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三章 和樹しか見えない
5 お祖父さん来襲……
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そうと決まれば、なにをするにも早いのが和樹。
プロポーズからふた月足らずでうちの家族との顔合わせをセッティング。親も兄貴も軽くて、休日ならと承諾してくれたから早かったんだ。
でもね、セッティングした料亭で和樹見て家族は唖然としてした。どこの御曹司?って。
仕立てのいいスーツ、営業スマイルに美しい所作。和樹の豊富な話題にどうやって見つけたんだと。
がさつなお前がこんな王子様見たいな彼を射止めるとはと。そんな失礼なことを言いながら、驚きと不審な目で見られた。そこはうるせえよ、俺も未だに分かんないんだよ。和樹の好みとしか言いようはない。
兄は霞が関の公務員、親もそこそこの会社勤めでみんな初めは客と話してるみたいだった。だけど和樹の人好きのする話し方に緊張はあっという間に解けて、みんな楽しそうにしてくれた。帰り際に父さんが和樹と向き合って、俺のために頭を下げてくれた。
「和樹さん。躾のなってない息子ですがよろしくお願いします」
「こちらこそいたりませんが、智也さんを大切にすることをお約束します」
あの瞬間、俺は本当に幸せだったんだ。涙が出そうなくらい幸せだった。
後で両親に聞いたら「お前が幸せならそれでいい」と淡々と話してくれた。父さんは特に俺に興味なさそうにしてたけど、興味がないんじゃなくて分からなかっただけだそう。今もきちんと理解しているかは分からないが、お前が幸せならそれでいいと。
和樹さんはいい人そうだし、父さんは俺を見放してたんじゃなくて、理解してないから余計なことを言わないように距離を取ってたそうだ。気遣ってくれてたとは、親ってありがたいね。
そんでその二週間後に和樹んちの家族と顔合わせしたが、よく覚えてない。緊張しまくってね。
和樹のお父さんが支配人をしてるホテルで会食だったんだ。そこは有名な店舗が多く入ってるような、お高めのホテルだった。
もうね、なに話したかも覚えてないし、素敵なイタリアンだったけど料理が美味しいのも楽しめず。粗相をしないように!って意識し過ぎたからな。
でもご両親は俺が相手なのを喜んでくれた。和樹をよろしくって。俺は緊張がピークで、
「俺は!あの!なにも出来ませんが愛してます!だから……あっ……」
俺は自分の口走ったセリフに、血の気が引いていくのが分かった。二人はクスクスと笑い、
「ありがとう。それが一番よ。和樹はその気持ちがあればいいのよね?」
「ああ。僕は智也が隣にいてくれればそれでいい」
お母さんが和樹によかったわねって言うと、和樹もありがとうって。お父さんが、
「和樹、たまには家に来なさい。拓司はこっちに来ても家に寄らないし、お前も顔を出さない。智也さんも連れてな」
「あのさ、父さんたちには時々パーティで会ってるだろ?」
「それは違うんだよ」
あれは仕事のついでだろ、家族として会いたいんだって小言を言われて終わったのが昨日。両家とも俺たちが幸せならそれでいいって。
「あのさ智」
「ん~なに?」
俺は淹れてもらったコーヒーを一口。相変わらずあのマシン泡もふわふわで美味い。
「……母方のお祖父さんが会いたいって」
ブホッ!喉にコーヒーが!鼻に逆流もした痛え!
「鼻痛い……なんで?」
涙目になりながら隣の和樹を見上げた。
「蒼士があれだから、お前のパートナーを見てみたいって」
「い…行きたくない!まだ早い!」
「昨日の今日はないよね。断っておく」
「そうして」
あの顔合わせは和樹側はご両親のみ。どちらも祖父母は来てなかったんだ。籍を入れるのとは違うから、どちらも相手を知ってもらうのが目的だからね。
和樹のお祖父さんは……グループの会長だろ?俺が普通に暮らしてたら絶対一生会わない人だ。むり。
「はあ……」
「智?」
「なんか疲れた……」
うんって肩を抱いてくれる。
「智は緊張してたもんね」
「するでしょ!女の子じゃないんだよ?お、と、こ!……ご両親は女の子期待してたんじゃないかって思ったら、なんかもういたたまれなかった」
和樹は女の人とも付き合ってたんだもん。俺じゃ残念と言われたらと思って震えてたんだよ。すると和樹はふんと鼻を鳴らし、女の子なんて元々期待していないよって。
「ただ……うちは父の名字は名乗ってはいるけど婿養子状態で、グループの経営陣のひとりになっている。だから少し難しいんだ」
「そうなの?でもお父さんのご両親もいるでしょ?そちらは?」
表面上は仲良くしてる。だけど祖父母の子供は、父の兄とあねのみと割り切っているらしい。なんで?
