エリート上司に完全に落とされるまで

琴音

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三章 和樹しか見えない

4 なんにも考えてなかった

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 俺は和樹を見つめ続けた。困ったような悲しそうな、不安が全面に出てる顔だ。会社でも家でもこんな顔見たことない。どうしたんだよ。

「……智は若い」
「うん、和樹よりはね?」

 だろ?だからずっと言えないでいるんだって。

「なんで?なにが言えないの?」

 俺は責める声にならないように気を付けた。和樹は言い淀んで瞬きも多くなってる。

「君はいつか僕から離れていく」
「はあ?どこも行かないよ?何言ってんの?」

 和樹は首を横に振る。君より長く生きてる分それが分かるんだと。

「何だよそれ!決めつけんな!」
「決めつけじゃない。僕はきっと智を繋ぎ止められなくなる」
「なんだよそれ……」

 僕は君を好きになり過ぎた。その時が来るのを怯えているんだ。だから…言えないんだって。

「その時が来たら……きっと後悔ばかりになりそうだ」
「そんなの考えなくてもいいじゃないか!」
「うん。そうだね、でもね事実だ」

 事実って…なに言ってんの?俺は和樹から離れない!こんなに大切にしてもらってなんの不満があるんだよ!俺も和樹が大切なんだと……なあ和樹、俺を見て?と顔を覗き込んだ。

「うん……智はいつまで僕のところにいてくれる?」
「いつまでもいるよ。どこにも行かない」

 そう……とまた黙った。俺が和樹から離れる?バカ言うなよ。

「和樹、膝に乗せろ」
「あ、うん」

 俺はドスンと膝に乗り抱きついた。

「なにが不安なの?俺はここにいるよ?」
「うん……」

 そう返事すると俺を抱きしめた。愛してるんだって言いながら。

「昨日蒼士と話してて……」
「うん」
「智もいつかと考えた。そうだ、智も僕より一回り近く下だったって思い出して」
「だから?」
「いなくなるかもって。取られるではなくて、飽きられていなくなるかもって……」

 もう諦めたような話し方。んな理由ないだろ。蒼士さんの話聞いて不安になったのか?

「なあ、俺が和樹を飽きるってなにを根拠に行言ってるんだか。俺たち付き合って二年弱だぞ。飽きるなんて当分ないよ」

 そう、当分だ。飽きるんだよって。ふふって力無い返事。

「失言でした。飽きません」

 速攻否定。和樹が飽きるとか言うから……彼は俺をしっかりと抱いて、

「智、人に絶対はない。僕は変わらないと感じているが、君はまだまだ出会いがあるはず。その時僕はいらなくなるはずだ」
「はあ、それはどの統計?」
「僕の統計」

 ふん。そんなので俺を決めつけんなよ。確かに先なんか分からない。でもね。

「俺からはここを出ていかない。和樹が出て行けってって言うまでね。それは約束する」
「ほんとに?」
「うん」

 俺を起こして睨むように見て本当?どこにも行かない?って。

「僕はきっとその言葉は言わない。智、少し待ってて」
「うん」

 和樹は俺を下ろして部屋に行ってしまった。なんだろう。寝室のドアを見てるとすぐに出て来た。なにか手に持って。

「智也」
「うん」

 俺の座るソファの足元に座って俺を見上げる。なにしてんの?するとふわっと優しく笑った。

「僕のお嫁さんになってずっと一緒にいて欲しいんだ。生涯のパートナーになって下さい」
「え?」

 えっと……今と何が違うのか分からない。俺は恋人だろ?パートナーと同じだろ?

「あの……今との違いが分かんないけど……」

 不安はもうないようで和樹は優しい……俺の知らない蕩けるような微笑みを浮かべた。俺は胸がドキンっと痛いくらい高鳴った。

「夫婦と同じに思って欲しいんだ。僕の恋人ではなくパートナーになって欲しい」
「あ……」

 だからずっと言えなかったのか。和樹は俺を最後の恋人と考えてたんだ。そっか……俺そんなこと全然考えてなかった。和樹が好きで一緒にいたかっただけで、その先なんか考えてもいなかった。

「か、かずき…は、その、俺が最後と決めて後悔はないのかな?」
「ないよ。きっと僕の方が君をたくさん愛してると思う。でもそれでいいんだ」

 そう……和樹とこの先ずっと一緒で、俺はパートナーで、世間の夫婦みたいなものになるのか。和樹とこうして暮らせるのか。和樹を見つめながら考えた。……胸が暖かい、気持ちがふわあっとして……

「パートナーにって言われて……和樹とずっと一緒にいられるんだって思ったら、胸があったかくなって。俺は和樹の言葉が嬉しいって思った」
「うん。どうか僕だけの智也になって下さい」

