神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花

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正編 第1章 追放、そして隣国へ

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 草木も眠る丑三つ時とは、東方に伝わる夜中を示す言葉だったか。ぼんやりとそんなことを思考しながら、精霊都市国家アスガイアの神一族であるラルドの分霊は、久しぶりに自宅であったはずのアスガイア神殿を訪れた。
 ラルドの本霊は既に隣国ペルキセウスに移動済みだが、万が一の時に備えて意識体として活動するための分霊は祖国に残しておいたのだ。

 真っ暗な神殿内部は、予備の灯りが僅かな道標となっていて、慣れない者にとっては迷宮のような状態。分霊がそっと息を潜めて目的の場所を目指すと、見張り役の衛兵が物音に気づき足を止めた。

『おいっ。この辺りで何か異変があったか?』
『まさか。こんな人の気配のない場所、見張り以外は寄り付きもしませんよ。それとも、上官も例のあれ……見かけたんですか? 最近噂の、悪魔像の化け物』
『馬鹿なことを言うなっ。おおかた、王妃候補変更で荒れているであろう我が国を探ろうとしている輩が人払いに立てた嘘の話だよ』

 そんな会話をしながら、次の見回りポイントへと移動していった。いつもの巡回ルートを使うのであれば、しばらく彼らに遭遇することはないだろう。ホッとして、ラルドの分霊は再び歩く足を進める。

(僕の勘が正しければ、トーラス王太子が閉じ込められている悪魔像は地下の秘密礼拝堂に飾られているはずだ。本霊が読んだ彼からの手紙には、秘密礼拝堂にしかない旧王家の刻印が記された便箋が使用されていた。きっと、その場所から自動書記魔法を使ったのだろう)

 最近までこの神殿を根城にしていたレティアは王妃候補になれたことに油断しているのか、拠点を王宮に変更してしまった。
 なんの抵抗の気配も見せなかったトーラス王太子の魂の管理を、蔑ろにしているようだ。
 息を潜めて、地下への階段を降りると……礼拝堂には不自然な悪魔像の姿。しかし、そこに内包されている魂は、本来であればこの国の玉座に座る予定だったはずのもので。

「ようやく、見つけた……!」


 * * *


 昏い昏い、悪魔像の内部は贅沢に溺れ苦労知らずのトーラス王太子には、地獄のような空間だった。悪魔像に取り憑かれた聖女レティアが、生け贄のターゲットに選んだのがよりによって自分だったのだから、トーラス王太子としてはたまったものではなかった。

『レティアのヤツ、まさか自分の魂を捧げるんじゃなくてオレの方を狙うとは図々しい女だ。いや、あの狂気の目は知らず知らずに魂を売っているのか? しかし、あの惨劇からよく助かったものだ。いや、閉じ込められているから無事とはいえないか……』
「像の中に閉じ込められて寂しいのは分かるけど、独り言は危険だから辞めたほうがいいよ。ほら、神殿って意外といろんな霊魂が潜入したりしてるしさ」
『だっ……誰だっ? お前は……この状態のオレの声が聴こえるなんて、人間って訳じゃなさそうだが』

 一人でブツブツと愚痴をこぼすトーラス王太子に対して、ラルドの分霊は嫌味混じりにアドバイスをする。悪魔像に内蔵されている魂という稀有な状況下での独り言を拾えるものなんて、人間ならば高位レベルの神官か魔導師だ。どうやらトーラス王太子は、最初からラルドの分霊を人ではない何かとして感じ取ったらしい。

(まぁ無理もないか。本霊ラルドならともかく魂を分けた分霊のラルドでは、人間に擬態するチカラが落ちてしまっているのだろう)

「あはは……そんなに警戒しないでおくれ。僕は、このアスガイア神殿を統括する精霊神一族のラルド……の分霊だよ。キミたちが厄介払いで追放した運営者たちの一部分的な存在だ」
『精霊神一族の分霊……。この神殿、すっかりレティアに乗っ取られたと思い込んでいたけど、実はまだ分霊体を残していたのか。申し訳ない……オレがレティアにすっかり騙されたばかりに。はっ……わざわざ来てくれたってことは、精霊神様がオレ……いえ私を助けに来てくれたってことですよねっ?』

 最初は警戒していたのだろうがこのアスガイア神殿の精霊神分霊だと分かると、トーラス王太子は安心した様子でラルドの分霊に助けを求めてきた。


「えぇと。非常に言いにくいんだが、分霊には使える霊力に限界があってね。いわば夢の中から魂だけを浮遊させて、遠隔操作しているようなもの。おいそれと助けてあげることは出来ないし……って言うか。既にキミのことは、洗礼時の加護を使って救済している設定だから。これ以上は、条件を足さないと」
『洗礼時の加護? あぁ王家が受ける誕生した時の加護の洗礼か。もしかして、悪魔像に閉じ込められているのに多少自由が効くのは、その加護のおかげということか」

 自身が悪魔像の中からでも自動書紀魔法を使えたのは、幼い頃に王家の儀式で受けた加護洗礼のお陰だと気がつく王太子。
 だが、加護洗礼のチカラはそこまでで、彼が助かるのはかなり難しい状況なのだが。やる気を失い利用価値が消えても困るため、なるべく希望を持たせるように誘導してみることに。

「ご名答、バカ王子扱いされていたけどやれば出来るじゃないか。いや、キミは騙されやすくて上辺を繕いたい願望が強い性格なだけで、成績自体は優秀だったんだっけ。うーん、キミの働き次第では……考えてあげてもいいけど」
『ずっ……随分な言われようだな。しかし、今の惨状を見たらオレが騙されやすいバカ王子だって言われるのも無理ないか。いや、その辺のバカ王子だってここまでの目には遭わないはずだ。やはり、レティアが悪い! まぁそれはそうと、オレの働き次第では本霊経由で助けて貰えるんですか?』
「うん。本霊やアメリアさんならどうにか出来るかもね。けれど、それには条件がある……」

 良くも悪くも騙されやすいバカ王子なだけあって、上手く話に乗ってくれそうだ。けれど自分が悪い霊ではないから、トーラス王太子は大丈夫なだけで。これが変な悪霊だったら、もっと酷いことになっていたはず……とラルドの分霊は頭を痛める。

『条件……この状態で条件って言われても、出来ることは自動書記魔法で手紙を書くことくらいしか……』
「それでいい、キミは本霊のラルドや元婚約のアメリアさんにたくさんの悪いことをした。まずは罪を償い反省を見せなくては、肉体に復帰どころか今後の国の状況によっては地獄行きだよ」
『今でも地獄の中にいるようなものだけど……分かったよ。それで、条件とは?』

 一瞬、沈黙が生まれてそれから分霊ラルドが神特有の落ち着いた低い声で、告げた。

「汝、我の眷属となれ。ならなければ……死あるのみ」
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