「あんまり関わりたくないんだって言われてる。俺たちに構うなって」
「そんな……」
決して父方のお祖父さんたちの家が貧乏とかじゃないんだ。お祖父さんは地元の名士で色んな人に慕われている方なんだそう。でもねえとため息。
「会長は身内の縁を大切にする。小さなホテル一つからここまでにしたのは会長だ。軌道に乗り始めたら兄弟も取り込んで、優秀な社員は婿や嫁にもらって拡大して来たんだ」
「ふーん」
身内は当然、従業員の家族も大切にして来たんだそう。ホテルもその頃は少なく、終身雇用の昭和はそれが当たり前だったそうだ。
「そんなだから会長は父方にも手を貸そうとする。それが迷惑らしいんだよねぇ」
「ふーん」
良かれと思ってしているんだけど、ホテルの名前を全面に押し出して地域のまつりにお金出すとか、お祖母さんが緊急で病院に運ばれた時は、病院を勝手に変更しようとしたりが嫌だったらしい。まあ、分からんでもない。
「でも僕は違う会社にいるからけっこう祖父母には会いに今でも行ってるんだ。父さんたちが忙しいのもあるけどね。歓迎してくれるよ」
「えらい」
「だろ?」
肩抱かれてるうちに幸せな気分になって、うとうと。和樹いい匂い……そのまま膝に下りて抱きついた。
「眠い……お腹いっぱいで和樹いい匂いでもうムリ」
仕方ないって頭を撫でながら、
「智はよく僕がいい匂いって言うけど……香水残ってたり、まさか…臭い?」
「違う。和樹甘い匂いがするんだ。なんの匂いと言われると分からないけど」
「そう……そう感じるなら智と僕は相性がいいんだよ。僕も智の匂い好き」
んふっ嬉しい。ただこうしてればいいんだ。疲れも癒える気がするし、和樹は俺を膝枕してくれて俺はうとうと。彼がスマホいじってる感じはしたけど、俺は……ぐう。
ガヤガヤと遠くから……なんだようるせえな………争うような……?
「和樹?」
目を擦りながら起きると枕がいない。そしてうるせえのは玄関で和樹が叫んでるからだ。何ごとだよと、俺は廊下の角からソーッと玄関を覗いた。あれ誰かいるね?
「だからさっき断ったでしょっお祖父さん!そのうち連れて行きますから!今日はお引き取りを!」
「せっかく近くに来たから寄ったのに。それでなくともお前はうちに来ないだろ。じいちゃん寂しいんだよ」
「はあ。じいちゃんなんて普段言わないでしょう!とにかく、智は疲れて寝てるから後日にして下さい!」
「え~……和樹冷たい」
かわいそうなフリして和樹の気を引こうと頑張ってる様子は、くぷぷっ孫がかわいいだな。面白がって見ていると、和樹の肩口からお祖父さんの顔がヒョコッと出て、
「あっ!智也くんだろ?」
「ゲッ」
俺はサッとリビングに戻った。和樹の努力が無駄になる!玄関で「起きてだろ入れろ!」とお祖父さんは叫んで、「待って!お祖父さん!」と聞こえた。どうも和樹を振り切ったようで、ドスドスと駆け込んで来る足音。スリッパ!履いて!とか聞こえるよ!