 そうか、ここで「うん」と言ったらお嫁さんになるんだ。いや、婿か?どっちでもいいか。俺がもし女性だったら適齢期なはずで、おかしくはない歳だ。

「あのね。この先思ってたのと違うってなっても返品は受け付けてないんです。それでもいいですか?」
「はい」

 優しく俺を見上げる和樹はかっこいい。賢くてイケメンで、人生をかなり先まで考えて俺にプロポーズしてくれたはず。俺はどこまでそれに応えられるか分からないけど。

「よろしくお願いします。ふつつかどころじゃないけど、よろしくお願いします」

 嬉しくて涙が溢れた。ここまで俺を大切に思ってくれていたことが嬉しくて。和樹は膝立ちで俺の頭を胸に抱いた。

「ありがとう。僕の出来る限り大切にする。いつまでも」
「うん……」

 手を出してって。ふえ?俺が手を出すと小さな箱を開けた。中には指輪がふたつ。

「ぴったりだ。僕にも付けて」
「う、うん」

 和樹の左手の薬指に指輪を入れる。お揃いの指輪だ。

「よく俺のサイズ分かったね」

 俺は手を上にかざして眺めた。ここに指輪を付けることは一生ないと思ってたんだ。キラキラ薬指が光って……なんて幸せなんだ。と、感動してると、

「ごめん。勝手に部屋を漁りました」
「あ?マジ?」

 幸せがスッとどこかに行ってしまった。和樹は苦笑いで言い訳。

「指のサイズが分からないと作れないだろ?どうすれば測れるかなって考えた時、普段のアクセサリーに指輪あったなって思い出したんだ。たまにしてたからさ」
「ああそれで……」

 本当はもっと早くに渡したかったそう。でもここに引っ越す前から蒼士さんと会うことが増えて、彼の話を聞いているうちに不安になったようだ。

「本当は素敵なレストランで夜景を見ながらとか、なにかしらの記念になりそうなところでって考えてたんだけど、そんなつもりはないとか言われたらと思うとね」
「そっか……俺は能天気に甘えてたから」

 俺がそんな感じだから不安しかなかったらしい。若いからいつかのその時が来たらなんて考えると勇気はなくなって、指輪は長いこと引き出しにしまったままに。

「俺の気持ちを聞いてくれればよかったのに」
「いや、蒼士と会うようになって、あれの話を聞くと不安しかなくなるんだよ」

 まあ俺が和樹なら……能天気に楽しんでるだけの俺を見れば不安だし、従兄弟の不穏な話ばかりなら分からないでもないか。

「でもさ、俺そこまで若くないよ?」

 いいやって和樹は首を横に振った。

「歳を重ねるうちに今度は年下もいいかな?とか、僕より素敵な人が現れるかもしれないだろ」

 まあねえ。そんな人が俺の目に入るってことは、和樹に愛想が尽きてる時だろ?ねえよ。

「俺は和樹の……なんだろう。全部が好きなんだ。俺にない物ばかり持ってるだろ?知らない世界に住んでる和樹に飽きるとかはないね」
「前みたいにイヤになったりしない?」

 俺の頬にそっと手を添えた。

「あれはごめんなさい。でも、知らないことを知る楽しさを教えてくれたのはあなたでしょう?」
「そうだね」

 チュッとされた。

「誓いのキスかな」
「んふっもっと」
「うん」

 チュッチュッとしてうちに、ねろんと舌が口に……あふっ…んふっ……

「愛してる。智を絶対に幸せにするから」
「あっ…んむっ……うん」

 気持ちが盛り上がりソファで押し倒され、後ろから突っ込まれ……俺あんあん。

「愛してる……智也」
「あっ俺も…ンッ……ゴムして……ソファ汚れ…クッ」
「今はしたくない。僕の智なんだと感じさせて」
「う、うん……」

 グチュ…くちゅと……エロい音に興奮する。それに和樹は優しいけど激しくて。今は和樹に任せる。気持ちよくて頭回らん。

「もう……あムリ…でちゃ……ふぁ、あっ」
「出していい」

 ゔぅ……もうダメ!ソファにまいちゃ……でも止めらんない!くうっ!

「中グズグズで締め付けて……堪んないね」
「してなかったから……ハァハァ…いい……」
「僕もムリかな」

 和樹が奥に押し込むとビクンビクン。吐き出すたびに穴から溢れて…なんて気持ちいいんだ……

「ハァハァ……智」
「なあに?」
「これは法的な縛りはなにもない。でもね、それに準じた物を君に上げたい」
「へ?ハァハァ……なにそれ?」

 ズルんと抜いて俺を仰向けにした。和樹は萎えた股間をそのままに、

「智也、君を僕のパートナーだと一族に認めさせる。そして、一族には嫁や婿と同等な待遇を提供してもらう」
「へ?……それは……どういう?」
「当然君の家族にも僕を認めてもらう」
「う…うそ……うちはともかく和樹んち?」
「うん」

 何をおっしゃる和樹さん……うちはまあいい。みんな知ってて触れてこない家だ。その時だけ頑張ればいい。でも、和樹んちは……いやああ!!俺は恐怖した。そこは考えてなかった!

「そのうち顔合わせしようね」
「へ?……マジで言ってる?」
「うん」

 俺は世間一般の結婚の手続きを思い浮かべた。あ~いっぱいあったよ。だいぶ俺は端折れるけど、あいさつはイヤだなあ。しくじりそうで。
 現実をつらつら考えていると俺のちんこは縮んだ。いつもなら和樹につられて勃つけど、もう無理だ。結婚雑誌でも買ってくるか?いや買わねばならぬ。

「あのね?マナーとかは……教えてね?」
「ああ。でも僕は直系じゃないからそんなに気にしなくていいよ。蒼士たちと絡むのは年に数回、向こうの招待に応じるだけだから」
「その「だけ」が怖いんだ。きちんとしたパーティとか出たことないんだよ!俺はさ!」
「ふふっ慣れだよ」

 ううっ……俺やれるのかな?後先考えないのが俺の最大の欠点だよなあ。でも和樹の側にいたい。結婚と同等と言うならば死ぬまで一緒にいていいんだよね?なら頑張るしか選択肢はない。よし!



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