女を籠絡するなど、これでは男娼そのものではないか)
誇りある帝国貴族とはいえ、一枚岩ではない。手を結ぶ者もいれば、対立する者もいる。派閥があり、それに属し、自分の立場を盤石にする。その中には当然、ヴァルフリードを目の敵にする者もいた。
帝国には現在、三人の皇太子候補がいる。すなわち、次代皇帝ジルヴァンの嫡子ヴァルフリード、次男イザーク、そして退位する皇帝フィリベルトの一人娘である皇女アガーテである。
帝国の皇位継承は男女平等に権利があり、誕生した順に皇位継承位が決まる。本来であればアガーテ皇女がフィリベルトの娘としてそのまま女帝と即位するはずであったのだが、フィリベルトの譲位が決まり、やや予定が狂った。アガーテより二歳年長であるヴァルフリード皇子に継承順が優先されたのだ。
したがって、アガーテ皇女を女帝と仰ぎたがった一部の派閥には著しい反発を招いた。こうして、ヴァルフリードの敵は増えたのである。
当然の帰結として、今回のレンゼル併合はヴァルフリードの即位体制を強固にするための意図が裏では存在した。それゆえ、レンゼル元王女アウローラとヴァルフリード皇子の婚姻は、それの最たる象徴のようなものだった。
(彼女は……王女アウローラは、おれの即位のための道具ではない)
彼女を道具しないためには、どうする。
野営の天幕の中、眠ることも叶わず考え込んでいたヴァルフリードに、一つの天啓にも似たとある閃きが降ってきたのである。
──ならば、おれが道具として、男娼として生きればよい。
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