不味いぞ!俺は寝室のドアに手を掛けたが間に合わず。
「あはは。いた」
「お祖父さん!あっ智……」
「和樹、紹介してくれ」
蚊の鳴くような声で和樹は、はいって返事して、スリッパ履いて座ってと。
「ごめん。智こっちで座ってくれ。お祖父さんはコーヒー?お茶?」
「ああ、コーヒーでお願い」
「はい」
お祖父さんは楽しそうにソファに座った。俺は和樹を睨んだが、ごめんと目が言ってて仕方なく向かいに座り緊張しながらあいさつ。
「初めまして楠木智也と申します。和樹さんとお付き合いさせていただいてます」
「ああ、私は高村誠一郎だ。和樹の母方の祖父になる」
「はい。伺っております」
そう言うと黙って俺を眺めていた。特に表情もなく顎を擦りながらうーんって。
「お祖父さん、智也が困ってます」
「ああ、すまん」
和樹は人数分のコーヒーを用意してテーブルに置くと、俺の隣の一人がけに座った。
「さっき断ったでしょう?昨日の今日とかなに考えてるんですか」
「ふーんだ。僕は承諾はしていないよ」
「まったく……はぁ」
和樹が言うには、お祖父さんは顔合わせに参加したかったらしいんだけど、お母さんがあちらも来なかったんだからやめてと止めたらしい。それがお祖父さんは面白くなくて押しかけて来たそう。
「和樹はよくこんな子を……」
「なにか問題でも?」
お祖父様は腕を組んで感心してるだけだって微笑む。あの、俺なんか問題あるのかな。それはそれで俺が改善しないと……いやいや。俺自体の存在だよ問題があるならさ。お祖父さんは和樹の方を向いて、
「うちの身内にはいないタイプを捕まえたなあって思っただけだ」
「まあ、そうですかね」
ふたりは優雅にコーヒーを飲んでいるが、俺の背中は冷や汗が流れていた。人が来る予定もなかったからスエットにTシャツだもの。まあ、和樹もだけど。
お祖父さんはどこかに寄った帰りか、体に合った素敵なスーツをビシッと決めていた。
「智也くんは和樹の部下になるのか?」
「はいそうです」
僕が説明しますと、和樹が簡単に俺たちの会社での関係を説明。ふーんって。
「部下に手を出すとはお前……」
「そこは……僕も考えましたが、好きな気持ちが抑えられず……」
和樹は苦々しく答えてむ~ん。お祖父さんは俺に小首を傾けて不思議そうした。
「君は後悔はないのかな?」
「え?はい、ないです。よくしてもらってますし」
「ふーん」
和樹よりずいぶん年下に見えるけど、もっといい人現れるとは考えなかったの?って。
「まったく」
和樹は肩から息を吐いてやめて下さいって。
「お祖父さん、それを言ったらキリがありません。智也も僕もそれは同じだ」
ふふんとお祖父さんは不敵に鼻で笑った。
「お前はもういい歳だけど彼は若い。僕もそれなりに調べたし、蒼士に聞いたりもしたんだ」
和樹はそれこそ深いため息。
「あのですね。蒼士は参考になりませんよ。お祖父さん知ってるでしょう。あれは真剣なふりして遊んでるようなものでしょう」
「まあ、アレのは話半分だけどね」
お祖父様はとても和樹に似ていた。顔はもちろんだが、雰囲気がご両親よりずっと似ている。スラッとして優雅で、自分に自信があるのが佇まいで分かる人だ。そして凛とした中に遊び心があるようないつも楽しいって感じ。
よくいる社長とは雰囲気が違うんだ。あの……そう!狸親父風味が全くない。
若い頃はきっとイケメンだったろうって風貌で、今もイケジジって感じ。和樹の一族がかっこいいのはこの人の遺伝かな。お母様もきれいだったもんね。
「和樹、若さは宝ものだよ。出会いも機会もたくさんやってくる」
「そうですね。でも智也はそこまで若くありませんし、それは……」
確かに若くはないし、出会いなんて俺にはなかった。彰人まで本当にいなかったんだ。
「智也はいい子です。僕には必要なんです」
「ふーん。智也くんもそうなの?」
「はい」
そっかって。それだけ和樹が入れあげるのなら君は素晴らしいんだろうって。僕は和樹を一族で一番買っているんだよとニッコリした。
「和樹がグループに来ないなら君が来ないか?代わりにさ」
