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正編 第1章 追放、そして隣国へ
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しおりを挟むジリリリリ、ジリリリリ……!
「うーん、もうちょっと寝させて……」
朝特有のひんやりとした空気。ぬくぬくとした布団の中は心地よく、鳴り響く目覚まし時計のアラームを停止して再び夢の中へ。
連日のギルドクエストで、だいぶ疲れが溜まっていたアメリアだったが、今日は久々のお休み。ようやく慣れてきたギルド女子寄宿舎の個室で、ゆったりとした午前を過ごす予定だった。
――とある生き物が、アメリアの個室の窓をその嘴でつつくまでは。
コツコツコツ! コツコツコツ!
目覚まし時計とは違うリズムの謎の音声に、アメリアの睡眠は再び阻害された。ギルド女子寄宿舎個室の家具配置は、必要最低限のベッドとドレッサー付きデスク、備え付けのクローゼットとなっている。
そして、まだ入寮したてのアメリアの家具配置はテンプレート通りの配置となっていて、ベッドヘッドが出窓部分にピッタリとくっついていた。
だからだろうか? コツコツ、コツコツと執拗に窓をつつく鳥類特有のその音の立て方がダイレクトに聴こえるのだ。
「うーん、煩いよ鳥さん。多分、窓をつつくこの嘴っぽい音の原因は鳥さん……よね? 私の部屋の窓なんかつついても、餌はないから何処か別のところに……」
「そうはいかないのです、アメリア・アーウィン様。ワタクシ、遠路はるばる精霊都市国家アスガイアよりこの寒空の中、長時間飛び続けこちらへ馳せ参じました。ラルド様の弟君である分霊様より遣わされてのことでございます。クルックー!」
「ふぇっ? 本当に私に用事があって窓をつついていたの。それにラルドさんの分霊って……? ちょっと待ってね、今窓を開けるから。何も飲んでいないのかしら、餌はないけどお水くらいなら出せるわよ」
諸事情を説明してようやくアメリアに窓を開けてもらい、ホッとした様子で取り敢えずはドレッサーデスクに座る鳩精霊。
「クルックー! お水、ありがたく頂戴致します。はぁ……このペルキセウス産の天然水、アスガイア産の天然水よりちょっと渋みがありますがそこが刺激で生き返るぅっ」
通常の鳩よりサイズは大きく、鳩というより小さめのフクロウと言った方がしっくりくる。毛並みのカラーリングは白とグレーのオーソドックスな鳩カラーだが、流石は精霊と言うべきか郵便屋のような帽子を被り胸元には手紙を収納するポーチを装備。
よく喋るところを見ると、水分を補給して元気になったのは本当なのだろう。だが、アメリアがふとよそ見をした隙に、横目でチラッと何かを訴える視線を投げてた。もっと腹に溜まるものを……と催促しているかのようだ。
「そ、そう。お気に召したようで良かったわ。本当はお腹が空いているわよね……食事は殆どギルドカフェで済ませていたし、今日はクエストも休みだから部屋に携帯食すら無いのよ」
「いえいえ、チップの風習については御気遣いなく。基本水分補給さえできれば、あとは公園やなんかで鳩豆やらポップコーンやらを恵んで頂けますし。そう……チップをもらえなかったあの厳しい都会で、鳩豆やポップコーンを必死につつく大型公園の思い出。あと食べかけのパンクズなんかを下さる方もおりましたねぇ」
「……えぇと、あっ……私これからブランチを食べにギルドカフェに行くの。オープンテラス席なら鳥さんが側にいても気にならないだろうし、その良かったら……ギルドカフェのパン、天然酵母ですごく美味しいから好きなだけ……」
外国ではサービスを受ける側が、従業員にチップを渡す風習があると訊いた。この鳩精霊の所属が祖国アスガイアなのかはたまたペルキセウスなのかは定かではないが、精霊鳩業界の常識では彼らにチップとして鳩豆やポップコーン、パンのクズなどをあげるのが礼儀なのだろう。
途端に機嫌が良くなり、『クルックー、クルックー』と鳩特有の鳴き声で喜びをアピールし始めた。
「クルックー、あぁ……ラルド様の分霊様もこんな優しい方のところにワタクシめをよこしていただいて本当に良かった。トーラス王太子の魂を眷属として運ぶなんて大役、ワタクシに果たせるか不安で不安で仕方がなかったのですが。ペルキセウスギルドの名物天然酵母パンが頂けるならこの大役引き受けた甲斐があったというものっ!」
テンション上がりがちな鳩精霊だが、【トーラス王太子の魂を眷属として運ぶ】という凄いワードをサラッと聴いてしまった気がしてアメリアは一瞬時が止まる。
「ね、ねぇ。そのトーラス王太子の魂を眷属としてって、一体何の話?」
「はい、トーラス王太子は数日前にラルド様の分霊様と眷属契約を致したそうで。有体に申しますと、分霊様を介して本霊ラルド様の配下についたのでございますっ」
「はぁああああっ? 配下っ!」
ほんの数日前に楽しげな様子で、『僕も精霊の血を引く元神殿運営者です。彼くらい使って見せますよ』と語っていたラルドの様子を思い出す。けれどまさか、眷属として配下に置いてしまうとは思わなかったアメリアは、ラルドという精霊が大物なのではないかと体感するようになっていた。
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