「ふえ?」
いい加減にして下さいと和樹が話しに割って入った。
「お祖父様。智也はうちの会社が好きで入社したんです。転職なんかしませんよ」
「お前に聞いてないよ。智也くんどう?」
俺?俺はうちの会社好きだから考えられない。いつか開発部に行きたい気持ちも捨ててはいしね。一応バイオ研究をしてたから望みは捨てていない。
「俺に接客は無理です。あんまり要領いい方ではないんですよ」
「うーん。そうは見えないけどね」
「お祖父様、怒りますよ」
「ふん。ならふたりで来ればいい」
「もっと嫌です」
和樹はコーヒーを飲んで、
「お祖父さんが智也を気に入ったのは分かりました。ですが嫌です」
「はぁ……お前は昔から僕の言うことを何一つ聞かないよね。なぜだ?」
「あなたに似てるからですよ。自分の力で生きたいんです」
「ここに住んでて?」
和樹はふふんと、なんとも言えない挑戦的な顔をして笑った。
「別にここでなくても、自分でこの辺の部屋は借りられますし、買えます。ケチってるだけですよ」
「ほほう?お前の会社の給料でか?」
「お祖父さん甘いですね。僕の資産を知らないでしょう?」
あなたや一族の方が下さったお年玉やお小遣いを運用して今やうん億超え、今も増えていますからお金に困っていませんと。
マジか!俺聞いたことないぞ!マンションを少し持ってるとは聞いたけど。
「……やっぱりな。匠海たちより賢かったか」
お祖父さんは悔しそうだし、和樹は畳み掛けるように、
「僕はグループに入りたくなかった。引かれたレールを走って生きるのは違うと、強く思っているんです。お祖父さんは尊敬してますけどね」
家族としても好きです。ですが、これは違うんですって言い切る。
「あ~あ。だからお前には来て欲しかったんだ。お前ならグループをもっと成長させられたはずなんだよ」
「僕は……しがらみのない…自由でいたいんです」
そうか、残念だなって。まあいいと腕時計をチラッと見て、たまに顔を見せろと立ち上がり、玄関に着いて、
「いきなり来て悪かった。僕は智也くんを好ましく思う。それにうちの仕事が向いていると感じるんだよね」
和樹はニコッとお祖父さんに微笑んで、
「智也はきっとそちらでも活躍出来るでしょう。ですが、お祖父さんにはあげません」
靴を履きながら、お祖父さんは和樹の話を聞いていたが、ほうって。
「なんだ、お前も分かってたのか、そうか。まあ今日は引くよ。智也くん、和樹をよろしくね」
「はい!俺が出来る限り」
うんとお祖父さんは頷いて俺たちを見上げた。
「今度来るときは連絡を。お祖父さん」
「ああ。次はふたりで遊びに来なさい」
「はい」
玄関のドアをお祖父さんが開けると秘書の方がいた。ええ?外で待ってたの?……すげぇ。
またなって俺たちに手を振ってお祖父様は帰って行って、玄関ドアが閉まると俺は肩の力が抜けて床にへたり込んだ。緊張し過ぎてたよ。
「大丈夫か?」
「うん……和樹に似てたね」
「ああ、よく言われる。顔も中身もよく似てるってね」
「そう……」
途中から穏やかなフリしたバトルに俺は耐えた。あれは微笑んでケンカしてたね。マングースとコブラのようだった……
ほら立ってと手を差し出されて掴んで起こされながら、俺は和樹を全然知らないんだと本気で思ったね。穏やかにブチ切れてる和樹もお祖父さんも怖くて、よく似ていた。
和樹にリビングに行くよって手を引かれながら、お祖父さんの和樹を諦めない気持ちも少しわかる気がした。
「もう寝ないんだったら出かけるよ。僕観るの忘れてた映画があるんだ。今週で終わるからさ」
「うん」
和樹はすでに切り替えてて、着替えろ智!って。あはは、この切り替えの早さも和樹らしくていいや。
プロポーズからふた月足らずでうちの家族との顔合わせをセッティング。親も兄貴も軽くて、休日ならと承諾してくれたから早かったんだ。
でもね、セッティングした料亭で和樹見て家族は唖然としてした。どこの御曹司?って。
仕立てのいいスーツ、営業スマイルに美しい所作。和樹の豊富な話題にどうやって見つけたんだと。
がさつなお前がこんな王子様見たいな彼を射止めるとはと。そんな失礼なことを言いながら、驚きと不審な目で見られた。そこはうるせえよ、俺も未だに分かんないんだよ。和樹の好みとしか言いようはない。
兄は霞が関の公務員、親もそこそこの会社勤めでみんな初めは客と話してるみたいだった。だけど和樹の人好きのする話し方に緊張はあっという間に解けて、みんな楽しそうにしてくれた。帰り際に父さんが和樹と向き合って、俺のために頭を下げてくれた。
「和樹さん。躾のなってない息子ですがよろしくお願いします」
「こちらこそいたりませんが、智也さんを大切にすることをお約束します」
あの瞬間、俺は本当に幸せだったんだ。涙が出そうなくらい幸せだった。
後で両親に聞いたら「お前が幸せならそれでいい」と淡々と話してくれた。父さんは特に俺に興味なさそうにしてたけど、興味がないんじゃなくて分からなかっただけだそう。今もきちんと理解しているかは分からないが、お前が幸せならそれでいいと。
和樹さんはいい人そうだし、父さんは俺を見放してたんじゃなくて、理解してないから余計なことを言わないように距離を取ってたそうだ。気遣ってくれてたとは、親ってありがたいね。
そんでその二週間後に和樹んちの家族と顔合わせしたが、よく覚えてない。緊張しまくってね。
和樹のお父さんが支配人をしてるホテルで会食だったんだ。そこは有名な店舗が多く入ってるような、お高めのホテルだった。
もうね、なに話したかも覚えてないし、素敵なイタリアンだったけど料理が美味しいのも楽しめず。粗相をしないように!って意識し過ぎたからな。
でもご両親は俺が相手なのを喜んでくれた。和樹をよろしくって。俺は緊張がピークで、
「俺は!あの!なにも出来ませんが愛してます!だから……あっ……」
俺は自分の口走ったセリフに、血の気が引いていくのが分かった。二人はクスクスと笑い、
「ありがとう。それが一番よ。和樹はその気持ちがあればいいのよね?」
「ああ。僕は智也が隣にいてくれればそれでいい」
お母さんが和樹によかったわねって言うと、和樹もありがとうって。お父さんが、
「和樹、たまには家に来なさい。拓司はこっちに来ても家に寄らないし、お前も顔を出さない。智也さんも連れてな」
「あのさ、父さんたちには時々パーティで会ってるだろ?」
「それは違うんだよ」
あれは仕事のついでだろ、家族として会いたいんだって小言を言われて終わったのが昨日。両家とも俺たちが幸せならそれでいいって。
「あのさ智」
「ん~なに?」
俺は淹れてもらったコーヒーを一口。相変わらずあのマシン泡もふわふわで美味い。
「……母方のお祖父さんが会いたいって」
ブホッ!喉にコーヒーが!鼻に逆流もした痛え!
「鼻痛い……なんで?」
涙目になりながら隣の和樹を見上げた。
「蒼士があれだから、お前のパートナーを見てみたいって」
「い…行きたくない!まだ早い!」
「昨日の今日はないよね。断っておく」
「そうして」
あの顔合わせは和樹側はご両親のみ。どちらも祖父母は来てなかったんだ。籍を入れるのとは違うから、どちらも相手を知ってもらうのが目的だからね。
和樹のお祖父さんは……グループの会長だろ?俺が普通に暮らしてたら絶対一生会わない人だ。むり。
「はあ……」
「智?」
「なんか疲れた……」
うんって肩を抱いてくれる。
「智は緊張してたもんね」
「するでしょ!女の子じゃないんだよ?お、と、こ!……ご両親は女の子期待してたんじゃないかって思ったら、なんかもういたたまれなかった」
和樹は女の人とも付き合ってたんだもん。俺じゃ残念と言われたらと思って震えてたんだよ。すると和樹はふんと鼻を鳴らし、女の子なんて元々期待していないよって。
「ただ……うちは父の名字は名乗ってはいるけど婿養子状態で、グループの経営陣のひとりになっている。だから少し難しいんだ」
「そうなの?でもお父さんのご両親もいるでしょ?そちらは?」
表面上は仲良くしてる。だけど祖父母の子供は、父の兄とあねのみと割り切っているらしい。なんで?
「あんまり関わりたくないんだって言われてる。俺たちに構うなって」
「そんな……」
決して父方のお祖父さんたちの家が貧乏とかじゃないんだ。お祖父さんは地元の名士で色んな人に慕われている方なんだそう。でもねえとため息。
「会長は身内の縁を大切にする。小さなホテル一つからここまでにしたのは会長だ。軌道に乗り始めたら兄弟も取り込んで、優秀な社員は婿や嫁にもらって拡大して来たんだ」
「ふーん」
身内は当然、従業員の家族も大切にして来たんだそう。ホテルもその頃は少なく、終身雇用の昭和はそれが当たり前だったそうだ。
「そんなだから会長は父方にも手を貸そうとする。それが迷惑らしいんだよねぇ」
「ふーん」
良かれと思ってしているんだけど、ホテルの名前を全面に押し出して地域のまつりにお金出すとか、お祖母さんが緊急で病院に運ばれた時は、病院を勝手に変更しようとしたりが嫌だったらしい。まあ、分からんでもない。
「でも僕は違う会社にいるからけっこう祖父母には会いに今でも行ってるんだ。父さんたちが忙しいのもあるけどね。歓迎してくれるよ」
「えらい」
「だろ?」
肩抱かれてるうちに幸せな気分になって、うとうと。和樹いい匂い……そのまま膝に下りて抱きついた。
「眠い……お腹いっぱいで和樹いい匂いでもうムリ」
仕方ないって頭を撫でながら、
「智はよく僕がいい匂いって言うけど……香水残ってたり、まさか…臭い?」
「違う。和樹甘い匂いがするんだ。なんの匂いと言われると分からないけど」
「そう……そう感じるなら智と僕は相性がいいんだよ。僕も智の匂い好き」
んふっ嬉しい。ただこうしてればいいんだ。疲れも癒える気がするし、和樹は俺を膝枕してくれて俺はうとうと。彼がスマホいじってる感じはしたけど、俺は……ぐう。
ガヤガヤと遠くから……なんだようるせえな………争うような……?
「和樹?」
目を擦りながら起きると枕がいない。そしてうるせえのは玄関で和樹が叫んでるからだ。何ごとだよと、俺は廊下の角からソーッと玄関を覗いた。あれ誰かいるね?
「だからさっき断ったでしょっお祖父さん!そのうち連れて行きますから!今日はお引き取りを!」
「せっかく近くに来たから寄ったのに。それでなくともお前はうちに来ないだろ。じいちゃん寂しいんだよ」
「はあ。じいちゃんなんて普段言わないでしょう!とにかく、智は疲れて寝てるから後日にして下さい!」
「え~……和樹冷たい」
かわいそうなフリして和樹の気を引こうと頑張ってる様子は、くぷぷっ孫がかわいいだな。面白がって見ていると、和樹の肩口からお祖父さんの顔がヒョコッと出て、
「あっ!智也くんだろ?」
「ゲッ」
俺はサッとリビングに戻った。和樹の努力が無駄になる!玄関で「起きてだろ入れろ!」とお祖父さんは叫んで、「待って!お祖父さん!」と聞こえた。どうも和樹を振り切ったようで、ドスドスと駆け込んで来る足音。スリッパ!履いて!とか聞こえるよ!
不味いぞ!俺は寝室のドアに手を掛けたが間に合わず。
「あはは。いた」
「お祖父さん!あっ智……」
「和樹、紹介してくれ」
蚊の鳴くような声で和樹は、はいって返事して、スリッパ履いて座ってと。
「ごめん。智こっちで座ってくれ。お祖父さんはコーヒー?お茶?」
「ああ、コーヒーでお願い」
「はい」
お祖父さんは楽しそうにソファに座った。俺は和樹を睨んだが、ごめんと目が言ってて仕方なく向かいに座り緊張しながらあいさつ。
「初めまして楠木智也と申します。和樹さんとお付き合いさせていただいてます」
「ああ、私は高村誠一郎だ。和樹の母方の祖父になる」
「はい。伺っております」
そう言うと黙って俺を眺めていた。特に表情もなく顎を擦りながらうーんって。
「お祖父さん、智也が困ってます」
「ああ、すまん」
和樹は人数分のコーヒーを用意してテーブルに置くと、俺の隣の一人がけに座った。
「さっき断ったでしょう?昨日の今日とかなに考えてるんですか」
「ふーんだ。僕は承諾はしていないよ」
「まったく……はぁ」
和樹が言うには、お祖父さんは顔合わせに参加したかったらしいんだけど、お母さんがあちらも来なかったんだからやめてと止めたらしい。それがお祖父さんは面白くなくて押しかけて来たそう。
「和樹はよくこんな子を……」
「なにか問題でも?」
お祖父様は腕を組んで感心してるだけだって微笑む。あの、俺なんか問題あるのかな。それはそれで俺が改善しないと……いやいや。俺自体の存在だよ問題があるならさ。お祖父さんは和樹の方を向いて、
「うちの身内にはいないタイプを捕まえたなあって思っただけだ」
「まあ、そうですかね」
ふたりは優雅にコーヒーを飲んでいるが、俺の背中は冷や汗が流れていた。人が来る予定もなかったからスエットにTシャツだもの。まあ、和樹もだけど。
お祖父さんはどこかに寄った帰りか、体に合った素敵なスーツをビシッと決めていた。
「智也くんは和樹の部下になるのか?」
「はいそうです」
僕が説明しますと、和樹が簡単に俺たちの会社での関係を説明。ふーんって。
「部下に手を出すとはお前……」
「そこは……僕も考えましたが、好きな気持ちが抑えられず……」
和樹は苦々しく答えてむ~ん。お祖父さんは俺に小首を傾けて不思議そうした。
「君は後悔はないのかな?」
「え?はい、ないです。よくしてもらってますし」
「ふーん」
和樹よりずいぶん年下に見えるけど、もっといい人現れるとは考えなかったの?って。
「まったく」
和樹は肩から息を吐いてやめて下さいって。
「お祖父さん、それを言ったらキリがありません。智也も僕もそれは同じだ」
ふふんとお祖父さんは不敵に鼻で笑った。
「お前はもういい歳だけど彼は若い。僕もそれなりに調べたし、蒼士に聞いたりもしたんだ」
和樹はそれこそ深いため息。
「あのですね。蒼士は参考になりませんよ。お祖父さん知ってるでしょう。あれは真剣なふりして遊んでるようなものでしょう」
「まあ、アレのは話半分だけどね」
お祖父様はとても和樹に似ていた。顔はもちろんだが、雰囲気がご両親よりずっと似ている。スラッとして優雅で、自分に自信があるのが佇まいで分かる人だ。そして凛とした中に遊び心があるようないつも楽しいって感じ。
よくいる社長とは雰囲気が違うんだ。あの……そう!狸親父風味が全くない。
若い頃はきっとイケメンだったろうって風貌で、今もイケジジって感じ。和樹の一族がかっこいいのはこの人の遺伝かな。お母様もきれいだったもんね。
「和樹、若さは宝ものだよ。出会いも機会もたくさんやってくる」
「そうですね。でも智也はそこまで若くありませんし、それは……」
確かに若くはないし、出会いなんて俺にはなかった。彰人まで本当にいなかったんだ。
「智也はいい子です。僕には必要なんです」
「ふーん。智也くんもそうなの?」
「はい」
そっかって。それだけ和樹が入れあげるのなら君は素晴らしいんだろうって。僕は和樹を一族で一番買っているんだよとニッコリした。
「和樹がグループに来ないなら君が来ないか?代わりにさ」
「ふえ?」
いい加減にして下さいと和樹が話しに割って入った。
「お祖父様。智也はうちの会社が好きで入社したんです。転職なんかしませんよ」
「お前に聞いてないよ。智也くんどう?」
俺?俺はうちの会社好きだから考えられない。いつか開発部に行きたい気持ちも捨ててはいしね。一応バイオ研究をしてたから望みは捨てていない。
「俺に接客は無理です。あんまり要領いい方ではないんですよ」
「うーん。そうは見えないけどね」
「お祖父様、怒りますよ」
「ふん。ならふたりで来ればいい」
「もっと嫌です」
和樹はコーヒーを飲んで、
「お祖父さんが智也を気に入ったのは分かりました。ですが嫌です」
「はぁ……お前は昔から僕の言うことを何一つ聞かないよね。なぜだ?」
「あなたに似てるからですよ。自分の力で生きたいんです」
「ここに住んでて?」
和樹はふふんと、なんとも言えない挑戦的な顔をして笑った。
「別にここでなくても、自分でこの辺の部屋は借りられますし、買えます。ケチってるだけですよ」
「ほほう?お前の会社の給料でか?」
「お祖父さん甘いですね。僕の資産を知らないでしょう?」
あなたや一族の方が下さったお年玉やお小遣いを運用して今やうん億超え、今も増えていますからお金に困っていませんと。
マジか!俺聞いたことないぞ!マンションを少し持ってるとは聞いたけど。
「……やっぱりな。匠海たちより賢かったか」
お祖父さんは悔しそうだし、和樹は畳み掛けるように、
「僕はグループに入りたくなかった。引かれたレールを走って生きるのは違うと、強く思っているんです。お祖父さんは尊敬してますけどね」
家族としても好きです。ですが、これは違うんですって言い切る。
「あ~あ。だからお前には来て欲しかったんだ。お前ならグループをもっと成長させられたはずなんだよ」
「僕は……しがらみのない…自由でいたいんです」
そうか、残念だなって。まあいいと腕時計をチラッと見て、たまに顔を見せろと立ち上がり、玄関に着いて、
「いきなり来て悪かった。僕は智也くんを好ましく思う。それにうちの仕事が向いていると感じるんだよね」
和樹はニコッとお祖父さんに微笑んで、
「智也はきっとそちらでも活躍出来るでしょう。ですが、お祖父さんにはあげません」
靴を履きながら、お祖父さんは和樹の話を聞いていたが、ほうって。
「なんだ、お前も分かってたのか、そうか。まあ今日は引くよ。智也くん、和樹をよろしくね」
「はい!俺が出来る限り」
うんとお祖父さんは頷いて俺たちを見上げた。
「今度来るときは連絡を。お祖父さん」
「ああ。次はふたりで遊びに来なさい」
「はい」
玄関のドアをお祖父さんが開けると秘書の方がいた。ええ?外で待ってたの?……すげぇ。
またなって俺たちに手を振ってお祖父様は帰って行って、玄関ドアが閉まると俺は肩の力が抜けて床にへたり込んだ。緊張し過ぎてたよ。
「大丈夫か?」
「うん……和樹に似てたね」
「ああ、よく言われる。顔も中身もよく似てるってね」
「そう……」
途中から穏やかなフリしたバトルに俺は耐えた。あれは微笑んでケンカしてたね。マングースとコブラのようだった……
ほら立ってと手を差し出されて掴んで起こされながら、俺は和樹を全然知らないんだと本気で思ったね。穏やかにブチ切れてる和樹もお祖父さんも怖くて、よく似ていた。
和樹にリビングに行くよって手を引かれながら、お祖父さんの和樹を諦めない気持ちも少しわかる気がした。
「もう寝ないんだったら出かけるよ。僕観るの忘れてた映画があるんだ。今週で終わるからさ」
「うん」
和樹はすでに切り替えてて、着替えろ智!って。あはは、この切り替えの早さも和樹らしくていいや。
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だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
イケメン天才画家に溺愛されて、灰色の世界が色づきました
砂原紗藍
BL
描いて、触れて、好きになる。
“色が見えない僕”を、イケメン天才画家が全力で甘やかす。
大学生の七瀬ユウは、透明感のある美少年としてちょっとした噂の的。
けれどユウは“色”が見えない。
一年前、心が壊れ、灰色に沈んだ日々を送っていた。
そんなユウの前に現れたのは、イケメンの若手画家・高来 湊。
出会って早々、湊はユウをモデルにスカウトしてきて――
「君、すっごく可愛い。俺に描かせて?」
強引だけど面倒見がよく、意外と優しい湊。
実は彼は、作品が三億で落札されるほどの“とんでもない天才画家”。
そして、週一のセッションで、ユウの世界は少しずつ“変化”し始める。
ところが、とあるトラブルをきっかけに距離が縮まりすぎてしまい、湊の溺愛スイッチが完全に入ってしまって……?
「ユウは俺が守る。絶対に」
これは、色を失っていた大学生が、イケメン天才画家に甘やかされて恋に落ちていく物語。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
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